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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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205話 海上都市

巨大漁場の発見。


海洋連盟との交流。


冷凍技術の共有。


それらはアルカディア連邦へ新たな変化をもたらしていた。


漁業革命は終わらない。


むしろ始まったばかりだった。


海上探索船団の厨房では、その日も料理教師たちが魚料理の研究を続けていた。


大鍋から白い蒸気が立ち上る。


巨大な白身魚。


蒸し料理である。


料理教師長が魚の状態を確認する。


「火は通った」


「次だ」


隣では薬師リーンの研究班が準備を進めていた。


細かく刻まれた韮。


醤油。


砂糖。


香味油。


既に完成している発酵調味料を組み合わせた特製の合わせ調味料だった。


魚の上へ韮を乗せる。


その直後。


高温に熱した油を一気に流し込んだ。


ジュワァァァァァッ!!


船内へ音が響く。


韮の香りが一気に立ち上る。


周囲から歓声が上がった。


「いい香り!」


「これは凄い!」


「今までと全然違う!」


魚料理研究班は興奮していた。


さらに。


合わせ調味料を上からかける。


醤油の香り。


砂糖の甘み。


韮の刺激。


熱した油による香りの爆発。


蒸した魚の上で全てが一体化した。


試食が始まる。


最初に箸を伸ばしたのはマーガレットだった。


最近では完全に魚料理の虜になっている。


一口。


二口。


三口。


無言。


周囲が緊張する。


やがて。


マーガレットが深く息を吐いた。


「危険ね」


また同じ言葉だった。


「今度は何が危険なんです?」


側近が苦笑する。


マーガレットは真剣だった。


「魚料理が進化し続けていることよ」


「これを毎日食べたい」


会場が笑いに包まれた。


しかし。


誰も否定できなかった。


味は本当に素晴らしかった。


刺身。


しゃぶしゃぶ。


焼き魚。


煮魚。


そして蒸し魚。


魚料理の幅が急速に広がっていた。


リーンは研究記録へ書き込む。


『韮』


『熱油』


『醤油』


『砂糖』


『組み合わせ極めて良好』


研究結果は即座に共有された。


アルカディア連邦の強みはここにある。


情報が止まらない。


教師がいる。


教導スキルがある。


教育網がある。


研究成果は数日で大陸全土へ伝達される。


一週間後。


本土各地で同じ料理が作られ始めた。


農家は韮の増産を開始。


香味野菜の生産量がさらに伸びる。


農業革命と漁業革命。


二つは完全に結び付いていた。


その頃。


探索船団には新たな招待状が届いていた。


海洋連盟からである。


差出人はシャチ族長オルカ。


内容は簡潔だった。


『海上都市へ招待する』


エミリーは手紙を見つめた。


ソフィアが笑う。


「面白そうだな」


カタリナも頷く。


「行こう」


セリナも異論はない。


「交流は続けるべきです」


こうして。


探索船団は海上都市へ向かった。


数日後。


彼らは初めて見る光景に言葉を失った。


海の上に都市があった。


巨大だった。


信じられないほど巨大だった。


無数の浮島。


無数の桟橋。


巨大な浮遊建築。


海面に広がる街。


海と共に生きる文明。


シャチ族。


イルカ族。


サメ族。


それぞれの文化が混ざり合っている。


海上都市アクアマリナ。


海洋連盟最大の都市だった。


巨大探索船が港へ入る。


歓迎の鐘が鳴る。


イルカ族の子供たちが泳ぐ。


シャチ族の戦士たちが整列する。


サメ族の商人たちが露店を開く。


活気に満ちていた。


エミリーたちは上陸する。


オルカが出迎えた。


「ようこそ」


「友人たちよ」


その言葉に敵意はなかった。


心からの歓迎だった。


案内が始まる。


まず見せられたのは海洋農場。


海藻畑。


巨大貝の養殖。


魚の管理施設。


アルカディアとは違う発想だった。


海を畑にしている。


ソフィアが感心する。


「なるほど」


「海の農業か」


オルカが笑う。


「君たちが陸を育てたように」


「我々は海を育てる」


環境が人を育てる。


その言葉を思い出す。


海で生きる者は海に適応する。


陸で生きる者は陸に適応する。


教育が加われば。


さらに成長する。


続いて案内されたのは市場だった。


驚くほど発展している。


海産物。


海藻加工品。


真珠。


海底鉱石。


未知の素材。


アルカディアの商人たちが目を輝かせる。


トミーなら卒倒するだろう。


そう思うほどの宝庫だった。


そして。


海上都市側も驚いていた。


アルカディアから持ち込まれた品々。


紡織製品。


工具。


冷凍設備。


保存食。


魔道具。


教育教材。


彼らにとっても未知の技術だった。


互いに学ぶ。


互いに教える。


交流とはそういうものだった。


夜。


歓迎宴が開かれる。


巨大な広場。


海風が吹く。


無数の灯りが揺れる。


料理が並ぶ。


海洋連盟の料理。


アルカディアの料理。


文化が混ざり合う。


そこへ。


昼間研究された蒸し魚料理も出された。


海上都市の住民たちが食べる。


最初は驚く。


次に笑う。


最後に取り合いになる。


オルカが大笑いした。


「なるほど!」


「魚はまだ進化するのか!」


会場が盛り上がる。


イルカ族も喜ぶ。


サメ族も喜ぶ。


アルカディア側も嬉しそうだった。


文化が広がる。


技術が広がる。


食が広がる。


戦争では生まれないものだった。


宴の終わり。


オルカは海を見ながら言った。


「昔は恐れていた」


「外の世界を」


静かな声だった。


「侵略されると思っていた」


「奪われると思っていた」


エミリーは黙って聞く。


オルカは続けた。


「だが違った」


「君たちは教育を持ってきた」


「技術を持ってきた」


「共に成長する道を持ってきた」


その言葉に誰も反論しなかった。


アルカディア連邦がここまで大きくなった理由。


それは支配ではない。


教育だった。


人材育成だった。


環境づくりだった。


海上都市の灯りが海面へ映る。


美しい光景だった。


海の民。


陸の民。


異なる文化。


異なる環境。


それでも。


学び続ける者同士なら理解できる。


環境が人を育てる。


その思想は。


今や大陸だけではない。


海へも広がっていた。


そして誰も知らない。


さらに遠い海の向こうにも。


新しい出会いが待っていることを。







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