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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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204話 海の民

巨大漁場発見から数か月。


アルカディア連邦は新たな発展段階へ入っていた。


農業革命。


紡織産業。


工業。


教育。


そして漁業革命。


魚はもはや珍しい食材ではない。


連邦全土の食卓へ並び始めていた。


港では毎日大量の魚が水揚げされる。


巨大ゴーレム探索船。


小型ゴーレム漁船。


冷凍輸送船。


全てが休むことなく稼働していた。


その日。


大洋調査部隊は新たな発見をする。


「反応あり」


鳥人族教師ミシェルが報告した。


クレヤボヤンス。


リモート・ビューイング。


索敵魔法。


超能力。


複数の索敵能力が同じ結果を示していた。


海中に知性体。


数百。


いや。


数千。


エミリーが海図を見つめる。


「魔物じゃないわね」


セリナが頷いた。


「文明があります」


「建造物も確認」


巨大探索船の会議室が静まり返る。


未知の文明。


未知の種族。


戦争か。


交流か。


慎重な判断が求められる。


数時間後。


海面が揺れた。


海の中から姿を現したのは。


獣人だった。


しかし。


陸の獣人ではない。


黒と白の模様を持つ大柄な種族。


青い肌を持つしなやかな種族。


鋭い歯を持つ戦士たち。


シャチの獣人。


イルカの獣人。


サメの獣人。


誰もが海を自在に泳いでいた。


武器は持っている。


しかし敵意はない。


先頭にいた女性が口を開く。


「我々は海洋連盟」


「シャチ族の長、オルカ」


背後から。


イルカ族。


サメ族。


次々と名乗る。


エミリーも前へ出る。


「アルカディア連邦」


「私はエミリー」


「調査団代表よ」


しばし沈黙。


互いに観察する。


緊張はあった。


しかし殺気はない。


やがて。


シャチ族の長が笑った。


「魚を取り過ぎる侵略者なら戦うつもりだった」


「違うようだな」


その言葉で空気が変わる。


ソフィアが笑う。


「なら安心だ」


「私たちも戦う気はない」


こうして。


初めての接触は成功した。


戦争は起きなかった。


交流が始まった。


海の民たちは驚いていた。


アルカディア連邦の教育水準。


工業技術。


魔法技術。


超能力教育。


そして。


冷凍技術。


特に反応が大きかった。


海の民にとって魚は豊富だった。


しかし保存が難しかった。


それは彼らの長年の課題だった。


工業部隊が冷凍庫を見せる。


氷属性魔法。


水属性魔法。


温度維持魔道具。


魔力循環制御。


数か月保存可能な技術。


シャチ族たちは言葉を失った。


「信じられん……」


「冬まで保存できるのか」


「腐らないのか」


工業教師たちは説明する。


教育方法。


製造方法。


維持方法。


海の民は夢中で学んだ。


環境が人を育てる。


それは海でも同じだった。


交流が進む。


魚の種類も増える。


海の民しか知らない魚。


深海魚。


大型魚。


回遊魚。


海藻。


甲殻類。


新たな食材が次々と持ち込まれた。


そして。


アルカディア本土。


ヴァレリア商会本部。


マーガレット・ヴァレリアは机に並ぶ魚料理を見つめていた。


焼き魚。


煮魚。


刺身。


しゃぶしゃぶ。


魚鍋。


魚の揚げ物。


魚団子。


魚の燻製。


以前なら興味を示さなかった。


しかし今は違う。


一口。


刺身を食べる。


二口。


しゃぶしゃぶを食べる。


三口。


焼き魚を食べる。


そして。


彼女は静かに呟いた。


「これは危険ね」


側近が首を傾げる。


「何がです?」


マーガレットは真顔だった。


「毎日食べたくなる」


会議室が爆笑に包まれた。


完全に魚食へはまっていた。


特に刺身。


特にしゃぶしゃぶ。


商会本部の料理人たちは頭を抱えた。


毎日魚料理を要求されるからだ。


しかし。


マーガレットは商人でもある。


すぐに別のことへ気付いた。


「待ちなさい」


「魚だけじゃないわ」


料理人たちを見る。


「周りが弱い」


全員が止まる。


魚は完成している。


問題は付け合わせだった。


薬味だった。


そこから。


新たな研究が始まった。


魚料理研究第二段階。


付け合わせ研究。


薬味研究。


参加者は料理教師。


薬師リーン。


調味料職人。


農業教師。


数千人規模だった。


まず根菜。


大根。


蕪。


人参。


様々な種類が試される。


次に葉物。


香草。


薬草。


野菜。


さらに。


大蒜。


生姜。


山椒。


葱。


韮。


油。


あらゆる組み合わせが試された。


リーンが研究記録をまとめる。


「生姜は魚の香りを整える」


「葱は脂との相性が良い」


「山椒は大型魚に合う」


「大蒜は焼き魚向き」


発見が続く。


料理教師たちは興奮していた。


新しい世界だった。


焼き魚に大根おろし。


刺身に葱。


しゃぶしゃぶに香草。


魚鍋に韮。


魚の揚げ物に香味油。


一つ完成するたび歓声が上がる。


教育都市でも研究が始まる。


農業教師たちは考える。


「魚料理専用野菜を作れないか」


畑が変わる。


香味野菜の生産量が急増する。


農業革命。


漁業革命。


二つが結びついた。


食文化はさらに進化した。


一年後。


統計が発表される。


魚消費量。


前年比四倍。


香味野菜生産量。


前年比六倍。


冷凍倉庫数。


前年比十倍。


海洋交易量。


前年比十二倍。


連邦経済はさらに成長していた。


そして。


最も変わったのは人だった。


海の民は冷凍技術を学んだ。


アルカディアは海洋技術を学んだ。


料理人は新しい料理を覚えた。


農民は新しい作物を育てた。


商人は新しい市場を開拓した。


教師は新しい教材を作った。


環境が人を育てる。


かつて貧困村だった場所から始まった思想。


それは大陸を超え。


海へ広がっていた。


海の民との交流。


冷凍技術の発展。


魚料理文化の進化。


全ての中心にあるのは同じだった。


教育。


学び。


人材。


資源が国家を作るのではない。


人材が国家を作る。


アルカディア連邦は。


再びその事実を証明していた。


そして大洋の向こうには。


まだ誰も知らない海が広がっている。


新しい出会い。


新しい技術。


新しい環境。


それらはまた。


新たな人材を育てることになるのだった。







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