202話 巨大漁場発見
大洋調査が始まって三か月。
アルカディア連邦史上最大の探索計画は、予想を超える成果を上げ続けていた。
巨大ゴーレム探索船。
その甲板には、常時千人以上の専門家が乗船している。
索敵部隊五百人。
工業部隊三百人。
治癒部隊百人。
薬師部隊百人。
さらに研究者や航海士も加わる。
しかし長期間の航海は負担も大きい。
そこでアルカディア連邦は新しい運用方法を採用していた。
転移ローテーション制度。
空間属性覚醒者たちが構築した巨大転移陣。
探索船と本土を常時接続。
一週間ごとに部隊を交代する。
疲労した者は本土へ戻る。
新しい人員が補充される。
結果。
誰も疲弊しない。
誰も無理をしない。
教育国家らしい合理的な運用だった。
巨大船の最前方。
エミリーは海を見つめていた。
風が吹く。
青い海。
果てしない水平線。
狼獣人の鋭い感覚が海の匂いを捉える。
「平和ね」
隣にいたリーヴが笑う。
「そうですね」
かつて。
二人は盗賊と戦い続けた。
奴隷商と戦い続けた。
村を守るために血を流した。
それが今では。
未知の海を調査している。
人生は不思議なものだった。
その時だった。
上空から急降下してくる影があった。
ミシェルだった。
鳥人族の翼が風を切る。
「報告!」
「西方百キロ地点!」
「異常な生体反応です!」
全員の表情が変わる。
索敵部隊が動く。
遠隔透視。
透視。
念聴。
探索魔法。
数百人規模で発動される。
次の瞬間。
索敵部隊の顔色が変わった。
「な……」
「なんだこれは……」
誰もが絶句した。
海中。
数十キロ四方。
魚。
魚。
魚。
魚。
魚。
海が黒く見えるほど魚がいた。
巨大魚群。
超巨大魚群。
常識外れの規模だった。
エミリーが息を呑む。
「全部魚なの……?」
索敵担当者が震える声で答えた。
「はい……」
「しかも終わりが見えません」
騒然となる。
カタリナが大笑いした。
「ははは!」
「海そのものが魚じゃないか!」
ソフィアも目を丸くする。
「これは凄いな……」
巨大魚群。
しかも高品質。
魔力反応も強い。
食料として極めて優秀。
薬師部隊も興奮していた。
リーンが資料を確認する。
「この種類の魚は高級薬の材料になります!」
「こちらは魔力回復薬!」
「こちらは治癒薬!」
「こちらは滋養強壮薬!」
薬師たちが歓声を上げた。
海は宝庫だった。
さらに調査が進む。
索敵部隊五百人が全力で海を調べる。
すると。
さらに衝撃的な事実が判明した。
「魚群が複数あります!」
「こちらも巨大!」
「こっちも!」
「まだあります!」
海そのものが巨大漁場だった。
大洋全体に食料資源が眠っていた。
報告は即座に本土へ送られる。
転移陣。
念話。
通信魔道具。
全てを使う。
アルカディア本土。
中央議会。
セリナが報告書を読んだ。
そして静かに笑った。
「なるほど」
トミーも笑う。
「商人が泣いて喜ぶぞ」
巨大漁場。
莫大な食料。
巨大産業。
新しい雇用。
新しい技術。
全てが生まれる。
農業革命に続く。
漁業革命。
それが始まろうとしていた。
工業部隊も忙しくなる。
ベルンが机を叩いた。
「漁船を作るぞ!」
ドワーフたちが立ち上がる。
巨大漁船。
冷凍船。
加工船。
運搬船。
次々と設計が始まる。
既存のゴーレム技術を応用。
大型漁船団が計画された。
ガイルも頷く。
「港も増設だな」
「冷凍倉庫も必要だ」
工業都市は再び活気づく。
戦争ではない。
生産のための熱気だった。
探索船では。
試験操業が始まった。
ソフィアが巨大な網を持ち上げる。
鬼人族の怪力。
身体強化。
筋力強化。
全てを使う。
カタリナも手伝う。
二人が網を引く。
その結果。
甲板が埋まった。
魚で。
魚。
魚。
魚。
魚。
大量。
圧倒的。
船員たちが歓声を上げる。
「大漁だ!」
「凄い!」
「これ全部食べられる!」
エミリーも笑っていた。
戦場では見せない柔らかい笑顔だった。
治癒部隊も忙しい。
魚の分析。
栄養分析。
安全確認。
薬効確認。
マイケルの弟子たちが次々と調査する。
結果。
全て安全。
しかも高栄養。
高魔力。
理想的な食料だった。
薬師部隊も興奮している。
「新薬が作れます!」
「病に効く成分があります!」
「これなら治療の幅が広がる!」
かつて。
病は人々を苦しめた。
貧困村では薬が無かった。
治療法も無かった。
だが今は違う。
教育がある。
技術がある。
人材がいる。
そして海まで味方になった。
夕暮れ。
甲板。
エミリーたちは海を見ていた。
赤く染まる水平線。
巨大探索船が静かに進む。
ソフィアが言う。
「敵を探しに来たわけじゃない」
「なのに大発見だな」
リーヴが頷く。
「平和だから見つけられたんでしょうね」
その通りだった。
戦争だけしていたら。
海へ出る余裕は無い。
略奪だけしていたら。
未来を見る余裕は無い。
教育。
生産。
安定。
それらがあったから海へ出られた。
環境が人を育てる。
それは陸だけではない。
海もまた。
人を育てる。
未知を知ることで。
人は成長する。
巨大漁場発見の報告は世界中へ広がった。
各地の港湾都市。
漁業学校。
工業学校。
薬師学校。
新しい学科が次々と設立される。
教師が増える。
研究者が増える。
技術者が増える。
新しい産業が生まれる。
それがアルカディアだった。
誰か一人が強い国家ではない。
人材が強い国家。
教育が強い国家。
その夜。
探索船の甲板から見える海は静かだった。
無数の星。
無数の魚。
無数の可能性。
そして。
誰もまだ知らない。
この巨大漁場は。
大洋が隠している財宝の。
ほんの入口に過ぎないことを。
探索船は進む。
さらに遠くへ。
さらに深くへ。
未知の海へ向かって。




