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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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200話 5億人移住完了

歴史に残る日だった。


アルカディア連邦中央議会。


巨大な会議場には各都市の代表者たちが集まっていた。


農業都市。


工業都市。


大学都市。


病院都市。


魔導具都市。


紡織都市。


鉱山都市。


港湾都市。


商業都市。


研究都市。


数え切れない都市国家群。


それらを束ねる連邦。


その中心で。


セリナは静かに報告書を開いた。


会場は静まり返っている。


誰もが結果を知りたかった。


数年に及んだ国家最大の事業。


人口移住計画。


その最終報告だった。


セリナはゆっくり口を開く。


「人口移住計画」


「完了しました」


一瞬。


沈黙。


そして次の瞬間。


会場が大歓声に包まれた。


拍手。


歓声。


笑顔。


誰もが立ち上がる。


ロバートも珍しく大声で笑った。


トミーは机を叩いて喜んでいる。


エミリーも満面の笑みだった。


数年間に及ぶ巨大事業。


その成果は想像以上だった。


移住者総数。


五億人。


世界史上最大の人口移動。


しかも。


飢餓なし。


疫病なし。


暴動なし。


治安崩壊なし。


失業問題なし。


ありえない成果だった。


かつて世界では。


百人移住するだけでも問題が起きた。


盗賊。


病。


食料不足。


水不足。


奴隷商。


移住とは死と隣り合わせだった。


それが常識だった。


しかしアルカディアは違う。


教育がある。


医療がある。


物流がある。


治安がある。


仕事がある。


住居がある。


人を受け入れる環境が整っていた。


だから成功した。


セリナは続ける。


「移住者の就職率」


「九九・九%」


再び歓声が上がる。


驚異的な数字だった。


農業都市では人手が増えた。


工業都市では生産力が増えた。


大学都市では研究者が増えた。


病院都市では治癒師が増えた。


港湾都市では船員が増えた。


商業都市では商人が増えた。


全てが噛み合っている。


まるで巨大な機械のようだった。


しかし違う。


歯車ではない。


人だ。


教育を受けた人々が自ら考え。


自ら働き。


自ら成長する。


だから強い。


だから止まらない。


トミーが立ち上がる。


「次の報告だ」


狐獣人の男は笑顔だった。


「商業規模」


「三倍」


会場が再び沸く。


港湾都市から流れる商品。


農業都市から流れる食料。


工業都市から流れる製品。


大学都市から流れる技術。


病院都市から流れる医療。


それらが全て結びついた。


五億人が移住したことで。


国家そのものが巨大な循環を始めた。


金が回る。


物が回る。


知識が回る。


人が回る。


そして教育が回る。


教育こそが国家。


ケルナインが残した思想は。


今や国家の常識だった。


エルナは窓の外を見つめていた。


子供たちが走り回っている。


獣人。


エルフ。


ドワーフ。


魔族。


人間。


様々な種族。


笑いながら遊んでいる。


かつてなら考えられなかった。


種族ごとに争っていた世界。


差別に満ちていた世界。


貧困が当たり前だった世界。


その面影はもうない。


エルナは小さく呟く。


「本当に変わったんですね」


誰に言うでもない言葉だった。


しかしその言葉には多くの想いが込められていた。


孤児だった子供たち。


病に苦しんだ人々。


奴隷商に家族を奪われた人々。


飢えた村人たち。


その全てを見てきた。


だからこそわかる。


今の世界は奇跡だ。


ロバートも窓の外を見る。


兵士たちが訓練している。


二億人の兵士。


だが。


彼らは侵略軍ではない。


守るための軍だ。


教育を守る。


物流を守る。


民を守る。


それが彼らの役目だった。


ロバートは笑う。


「強くなったな」


誰に向けた言葉でもない。


国家に向けた言葉だった。


人は育つ。


環境があれば育つ。


それを証明した国家だった。


その頃。


農業都市。


見渡す限りの農地。


巨大な収穫機。


飛行する風属性農業部隊。


水路管理部隊。


土壌改良部隊。


全てが稼働している。


食料充足率。


一五〇〇%以上。


もはや飢餓という概念そのものが存在しない。


余った食料は備蓄される。


加工される。


輸出される。


未来へ蓄えられる。


工業都市も同じだった。


ベルンは工房を歩く。


若い鍛冶師たち。


若い職人たち。


若い研究者たち。


皆が学んでいる。


皆が教えている。


教導スキル覚醒者。


一億人以上。


教師数。


十四億五千万人。


もはや教師不足という概念はない。


誰もが教師。


誰もが生徒。


それがアルカディアだった。


大学都市では研究が進む。


魔法。


超能力。


農業。


工業。


医学。


経済。


物流。


政治。


あらゆる分野で研究が進んでいた。


アリアは研究資料を眺めていた。


百年以上生きた彼女ですら。


今の発展速度には驚いていた。


「面白い時代になったものね」


彼女は笑う。


知識は閉じ込めるものではない。


共有するものだ。


アルカディアはそう考える。


だから発展が加速する。


知識が知識を呼ぶ。


教育が教育を呼ぶ。


人材が人材を育てる。


その循環は止まらない。


病院都市も同じだった。


マイケルは診察記録を確認していた。


病死率。


過去最低。


平均寿命。


過去最高。


治癒師数。


過去最高。


医療技術。


過去最高。


病に怯える時代は終わりつつあった。


それでも学び続ける。


それでも研究を続ける。


慢心しない。


それがアルカディアだった。


夕暮れ。


中央都市。


巨大な塔の上。


セリナ。


エミリー。


ロバート。


トミー。


マイケル。


エルナ。


仲間たちが集まっていた。


誰もが下を見ている。


灯りが広がる。


どこまでも。


どこまでも。


地平線の果てまで。


十五億人の生活。


十五億人の笑顔。


十五億人の未来。


そこにあった。


トミーが笑う。


「村だったんだよな」


エミリーも笑う。


「信じられないわね」


ロバートは腕を組む。


「最初は数百人だった」


誰も否定しない。


本当にそうだった。


盗賊に怯える村。


奴隷商に狙われる村。


病に苦しむ村。


飢えに苦しむ村。


それが始まりだった。


だが。


教育があった。


環境があった。


人を育てる仕組みがあった。


だからここまで来た。


十五億人国家。


五億人移住完了。


世界最大の教育国家。


世界最大の生産国家。


世界最大の医療国家。


世界最大の物流国家。


そして。


世界最大の人材国家。


セリナは夜空を見上げた。


星が輝いている。


静かな夜だった。


「まだ終わらないわ」


誰もが頷く。


終わりではない。


通過点だ。


人は学ぶ。


人は育つ。


環境があれば育つ。


その真理は変わらない。


だからアルカディアも成長を続ける。


十六億人になろうと。


二十億人になろうと。


三十億人になろうと。


教育がある限り。


人材がある限り。


未来は続く。


そしてその未来は。


かつて貧困村から始まった小さな希望の延長線上にあった。







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