198話 鉱山都市 商業都市 港湾都市
アルカディア連邦は変わり続けていた。
かつて盗賊に怯え。
奴隷商に人を奪われ。
病に苦しみ。
飢えに震えた貧困村。
その面影はもうどこにもない。
大学都市。
病院都市。
研究都市。
工業都市。
魔導具都市。
農業都市。
紡織都市。
数々の専門都市が誕生し、人々を育て続けていた。
そして今。
新たな三つの都市建設計画が始まる。
鉱山都市。
商業都市。
港湾都市。
それはアルカディア連邦の経済を完成させる最後の大事業だった。
巨大会議場。
円卓には各都市の代表が集まっている。
セリナが立ち上がった。
「食料は十分」
「教育も十分」
「医療も十分」
「工業も発展した」
「次は資源と物流よ」
地図が広げられる。
山岳地帯。
大河。
海岸線。
広大な領域が映し出された。
ガイルが腕を組む。
ドワーフの戦士は既に鉱山開発の責任者となっていた。
「ようやく本格的に掘るんだな」
その目は輝いていた。
ドワーフにとって鉱山は聖域である。
ベルンも頷いた。
「鍛冶師としても待ちに待った計画だ」
最初に着工されたのは鉱山都市だった。
巨大な山脈地帯。
そこには豊富な鉱脈が眠っている。
鉄。
銅。
銀。
金。
錫。
ミスリル。
アダマンタイト。
オリハルコン。
過去の鉱山開発で発見された巨大鉱脈群だ。
だが今回は規模が違った。
都市そのものを建設する。
数千万人規模の鉱山労働者。
研究者。
教師。
鍛冶師。
精錬師。
魔法技師。
全員が移住してきた。
土属性魔法が発動する。
山肌が削られる。
坑道が形成される。
崩落防止の石壁が構築される。
風属性魔法による換気。
光属性魔法による照明。
水属性魔法による冷却。
全てが計画的に組み込まれていた。
かつての危険な鉱山ではない。
学問によって設計された鉱山都市だった。
若い鉱夫たちは教師から学ぶ。
掘削技術。
地質学。
鉱脈解析。
安全管理。
魔法運用。
知識を持った鉱夫が育っていく。
環境が人を育てる。
その思想はここでも生きていた。
鉱石は掘り出された直後に精製工房へ送られる。
金属属性覚醒者たちが作業を行う。
巨大な炉。
巨大な精製設備。
光属性による浄化。
火属性による溶解。
金属属性による成形。
次々とインゴットが生産される。
鉄インゴット。
銅インゴット。
銀インゴット。
金インゴット。
ミスリルインゴット。
アダマンタイトインゴット。
オリハルコンインゴット。
巨大倉庫に積み上がる資源の山。
ベルンは思わず笑った。
「これだけあれば千年は困らねぇな」
だが資源は掘るだけでは意味がない。
運ばなければ価値にならない。
そこで建設されたのが商業都市だった。
中心に立つのはトミー。
かつては調子のいい狐獣人だった男。
今では世界最大の物流網を管理している。
商業都市は巨大な市場だった。
倉庫。
流通拠点。
金融機関。
商会本部。
教育施設。
会計学校。
商業学校。
価格研究所。
全てが一つの都市に集約される。
マーガレットも到着していた。
赤髪の美女商人は市場を見渡す。
「凄いわね」
「王都百個分くらいあるじゃない」
その言葉は誇張ではなかった。
人口十五億人国家の中心市場。
規模が違う。
世界中の物資が集まる。
農業都市の穀物。
紡織都市の衣服。
工業都市の機械。
魔導具都市の製品。
鉱山都市の資源。
病院都市の薬品。
研究都市の新技術。
全てがここに集まる。
そして再び世界へ流れていく。
物流学校では若者たちが学んでいた。
原価。
相場。
在庫管理。
輸送計画。
市場分析。
契約法。
交渉術。
教師たちは惜しみなく知識を伝える。
かつて商売は一部の才能だった。
今は違う。
教育によって育成できる。
だから人材が増える。
そして最後。
港湾都市建設が始まった。
巨大な海岸線。
果てしなく続く海。
そこに無数の船着場が建設されていく。
土属性魔法。
水属性魔法。
金属属性魔法。
工業都市の技術も投入される。
巨大防波堤。
大型ドック。
修理施設。
倉庫群。
灯台。
海上監視施設。
全てが整備されていく。
港湾都市は単なる港ではない。
世界の玄関口だった。
リーヴが海を見つめる。
「綺麗ですね」
風が吹く。
巨大な帆船が入港してくる。
魔導船も続く。
積荷は膨大だった。
鉱石。
穀物。
布。
薬。
魔導具。
木材。
調味料。
酒。
ありとあらゆる物資。
そして人もまた集まる。
職人。
商人。
研究者。
教師。
移民。
冒険者。
学びたい者。
働きたい者。
成長したい者。
港湾都市は人の流れも生み出していた。
ミシェル率いる索敵部隊が空から監視する。
海上監視網は完璧だった。
風属性。
光属性。
超能力。
全てが統合されている。
盗賊船。
海賊。
奴隷商。
発見された瞬間に対応部隊が出動する。
港湾都市は安全だった。
だから交易が集まる。
だから人が集まる。
だから発展する。
数年後。
三都市は完全に機能し始めていた。
鉱山都市が資源を生み出す。
商業都市が価値へ変える。
港湾都市が世界へ届ける。
巨大な循環が完成した。
ロバートは港を見下ろした。
無数の船。
無数の人。
無数の荷物。
全てが動いている。
「止まらねぇな」
彼は笑った。
本当に止まらない。
人が育つ。
技術が育つ。
産業が育つ。
都市が育つ。
そして国家が育つ。
誰か一人の力ではない。
無数の教師。
無数の職人。
無数の農民。
無数の研究者。
無数の商人。
彼ら全員が国を支えている。
エルナは港に集まる子供たちを見つめていた。
孤児だった子供。
難民だった子供。
棄民だった子供。
彼らは今、笑っている。
学校へ通う。
夢を語る。
未来を描く。
それがアルカディア連邦だった。
かつての貧困村が目指した未来。
人材こそ国家。
その理念が形になっている。
鉱山都市。
商業都市。
港湾都市。
三つの都市は単なる施設ではなかった。
人を育てる環境そのものだった。
環境が人を育てる。
その積み重ねが文明を作る。
夕暮れ。
港には無数の灯りがともる。
巨大な船が出港していく。
商人たちが笑う。
職人たちが働く。
教師たちが教える。
子供たちが学ぶ。
全てが繋がっている。
全てが前へ進んでいる。
人口十五億人。
覚醒者十四億人以上。
教師十四億五千万人以上。
連邦はさらに巨大になった。
それでも本質は変わらない。
始まりは一つの貧困村だった。
教育が人を育てた。
人が国家を育てた。
そして今。
アルカディア連邦は世界最大の交易国家として、新たな時代へ歩み始めていた。




