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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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192.5話 病院都市完成

病院都市建設開始から数か月後。


旧キンペイ帝国南部。


かつて荒野だった広大な土地は、もはや別世界となっていた。


朝日が昇る。


金色の光が巨大都市を照らした。


白い石造りの建物群。


整然と並ぶ街路。


無数の街路樹。


上下水道。


治療施設。


研究施設。


教育施設。


薬草栽培区画。


居住区。


物流拠点。


全てが計画的に配置されている。


病院都市。


アルカディア連邦最大級の医療都市が完成したのである。


都市中央。


巨大な治癒院本館。


数千メートル級の建造物がそびえていた。


内部には無数の病室。


治療室。


手術区画。


回復区画。


観察区画。


教育区画。


全てが整備されている。


朝早くから人々が動いていた。


治癒師。


薬師。


教師。


研究者。


学生。


患者。


物流担当者。


様々な人々が都市を支えている。


「今日も忙しくなりそうですね」


そう微笑んだのはエルナだった。


白い治療服に身を包み、多くの若い治癒師たちに囲まれている。


教導スキル覚醒者。


治癒院最高責任者。


今や連邦最大級の教育者でもあった。


「先生!」


若い治癒師が駆け寄る。


「北区画から患者搬送です!」


「分かりました」


エルナは即座に動いた。


慌てない。


騒がない。


彼女自身が教育の模範だからだ。


治癒院では毎日数十万人規模の患者が来る。


しかし混乱は無い。


教育がある。


仕組みがある。


組織がある。


だから回る。


それがアルカディア連邦だった。


同じ頃。


薬房地区。


リーンが巨大な薬品製造施設を巡回していた。


広大な薬草加工工場。


乾燥施設。


抽出施設。


調合施設。


保管施設。


全てが稼働している。


エルフ。


ドワーフ。


人族。


獣人。


様々な種族が働いていた。


「在庫は?」


リーンが尋ねる。


「問題ありません」


「解毒薬二億本」


「治療薬五億本」


「回復薬三億本」


「備蓄薬品も十分です」


報告を受けたリーンは頷いた。


昔なら考えられない数字だった。


薬は貴族のためのものだった。


金持ちしか使えなかった。


貧しい村人は病気になれば死ぬしかなかった。


今は違う。


必要な者へ届ける。


それが当たり前になっている。


リーンは窓の外を見る。


そこには広大な薬草畑が広がっていた。


無数の緑。


無数の命。


かつて貧困村だった土地では想像もできない光景だった。


研究区画。


アリアが研究者たちと歩いていた。


年齢不詳の魔女。


百年以上研究を続ける存在。


彼女の周囲には数千人規模の研究者が集まっている。


若者も多い。


老人もいる。


種族も様々だ。


「面白いですねぇ」


アリアが笑う。


机の上には新しい薬の試作品。


新しい治療術。


新しい浄化技術。


研究成果が並んでいる。


「病気を治すだけじゃありませんよ」


「病気を発生させない方法も研究する」


研究者たちは真剣に頷いた。


知識は蓄積される。


教育される。


受け継がれる。


だから文明は進歩する。


その循環がこの都市には存在していた。


昼。


教育区画。


巨大な講義棟には数十万人規模の学生が集まっている。


教師はマイケルだった。


教導スキル覚醒者。


鑑定スキル保持者。


治癒師。


教師。


かつて泣き虫だった青年。


今や連邦最高峰の教育者である。


「病気を見る時は患者を見るんです」


講義が始まる。


静まり返る会場。


学生たちは真剣だった。


「病気だけを見るな」


「人を見る」


「生活を見る」


「環境を見る」


誰もが必死にメモを取る。


マイケルは続けた。


「環境が人を育てます」


「逆に言えば環境が人を壊します」


「だから治療とは身体だけではありません」


それはケルナインから受け継いだ思想だった。


病だけを見るな。


人を見ろ。


社会を見ろ。


環境を見ろ。


その考え方がアルカディア連邦全体に広がっている。


講義終了後。


学生たちは口々に議論を始める。


質問も飛び交う。


学ぶ意欲に満ちていた。


夕方。


病院都市中央広場。


完成記念式典が行われていた。


多くの人々が集まる。


患者だった者。


治癒師。


薬師。


教師。


研究者。


職人。


物流担当。


農民。


様々な人々で埋め尽くされる。


セリナが演壇へ上がった。


静寂。


広場が静まる。


セリナは周囲を見渡した。


無数の人。


無数の人生。


そして口を開く。


「病院都市は完成しました」


大歓声が起きる。


しかしセリナは手を上げた。


再び静まる。


「ですが」


全員が耳を傾ける。


「建物が完成しただけです」


誰もが真剣だった。


「重要なのは建物ではありません」


「人です」


広場が静まる。


「教師」


「治癒師」


「薬師」


「研究者」


「職人」


「学ぶ者」


「支える者」


「全員がこの都市です」


拍手が起きた。


大きな拍手だった。


セリナは続ける。


「病院都市の目的は病人を治すことだけではありません」


「人を育てることです」


その言葉に多くの者が頷く。


環境が人を育てる。


それがアルカディア連邦の根幹だった。


病院都市もまた同じだった。


病気になった者を治す。


終わりではない。


治った者が学ぶ。


働く。


教える。


次を育てる。


循環する。


それこそが目的だった。


夜。


病院都市全体が光に包まれていた。


光属性魔法灯。


無数の灯りが街を照らす。


美しかった。


エルナは高台から都市を見下ろしていた。


隣にはマイケル。


少し離れてリーン。


さらに向こうにはセリナ。


皆が同じ景色を見ていた。


誰かが呟く。


「すごいですね」


本当にそうだった。


貧困村から始まった。


盗賊に怯えた。


病で倒れた。


飢えに苦しんだ。


そんな時代があった。


今は違う。


病院都市がある。


教育がある。


研究がある。


希望がある。


エルナは静かに微笑んだ。


「これなら」


「もっと多くの人を救えますね」


マイケルも頷く。


「はい」


「もっと育てられます」


セリナも小さく頷いた。


病院都市完成。


それは終わりではない。


始まりだった。


ここから新しい治癒師が育つ。


新しい薬師が育つ。


新しい研究者が育つ。


新しい教師が育つ。


人が人を育てる。


環境が人を育てる。


その循環はさらに加速していく。


アルカディア連邦人口十二億人。


その未来を支える巨大な病院都市は、この日、完全に稼働を開始したのであった。







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