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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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192話 病院都市

旧キンペイ帝国南部。


かつて圧政と貧困、病に苦しめられていた広大な土地は、今やアルカディア連邦最大級の開発地域へと変貌していた。


転移門が完成した。


鉱山開発が始まった。


住宅が建った。


上下水道が整備された。


街道も建設されている。


人口は十二億人。


食料充足率は一五〇〇%を超えている。


飢えはない。


水不足もない。


病気も激減した。


それでもセリナは次の課題を見ていた。


新領都中央会議場。


巨大な円卓を囲むように、各分野の責任者たちが集まっている。


エミリー。


ロバート。


トミー。


マイケル。


エルナ。


リーン。


ミシェル。


ガイル。


ベルン。


そして数多くの教師団代表。


セリナは静かに立ち上がった。


「上下水道整備は成功しました」


誰も異論はなかった。


病気の発生率は劇的に低下している。


乳幼児死亡率も大幅に減少していた。


かつての貧困村では考えられない数字だった。


セリナは地図を表示した。


ソートグラフィーによって空中に巨大な立体図が浮かぶ。


そこには新領土全域の都市計画が映し出されていた。


「しかし」


その一言で全員の視線が集まる。


「病は完全には無くなりません」


静寂が広がった。


セリナは続ける。


「怪我は発生します」


「事故も起こります」


「出産もあります」


「老化もあります」


「研究も必要です」


「教育も必要です」


それは誰もが理解している現実だった。


上下水道が病を減らしても、人間が生きる限り医療は必要である。


だから次の段階へ進む。


セリナは宣言した。


「病院都市を建設します」


会議室の空気が変わった。


エルナが目を見開く。


マイケルも驚いていた。


病院。


いや。


都市。


その規模を理解したからだ。


セリナは地図を切り替える。


広大な平原。


既に測量が完了している地域だった。


「薬房と治癒院を統合します」


「研究所も建設します」


「教育機関も建設します」


「孤児支援施設も建設します」


「高齢者支援施設も建設します」


「出産支援施設も建設します」


次々に計画が表示される。


もはや病院ではない。


一つの都市だった。


エルナは小さく息を呑んだ。


「ここまでやるのですか……」


セリナは頷く。


「やります」


「人を育てるためです」


その言葉に誰も反論できなかった。


環境が人を育てる。


それはアルカディア連邦そのものが証明してきた事実だった。


会議終了後。


建設計画が即座に動き出した。


土属性教師団。


石属性教師団。


建築教師団。


数億人規模が参加する。


巨大な平原が整地される。


大地が動く。


石が積み上がる。


建物が形成される。


普通の国家なら百年かかる事業。


アルカディア連邦では数か月で進んでいく。


中央には巨大な治療区画が建設された。


数百万床規模。


いや。


最終的には数千万床を想定している。


怪我人。


病人。


高齢者。


誰でも受け入れられる。


その周囲には研究施設。


薬品製造施設。


教育施設。


薬草栽培施設。


全てが配置されていく。


リーンは薬草栽培区画を視察していた。


エルフ薬師たちが並ぶ。


若い薬師も多い。


かつて薬の作り方すら知らなかった者たちだ。


今では教師となっている。


「土壌良好です」


「水質問題ありません」


「成長速度も安定しています」


報告が続く。


リーンは微笑んだ。


「始めましょう」


その号令で薬草畑の建設が始まる。


数万種類の薬草。


治療用。


解毒用。


栄養補助用。


研究用。


全てが分類される。


さらに研究区画も併設される。


薬を作るだけではない。


より良い薬を生み出すためだった。


その頃。


紡織産業地区でも新しい仕事が始まっていた。


リーザ。


リーブ。


リーゼ。


三人のエルフ職人が工房を視察している。


巨大な織機が並ぶ。


魔法で動く最新設備だった。


布が次々と生産される。


「包帯用はこちら」


「治療着はこちら」


「寝具はこちら」


「新生児用はこちら」


医療専用製品が大量生産されていた。


紡織産業もまた医療を支える。


人は一人では生きられない。


職人も。


薬師も。


治癒師も。


教師も。


全てが繋がっている。


夕方。


マイケルは建設中の教育区画を歩いていた。


広大な校舎。


講義棟。


実習棟。


研究棟。


寮。


治癒師養成施設。


全てが建設されている。


彼は足を止めた。


昔を思い出す。


泣き虫だった自分。


何もできなかった自分。


誰かに助けられる側だった自分。


今は違う。


教師だった。


治癒師だった。


次の世代を育てる側だった。


「本当に変わりましたね」


誰に言うでもなく呟く。


近くで作業していた若い教師が笑った。


「先生のおかげです」


マイケルは首を振る。


「違います」


「環境ですよ」


若い教師は不思議そうな顔をする。


マイケルは続けた。


「学ぶ場所があった」


「教えてくれる人がいた」


「努力できる環境があった」


「だから成長できたんです」


それが全てだった。


才能だけではない。


環境が人を育てる。


その事実を彼自身が知っていた。


夜。


病院都市建設予定地を見下ろせる丘。


エルナとセリナが立っていた。


眼下には無数の灯りが広がる。


建設現場は夜も止まらない。


安全管理された交代制。


教師たちが働いている。


「大きいですね」


エルナが言う。


「ええ」


セリナは頷いた。


「将来のためです」


病院都市。


それは病人を治すだけの場所ではない。


薬師を育てる。


治癒師を育てる。


研究者を育てる。


教師を育てる。


未来を育てる都市だった。


エルナは静かに笑った。


「きっとここで育つ子供たちは」


「病で家族を失わないのでしょうね」


セリナは少しだけ表情を和らげる。


「そうなればいいですね」


二人はしばらく無言だった。


風が吹く。


遠くで工事の光が揺れる。


かつて盗賊に怯えていた貧困村。


病で人が倒れ続けた村。


飢えで苦しんだ村。


そこから始まった物語。


今や十二億人が暮らしている。


そしてその十二億人を支えるための病院都市が生まれようとしていた。


病を治すためだけではない。


人を育てるために。


未来を育てるために。


環境が人を育てる。


その思想は病院都市にも受け継がれていた。


そして建設はさらに加速していく。


完成の日は近かった。







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