190話 鉱山開発
旧キンペイ帝国南部。
アルカディア連邦が新領土開発を開始してから数か月。
転移門が完成し、街道建設も順調に進み、集合住宅や大食堂、公衆浴場の建設も続いていた。
そして次の段階が始まる。
鉱山開発。
人が暮らすには食料が必要だ。
だが国家を発展させるには、それだけでは足りない。
鉄が必要だ。
銅が必要だ。
銀が必要だ。
金が必要だ。
そして高度な魔導具を作るためには、ミスリルやアダマンタイト、オリハルコンのような希少金属も必要になる。
早朝。
新領土南部の山岳地帯。
巨大な野営地に数百万人規模の開発部隊が集結していた。
土属性教師。
石属性教師。
金属魔法教師。
鍛冶師。
物流教師。
索敵教師。
それぞれが専門分野を持つ。
かつてなら王国が総力を挙げても集められない人材だった。
今では当たり前のように存在している。
教育が人を育てた。
環境が人を育てた。
だからこそ実現できる光景だった。
空の上。
ミシェル率いる鳥人族索敵部隊が飛行している。
数万名の索敵教師たちが上空を旋回していた。
「地下構造確認」
ミシェルの念話が響く。
即座に無数の返答が返る。
「東部山脈地下二百メートルに鉄鉱脈」
「南西部に銅鉱脈」
「銀鉱脈を確認」
「高純度ミスリル反応あり」
「アダマンタイト発見」
「オリハルコン反応を確認」
現場が騒然となる。
ガイルが大笑いした。
「おいおい、夢でも見てるのか?」
ベルンも苦笑する。
「俺も同じ気持ちだ」
普通なら国家機密になる鉱脈。
それが次々発見されている。
しかも埋蔵量が異常だった。
セリナが地図を確認する。
冷静な表情は変わらない。
「採掘開始します」
短い命令。
それだけで数百万人が動き始めた。
土属性部隊前進。
地面に手を置く。
魔力操作。
魔力循環。
巨大な魔法陣が展開される。
地面が静かに震えた。
岩盤が割れる。
土が動く。
巨大な縦坑が形成されていく。
普通なら数年。
場合によっては十年以上かかる工事だった。
だが教育を受けた人材が数百万人いる。
速度が違う。
正確さも違う。
地下数百メートル。
巨大な坑道が形成される。
崩落はない。
全員が構造理解を学んでいる。
支柱が必要な場所。
補強が必要な場所。
全て理解している。
ガイルが感心したように頷く。
「昔の鉱夫が見たら腰抜かすぞ」
「間違いないですね」
ベルンも笑った。
やがて最初の鉱脈に到達する。
鉄鉱脈。
巨大だった。
黒光りする鉄鉱石が地層一面に広がっている。
歓声が上がる。
「発見!」
「鉄鉱脈確認!」
「高純度!」
しかし採掘部隊は浮かれない。
すぐに作業へ移る。
石属性魔法。
金属魔法。
鉱石が切り出される。
巨大な塊が空中へ浮かぶ。
その瞬間。
金属魔法教師たちが前へ出た。
「精製開始」
鉱石が輝く。
不純物が分離される。
砂。
岩。
不要な鉱物。
全て除去される。
純粋な鉄だけが残る。
さらに圧縮。
形成。
巨大な鉄インゴットが完成した。
周囲から歓声が上がる。
だが誰も積み上げない。
物流教師たちが前へ出る。
マジックバッグを開く。
鉄インゴットが次々収納されていく。
その場で収納。
その場で輸送準備。
これがアルカディア連邦方式だった。
鉱石を運ばない。
不要な重量を運ばない。
精製したインゴットだけを運ぶ。
効率最優先。
無駄は存在しない。
続いて銅鉱脈。
赤褐色の鉱石が大量に掘り出される。
銅インゴットへ変換。
収納。
銀鉱脈。
銀インゴットへ変換。
収納。
金鉱脈。
黄金色の輝きが坑道を照らす。
金インゴットへ変換。
収納。
作業は流れるようだった。
教師が教えた。
生徒が覚えた。
覚えた人材がさらに教える。
だから国家規模で技術が共有されている。
それが強みだった。
午後。
地下深部。
ミスリル鉱脈に到達する。
青白い光。
幻想的な輝き。
誰もが足を止めた。
若い鍛冶師が呟く。
「綺麗だ……」
ガイルが笑う。
「まだ見惚れるな」
「仕事が先だ」
現場に笑いが広がる。
ミスリル採掘開始。
金属魔法部隊が集中する。
高純度ミスリル鉱石。
精製。
圧縮。
形成。
巨大なミスリルインゴット完成。
青銀色の輝き。
伝説級金属。
普通の国家なら一塊で戦争になる。
だがここでは違う。
大量に存在する。
次々精製される。
そしてマジックバッグへ収納されていく。
誰も慌てない。
価値を理解しているからこそ冷静だった。
さらに地下へ進む。
アダマンタイト鉱脈。
世界最高峰の硬度を誇る金属。
採掘難易度は極めて高い。
普通の鉱夫では掘れない。
しかしここには教育された人材がいる。
重力魔法。
金属魔法。
石属性魔法。
複数属性が連携する。
岩盤が静かに開く。
巨大な鉱脈が姿を現した。
歓声。
拍手。
誰もが興奮する。
アダマンタイト精製開始。
濃い銀色の金属塊が形成される。
圧倒的な存在感。
巨大なインゴットが並ぶ。
すぐに収納。
輸送準備完了。
そして最後。
オリハルコン。
黄金色の輝きが地下空間を照らした。
まるで太陽だった。
巨大鉱脈。
誰も言葉を失う。
セリナですら一瞬沈黙した。
「……予想以上ですね」
珍しく感情が漏れる。
ロバートが笑った。
「そうだな」
「これは凄い」
精製開始。
黄金色の鉱石が浮かび上がる。
不純物除去。
圧縮。
形成。
オリハルコンインゴット完成。
眩しいほどの輝き。
だが作業は止まらない。
収納。
収納。
収納。
大量のインゴットがマジックバッグへ収められていく。
夕方。
採掘終了。
巨大な広場。
数百万個のマジックバッグが並ぶ。
中身は国家級資源。
鉄。
銅。
銀。
金。
ミスリル。
アダマンタイト。
オリハルコン。
錫。
全て収納済みだった。
転移門が起動する。
青い光が広場を包む。
物流部隊が移動を開始した。
数時間後。
新都市中央物流区。
巨大倉庫群。
受け入れ班が待機している。
トミーもそこにいた。
「搬入開始!」
掛け声と同時にマジックバッグが開かれる。
鉄インゴット。
銅インゴット。
銀インゴット。
金インゴット。
次々出現する。
倉庫へ運び込まれる。
数量確認。
在庫登録。
管理完了。
流れるような作業だった。
トミーが集計表を見る。
そして固まった。
「おい……」
「なんだこれ」
周囲が集まる。
数字を見る。
全員沈黙した。
鉄インゴット。
国家数百年分。
銅インゴット。
国家数百年分。
銀。
金。
ミスリル。
アダマンタイト。
オリハルコン。
どれも異常な量だった。
ガイルが笑い出す。
「在庫管理が大変だな」
「笑い事じゃないですよ!」
トミーが頭を抱える。
周囲は大爆笑だった。
だが誰も不安はない。
使う人材がいる。
教育する人材がいる。
加工する人材がいる。
環境が整っている。
だから資源は価値になる。
夜。
倉庫街。
無数の灯りが輝いている。
鍛冶師たちは新しい工房建設計画を話し合う。
金属魔法教師たちは次世代教材を作る。
物流教師たちは輸送網を拡張する。
誰もが未来を見ていた。
かつて世界には貧困があった。
病があった。
飢えがあった。
教育がなかった。
だから人は才能を埋もれさせていた。
今は違う。
教育がある。
技術がある。
仲間がいる。
環境がある。
だから人は成長する。
そして成長した人材がさらに環境を良くする。
その循環が続いていた。
鉱山開発初日。
成果は歴史的だった。
だが誰も満足していない。
これは始まりに過ぎない。
地下にはまだ無数の鉱脈が眠っている。
新領土にはさらに広大な土地がある。
都市は増える。
工場も増える。
学校も増える。
人材も増える。
環境が人を育てる。
その思想は今も生きていた。
そしてアルカディア連邦は、新たな工業時代へ歩み始めていた。




