189話 新都市建設
旧キンペイ帝国南部。
転移門開通から一か月。
かつて荒野だった大地は、日に日に姿を変えていた。
朝日が昇る。
巨大な平原。
その中央に建設中の新都市が広がる。
数え切れないほどの建築班。
測量班。
物流班。
治癒班。
農業班。
そして教師たち。
全員が自律して動いていた。
命令を待つ者はいない。
誰もが何をすべきか理解している。
それがアルカディア連邦だった。
巨大な立体地図を見ながら、セリナは静かに言った。
「まず住居です」
周囲の教師たちが頷く。
新領土には今後数億人規模の移住が予定されている。
住む場所が必要だった。
ロバートが腕を組む。
「五億人分か」
「はい」
「普通の国家なら数百年かかるな」
周囲が笑った。
普通の国家ではない。
教育国家アルカディア連邦である。
教師八億五千万人。
教導スキル覚醒者八億人。
全属性魔法運用者多数。
建築技術も共有済み。
できない理由が存在しなかった。
建設開始。
大地が震える。
土属性魔法。
石属性魔法。
金属属性魔法。
巨大な魔法陣が無数に展開される。
数百万人の建築教師が同時に魔力を流し込む。
地面が盛り上がる。
石柱が形成される。
壁が生まれる。
床が完成する。
屋根が組み上がる。
まるで都市そのものが成長しているようだった。
数日後。
第一居住区完成。
巨大集合住宅群。
十階建て。
二十階建て。
三十階建て。
それらが規則正しく並ぶ。
内部には寝室。
浴室。
台所。
食堂。
共同作業場。
診療所。
学校。
全てが整備されている。
衛生環境も完璧だった。
上下水道。
給湯設備。
魔法冷蔵庫。
浄化設備。
全て完備。
病が広がる余地がない。
マイケルが完成した住宅を見上げる。
「昔の貧困村じゃ考えられないな」
彼は覚えていた。
雨漏りする家。
泥だらけの道。
病人が寝込む小屋。
空腹で泣く子供。
あの日々を。
だからこそ分かる。
環境が人を育てる。
逆に言えば環境が人を潰す。
住居は贅沢ではない。
教育の土台だった。
住宅建設は続く。
一棟。
十棟。
百棟。
千棟。
万棟。
やがて地平線まで建物が並ぶ。
移住予定人口五億人。
その全員が暮らせる住宅地。
誰かが歓声を上げた。
「完成だ!」
大歓声が起きる。
だが建設は終わらない。
次は公衆浴場だった。
セリナが次の図面を開く。
巨大な浴場設計図。
ロバートが笑った。
「風呂か」
「必要です」
「確かにな」
衛生。
健康。
交流。
全てに重要だった。
十か所建設。
一か所で数百万人が利用可能。
巨大な建造物だった。
建設開始。
土属性。
石属性。
水属性。
火属性。
巨大な湯船が形成される。
温泉のような浴槽。
露天風呂。
薬草風呂。
蒸気浴場。
冷水浴場。
休憩所。
食事処。
全てが整備される。
大量の温水は火属性魔法と水属性魔法で供給される。
維持費はほぼ不要。
実質無限に近い魔力供給体制。
湯は絶えない。
数週間後。
第一公衆浴場完成。
その日の夜。
多くの移住者が訪れた。
ドワーフ。
エルフ。
獣人。
人族。
魔族。
種族の壁なく湯に浸かる。
笑い声が響く。
「広いな!」
「気持ちいい!」
「最高だ!」
疲労が抜ける。
身体が軽くなる。
病気予防にもなる。
子供たちも喜ぶ。
老人たちも喜ぶ。
生活水準そのものが変わっていた。
次に建設されたのは大食堂だった。
巨大建築。
十万人規模が同時利用可能。
それを複数建設する。
食料は問題ない。
連邦の食料充足率は一五〇〇%。
余り続けている。
穀物。
肉。
魚。
野菜。
果物。
乳製品。
保存食。
全てが大量にある。
巨大厨房。
巨大倉庫。
巨大冷蔵施設。
調理師たちも教育済み。
大量調理技術も共有済み。
開業初日。
人々が集まる。
香りが広がる。
焼き立てパン。
煮込み料理。
肉料理。
魚料理。
スープ。
果実酒。
デザート。
子供たちは目を輝かせる。
老人たちは涙ぐむ。
空腹を知らない世代が生まれる。
それはかつての貧困村の人々が最も望んだ未来だった。
さらに街道建設が始まる。
新領土は広い。
住宅だけでは足りない。
移動手段が必要だった。
測量済み地図を基に街道計画が作られる。
幅百メートル。
超大型街道。
輸送隊。
物流隊。
建設隊。
同時進行。
土属性魔法が地面を均す。
石属性魔法が路盤を作る。
金属属性魔法が補強する。
雨にも強い。
雪にも強い。
数百年使用可能。
そんな街道だった。
さらに風属性魔法で排水設計。
雨が降っても水が溜まらない。
道路脇には街路樹。
休憩所。
井戸。
宿泊施設。
全て配置される。
トミーは街道を見ながら笑った。
「物流が捗るな」
商人らしい感想だった。
実際その通りだった。
物流とは血流。
街道は血管。
人も。
物も。
知識も。
教育も。
全てが流れる。
だから国家は生きる。
街道建設から数か月。
巨大都市が完成する。
住宅。
浴場。
食堂。
学校。
診療所。
工房。
倉庫。
市場。
街道。
全てが整った。
夕暮れ。
高台から都市を見下ろす。
灯りが広がる。
数千万。
数億。
やがて五億人が住む都市。
その基礎が完成していた。
誰かが呟く。
「本当にできたな」
昔なら信じられない光景だった。
盗賊に怯えた村。
病に苦しんだ村。
食べ物のない村。
それが始まりだった。
そして今。
新領土には未来が広がっている。
環境が人を育てる。
その思想が都市そのものになった。
巨大な新都市は夜空の下で輝いていた。
まだ始まりに過ぎない。
五億人が暮らす未来へ向けて。
新たな歴史は静かに動き始めていた。




