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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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188話 転移門

旧キンペイ帝国南部。


測量開始から数週間。


広大な新領土の地図は急速に完成へ近づいていた。


河川。


山脈。


森林。


鉱脈。


農地適正地帯。


地下水脈。


全てが記録されている。


もはや未知の土地ではない。


未来の都市が建つ土地だった。


巨大な立体地図を見上げながら、セリナは静かに頷いた。


「十分ですね」


周囲の教師たちも同意する。


測量は成功した。


次に必要なのは開発だった。


そして開発に必要なのは人。


人を運ぶには物流。


物流を支えるのは交通。


そこで選ばれたのが転移門だった。


アルカディア連邦中央会議場。


数百人の教師。


数千人の技術者。


ドワーフ鍛冶師。


エルフ魔法技師。


商業担当。


農業担当。


建築担当。


全員が集まっていた。


中央に立つのはアリアだった。


百年以上研究を続ける魔女。


転移魔法研究の第一人者。


空間魔法陣が展開される。


巨大な立体模型。


それは門だった。


高さ三十メートル。


幅二十メートル。


巨大な石造建築。


内部には空間魔法陣。


外周には魔力循環回路。


さらに金属属性魔法による補強。


誰かが息を飲んだ。


「これが……」


「転移門です」


アリアが答える。


「連邦本土と新領土を恒久接続します」


会場がざわめいた。


転移魔法は珍しくない。


しかし個人単位。


大規模輸送は不可能だった。


この転移門は違う。


荷車。


農機具。


建材。


人員。


全てを一瞬で輸送する。


文明そのものを移動させる装置だった。


トミーが地図を見る。


「物流革命だな」


誰も否定しなかった。


これまでの街道。


これまでの河川輸送。


これまでの海運。


全てを超える。


距離という概念が消える。


それほどの技術だった。


翌日。


建設開始。


建設地はアルカディア中央都市。


巨大な広場が選ばれた。


集まった建設技師は百万人。


全員が教師でもある。


土属性魔法。


石属性魔法。


金属属性魔法。


空間属性魔法。


無数の魔法陣が展開される。


「開始!」


号令と共に地面が動いた。


轟音。


大地が盛り上がる。


巨大な基礎が形成される。


石材が生成される。


土が圧縮される。


普通なら数年。


いや数十年。


それほどの工事だった。


しかしここはアルカディア連邦。


八億五千万人の教師を抱える国家である。


技術も。


知識も。


教育も。


全て共有されていた。


石柱が立つ。


金属骨格が組まれる。


巨大な門が姿を現す。


ドワーフ鍛冶師ベルンが吠えた。


「補強完了!」


金属が輝く。


ミスリル。


アダマンタイト。


高純度精製金属。


ピュリフィケーションによって極限まで精製されている。


強度は王城を超える。


その頃。


新領土側でも建設が進んでいた。


こちらはロバートが指揮を執る。


「配置確認!」


「問題なし!」


兵士たちが動く。


農業班。


建築班。


治癒班。


輸送班。


全員が自律していた。


誰かに命令される必要がない。


環境が人を育てる。


それを体現した人々だった。


広大な平原。


そこに第二転移門が建設される。


土属性魔法。


石属性魔法。


巨大な石材が次々形成される。


ガイルが笑った。


「昔なら村一つ作るだけで大騒ぎだったな」


周囲が笑う。


懐かしい話だった。


かつて彼らは貧困村だった。


盗賊に怯えた。


病に苦しんだ。


飢えた。


明日の食事も分からなかった。


それが今。


国家どころか大陸規模の建設を行っている。


教育が変えた。


環境が変えた。


人が変わった。


数日後。


転移門完成。


アルカディア史上最大の建築物。


中央広場に数百万人が集まる。


巨大な門。


まるで天空へ続く神殿。


その中心にアリアが立つ。


空間魔法陣が展開される。


青白い光。


巨大な魔力循環。


周囲の教師たちも魔力を流し込む。


全員が理解している。


転移門は誰か一人の力ではない。


教育の結晶だ。


人材の結晶だ。


光が強くなる。


空間が揺れる。


門の中央が輝いた。


そして。


景色が変わった。


向こう側に広がる平原。


新領土。


旧キンペイ帝国南部。


数千キロ離れた土地。


それが目の前にあった。


沈黙。


次の瞬間。


歓声が爆発した。


「繋がった!」


「成功だ!」


「本当に繋がった!」


誰もが興奮していた。


歴史的瞬間だった。


トミーが最初に門をくぐる。


一歩。


二歩。


そして向こう側へ到着した。


振り返る。


そこには本土。


教師たち。


都市。


全て見えている。


彼は笑った。


「距離が死んだな」


その言葉に周囲も笑う。


本当にそうだった。


数千キロ。


山脈。


森林。


河川。


全てが消えた。


今や歩いて数秒。


それだけの距離になった。


その日から輸送が始まる。


建材。


農具。


食料。


紡織機。


薬品。


教科書。


教師。


職人。


次々と門を通過していく。


連邦の余剰食料。


食料充足率一五〇〇%。


余り続ける穀物。


余り続ける野菜。


余り続ける果実。


それらが新領土へ流れ込む。


農業革命は止まらない。


紡織産業も広がる。


工房建設。


学校建設。


治療院建設。


都市建設。


未来が形になっていく。


夕暮れ。


転移門前。


マイケルが子供たちを連れて歩いていた。


未来の教師たち。


未来の職人たち。


未来の治癒師たち。


子供たちは巨大な門を見上げる。


「すごい……」


「綺麗……」


「向こうが新しい街なの?」


マイケルは微笑んだ。


「そうだよ」


「まだ何もない」


「だからこそ何にでもなれる」


子供たちは目を輝かせた。


かつてのアルナ村もそうだった。


何もなかった。


だから可能性だけは無限だった。


新領土も同じ。


何もない。


だから未来がある。


環境が人を育てる。


その思想は今も変わらない。


転移門は単なる交通設備ではなかった。


人と人を繋ぐ門。


教育を運ぶ門。


技術を運ぶ門。


希望を運ぶ門。


そして。


次の時代へ進むための門だった。


巨大な転移門は夕日に照らされながら静かに輝いていた。


新たな歴史の始まりを告げるように。







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