187.5話 発見
翌朝。
旧キンペイ帝国南部。
測量隊の野営地は、すでに活気に包まれていた。
夜のうちに土属性魔法で建てられた宿舎。
水属性魔法で整備された給水施設。
火属性魔法による調理設備。
光属性魔法による照明。
すべてが一晩で完成していた。
かつてなら一つの村を作るだけで数年かかった。
今は違う。
教育を受けた人材がいる。
技術がある。
知識がある。
だから発展速度が違う。
朝日が昇る頃には、数万人の教師たちがそれぞれの持ち場へ散っていった。
「今日はいよいよ地下調査だな」
ロバートが笑う。
隣ではガイルが巨大な戦槌を肩に担いでいた。
「地上だけ見ても土地の価値は分からん」
ドワーフらしい考えだった。
資源。
鉱脈。
地下水。
岩盤。
それらを理解して初めて開発計画は成立する。
「行くぞ」
ガイルが地面へ手を置いた。
静かに目を閉じる。
そして。
【構造理解】
魔力が地中へ浸透していく。
何百メートル。
何千メートル。
さらに深く。
地下構造が頭の中へ流れ込んでくる。
周囲の教師たちが固唾を飲んで見守った。
数分後。
ガイルがゆっくり目を開く。
「見つけた」
短い一言。
しかしその声には確信があった。
「鉄鉱脈だ」
周囲がざわめく。
「どの程度ですか?」
セリナが尋ねる。
ガイルは笑った。
「でかい」
「かなりでかい」
さらに地図へ印が付けられる。
鉄鉱脈。
その直後だった。
ガイルが再び地面へ手を置く。
構造理解が広がる。
そして。
「銅もある」
「銀もある」
「金もあるな」
「魔鉄まである」
測量隊の空気が変わった。
ただの未開発地ではない。
巨大資源地帯。
国家を何百年も支える規模だった。
その報告を聞いた金属魔法教師たちが集まる。
最近になって急増した新属性。
金属魔法。
鉱石を操る。
精製する。
成形する。
鍛造する。
生産に特化した新たな力。
「試してみます」
若い教師が前に出る。
金属魔法発動。
地面の中から鉄鉱石が浮き上がる。
不純物が剥がれる。
精製完了。
周囲から感嘆の声が上がった。
「すごい……」
「精錬所が要らない……」
「これだけで生産量が何倍になるんだ」
ベルンの弟子たちが興奮していた。
鍛冶師にとって鉱石は命。
その供給源が無限に近い規模で見つかったのである。
その頃。
空ではミシェルが飛んでいた。
高度三千メートル。
風属性魔法。
光属性索敵。
念写。
遠隔透視。
複数の能力を同時運用している。
普通なら不可能。
しかし今の教師たちは違う。
魔力循環。
魔力操作。
そして教育。
積み重ねた技術がそれを可能にしていた。
ミシェルの視界に巨大な河川が映る。
さらにその先。
果てしなく広がる黒い大地。
肥沃な黒土。
平原。
森林。
湖。
水資源。
全てが揃っていた。
「これは……」
ミシェルが思わず息を呑む。
急いで念話を飛ばした。
「セリナ」
『聞こえています』
「南東方向」
「大発見です」
数十分後。
測量隊が集まった。
高台の上。
目の前には壮大な景色が広がっていた。
誰も言葉を失う。
巨大河川。
肥沃な平野。
地平線まで続く農地候補地。
森林資源。
魔物資源。
鉱物資源。
全てがある。
まるで世界そのものが残していた贈り物だった。
トミーが口笛を吹く。
「こりゃすげぇな」
「商売相手に困らねぇ」
セリナは静かに地図を見る。
計算する。
人口。
食料。
物流。
水資源。
生産能力。
何度も何度も計算する。
そして結論を出した。
「二億人」
周囲が頷く。
十分な数字だった。
しかしセリナは首を振る。
「違います」
静かな声。
「五億人です」
一瞬沈黙が落ちた。
五億人。
一国家規模ではない。
超大陸級。
それだけの人口を支えられる土地。
ロバートが笑った。
「またでかい話になったな」
「事実です」
セリナは冷静だった。
「水があります」
「土があります」
「鉱物があります」
「森林があります」
「人材もいます」
「教育もあります」
「できない理由がありません」
その言葉に誰も反論できなかった。
アルカディア連邦は奇跡で発展したわけではない。
積み重ねた教育の結果だ。
だから再現できる。
何度でも。
どこででも。
環境があれば人は育つ。
人が育てば国家になる。
それを証明し続けてきた。
夕方。
測量作業が終了した。
巨大な立体地図が展開される。
山脈。
鉱脈。
森林。
河川。
平原。
全て記録されている。
セリナが一本の赤線を引いた。
「ここです」
第一開発地区。
未来の都市群予定地。
教師たちが息を呑む。
今は何もない。
ただの荒野。
しかし誰も疑わない。
数年後には巨大都市が立つ。
学校ができる。
工房ができる。
病院ができる。
農地が広がる。
子供たちが笑う。
人が育つ。
かつてアルナ村で起きたことが、また繰り返される。
セリナは地図を閉じた。
「開発計画を立案します」
その言葉と共に、新たな歴史の歯車が動き始めた。
旧キンペイ帝国の荒野は終わる。
次に生まれるのは。
教育によって育つ、新しい文明だった。




