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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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185話 帰還

北方同盟締結から数日後。


サンナ・マリン王国の王都は、穏やかな熱気に包まれていた。


街には防寒着を着た人々が行き交う。


市場には野菜が並ぶ。


温室農業によって育てられた新鮮な作物。


紡織産業によって生産された布。


魔糸。


魔布。


暖かな衣類。


そして病に苦しむ者の姿も激減していた。


かつて飢餓と寒さに震えていた北方国家は、確実に変わったのである。


王都中央転移広場。


数十万人の民衆が集まっていた。


見送りだった。


アルカディア連邦の教師団。


農業教師。


治癒教師。


戦闘教師。


紡織教師。


建築教師。


物流教師。


数百万人規模の教師たちが整列している。


彼らは北方を救うためにやって来た。


そして。


役目を終えた。


女王マリンが演壇に立つ。


隣には王配アルベルト。


王都の貴族たち。


職人たち。


兵士たち。


教師たち。


静寂の中。


女王は深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


その一言だった。


豪華な演説ではない。


長い言葉でもない。


心からの感謝。


それだけで十分だった。


民衆も続く。


一斉に頭を下げた。


数十万人。


誰一人として強制されていない。


自然に。


心から。


頭を下げていた。


農民が泣いている。


職人が泣いている。


子供たちが泣いている。


救われた。


その事実を皆知っていた。


マイケルは少し困ったように笑った。


「やめてください」


「私たちは特別なことはしていません」


女王が首を振る。


「いいえ」


「あなた方は未来を残してくれました」


「食料をくれたのではありません」


「知識をくれました」


「教育をくれました」


「自立する力をくれました」


マイケルは何も言えなかった。


それこそがアルカディア連邦の思想だったからだ。


魚を与えるのではない。


魚の獲り方を教える。


守るのではない。


守れる人材を育てる。


支配するのではない。


自立させる。


それが全てだった。


巨大転移陣が輝く。


無数の光。


教師たちが次々と転移していく。


手を振る子供たち。


泣きながら感謝を叫ぶ老人たち。


教師たちも笑顔で手を振り返す。


そして。


最後の転移光が消えた。


広場に静寂が訪れる。


誰もが理解していた。


もう自分たちで歩く番なのだと。


その頃。


アルカディア連邦。


中央会議都市アルカディア。


帰還した教師団を迎える大規模会議が開かれていた。


セリナ。


エミリー。


ロバート。


トミー。


マイケル。


エルナ。


各分野の代表者が集まっている。


巨大な地図が中央に浮かぶ。


そこに示されていたのは。


旧キンペイ王国。


かつて独裁と圧政で周辺国を苦しめた巨大国家だった。


既に国家としては消滅している。


だが。


土地は残っていた。


広大な平原。


豊富な河川。


森林。


鉱山。


未開発地域。


人口が消えたため荒れ果てているだけだった。


トミーが口を開く。


「もったいねぇな」


「これだけの土地が遊んでる」


会議室が頷く。


旧キンペイ王国は巨大だった。


アルカディア連邦の人口は九億人。


それでも使い切れないほど広い。


セリナが地図を操作する。


無数の光点が現れた。


「移住候補地です」


「調査完了」


「水資源良好」


「土壌良好」


「鉱脈確認」


「街道建設可能」


ロバートが笑った。


「決まりだな」


会議は即決だった。


移住。


二億人。


前代未聞の国家事業である。


しかし今のアルカディア連邦なら可能だった。


教師がいる。


農民がいる。


建築技師がいる。


職人がいる。


物流がある。


転移がある。


何より。


教育がある。


数日後。


旧キンペイ王国跡地。


空が光った。


無数の転移陣。


数百万。


数千万。


そして二億人規模の移住が始まる。


農民。


職人。


鍛冶師。


治癒師。


教師。


商人。


紡織職人。


建築職人。


家族単位で移住していく。


誰かに命じられた訳ではない。


希望者だった。


新しい土地。


新しい都市。


新しい産業。


未来を作るための移住だった。


その一方で。


開拓部隊が動き出す。


旧キンペイ王国周辺にはまだ危険が残っていた。


盗賊。


奴隷商。


傭兵崩れ。


魔物。


国家が消滅したことで生まれた無法地帯。


放置はできない。


エミリー率いる討伐軍。


三千万人規模。


ロバート率いる治安維持軍。


五千万人規模。


索敵教師ミシェル率いる索敵部隊。


数億人規模の念話網。


空を飛ぶ鳥人。


遠隔透視。


念聴。


未来予知。


危険は即座に発見される。


そして。


消える。


盗賊団。


壊滅。


奴隷商。


壊滅。


魔物の群れ。


壊滅。


わずか数ヶ月。


旧キンペイ王国周辺から大規模脅威は消滅した。


それは侵略ではない。


治安回復だった。


安全があるから人が住める。


人が住むから産業が生まれる。


産業が生まれるから国が育つ。


アルカディア連邦はそれを知っていた。


夕暮れ。


開拓地第一都市。


まだ建設途中の街を見ながらトミーが笑う。


「また始まるな」


遠くには建設中の巨大都市。


農地。


学校。


治療院。


工房。


市場。


全てが動いていた。


アルカディア連邦は拡大している。


軍事でではない。


教育で。


農業で。


物流で。


産業で。


人材で。


環境が人を育てる。


育った人が土地を育てる。


その循環は止まらない。


旧キンペイ王国の荒野だった大地に。


新しい街の灯りが次々と生まれていた。


それはアルカディア連邦の新たな時代の始まりを告げる光だった。







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