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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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180話 農業革命

サンナ・マリン王国の冬は続いていた。


王都の外では雪が降っている。


凍り付いた大地。


白く染まった街道。


北方国家らしい景色だった。


しかし、その中心では確実に変化が始まっていた。


巨大温室。


アルカディア連邦の教師団が建設した巨大施設である。


完成当初は半信半疑だった農民たちも、今では毎日のように通っている。


理由は単純だった。


作物が育っているからだ。


冬なのに。


雪が降っているのに。


畑が生きている。


その事実は北方の民にとって常識を覆す出来事だった。


巨大温室の中央では農業教師たちが講義を行っていた。


「皆さん」


教師の声が響く。


数千人の農民たちが耳を傾ける。


「作物を育てるだけでは足りません」


「農業は生産です」


「生産は産業になります」


農民たちは顔を見合わせた。


産業。


その言葉はあまり縁がない。


彼らは食べるために作ってきた。


生きるために作ってきた。


売ることはあっても、産業として考えたことはない。


教師は続ける。


「食料を作る」


「衣服を作る」


「薬を作る」


「それらは全て農業から始まります」


その言葉に多くの農民が頷いた。


確かにその通りだった。


その頃。


セリナは各地から集まる報告書を確認していた。


念話による連絡が次々と届く。


「温室第一農場、順調」


「第二農場、発芽確認」


「薬草区画、生育良好」


「果樹区画、問題なし」


どれも良い報告だった。


だがセリナの視線は別の資料へ向いている。


寒冷地綿花。


それが今回の本命だった。


食料だけでは国は豊かにならない。


衣服も必要になる。


特に北方国家では重要だった。


防寒具。


毛布。


冬服。


それらを自国で生産できるかどうかで国力は大きく変わる。


「準備はどうですか」


セリナが尋ねる。


農業教師が答えた。


「試験栽培を開始しています」


「魔法農業との相性も良好です」


セリナは小さく頷いた。


予定通りだった。


温室の奥では新たな区画が整備されていた。


通常の農地とは違う。


そこには綿花の苗が並んでいる。


寒冷地でも育つよう改良された品種だった。


さらに教師たちは魔法を活用する。


土属性教師。


土壌改良。


水属性教師。


水分管理。


風属性教師。


換気調整。


火属性教師。


温度維持。


それぞれが連携していた。


農民たちは驚きながら見ている。


「こんな農業があるのか」


老人の農夫が呟く。


若い教師が笑った。


「あります」


「正確には作りました」


老人は目を丸くした。


教師はさらに説明する。


「環境が厳しいなら」


「環境を変えればいいんです」


その言葉は簡単だった。


だが実行できる者はいなかった。


今までは。


しかしアルカディア連邦は違う。


教育がある。


技術がある。


人材がいる。


だから実現できる。


数週間後。


綿花畑に変化が現れた。


芽吹きだった。


小さな緑が顔を出す。


農民たちは歓声を上げた。


「出た!」


「本当に育つぞ!」


「冬なのに!」


次々と発芽していく。


教師たちは冷静だった。


想定通りだからである。


だが農民たちにとっては違う。


奇跡のように見えた。


その様子を女王マリンも視察していた。


白い息を吐きながら温室を歩く。


その隣には王配アルベルト。


二人は綿花区画へ到着した。


「これが綿花ですか」


マリンが尋ねる。


農業教師が頷いた。


「はい」


「将来は布になります」


「服になります」


「毛布になります」


女王は静かに苗を見つめた。


まだ小さい。


だが可能性は大きい。


今までこの国は外から買うしかなかった。


高価な防寒具。


高価な布。


高価な毛布。


それらを自分たちで作れるようになる。


意味は大きかった。


王配アルベルトが口を開く。


「食料だけではなかったか」


教師は笑う。


「はい」


「農業は衣服も作ります」


「薬も作ります」


「産業も作ります」


アルベルトは深く頷いた。


ようやく理解できた。


アルカディア連邦が強い理由を。


兵士だけではない。


魔法だけでもない。


人材だった。


学ぶ者。


教える者。


育てる者。


その循環が国を支えている。


温室の外では雪が降り続いている。


だが内部では若い綿花が育っていた。


小さな芽。


しかしそれは未来だった。


食料の未来。


衣服の未来。


産業の未来。


サンナ・マリン王国の農業革命は新たな段階へ進み始めていた。


そして綿花の成長と共に、後の紡織産業革命へと繋がる大きな流れが生まれようとしていた。







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