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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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179.6話 王都大浴場と衛生教導

巨大温室による農業革命が始まった頃。


アルカディア連邦の教師たちは、次の課題へ取り組んでいた。


それは病だった。


サンナ・マリン王国は極寒の国である。


寒さは人々の生活を厳しくする。


身体を洗う機会は少ない。


衣服を洗う機会も少ない。


冬の間は特にそうだった。


結果として病が広がる。


熱病。


皮膚病。


感染症。


小さな傷から命を落とす者も少なくない。


王都中央治療院。


そこには大量の診療記録が積み上げられていた。


マイケルは静かに資料へ目を通している。


その隣にはエルナ。


さらに多くの治癒教師たちが集まっていた。


「原因は何だと思いますか?」


若い教師が尋ねた。


マイケルは資料を閉じる。


「病そのものではありません」


教師たちが顔を上げる。


「環境です」


部屋が静かになった。


マイケルは続ける。


「飲み水」


「衣服」


「身体」


「生活環境」


「どれも改善できます」


エルナも頷いた。


「つまり病を治すだけでは足りません」


「病になりにくい環境を作る必要があります」


教師たちは理解した。


これまでのアルカディア連邦と同じだった。


貧困も。


飢餓も。


問題の多くは環境から生まれる。


環境が変われば人も変わる。


その日のうちに計画は決定した。


王都大浴場建設。


十か所同時建設。


さらに衛生教育。


治療だけではなく予防へ。


それが今回の目標だった。


翌朝。


王都各地へ教師たちが集結する。


土属性教師。


水属性教師。


火属性教師。


光属性教師。


建築教師。


数万人規模だった。


まず土属性教師が動く。


魔力が大地へ流れ込む。


石材が形成される。


柱が立つ。


壁が築かれる。


巨大な建物が次々と姿を現した。


王都の民衆は目を見張る。


「何が始まるんだ?」


「また教師様たちか」


「今度は何を作るんだ?」


噂はあっという間に広がった。


続いて水属性教師。


給水設備を構築する。


地下水脈を調査。


安全な水源を確保。


浄化設備も組み込まれていく。


さらに火属性教師。


巨大な加熱設備を設置する。


温水が循環する仕組みが完成する。


最後は光属性教師だった。


浄化。


精製。


衛生管理。


浴場全体へ組み込まれていく。


数日後。


第一号となる王都中央大浴場が完成した。


巨大な石造りの建物。


王都の人々は恐る恐る中へ入る。


兵士たち。


職人たち。


商人たち。


農民たち。


皆が興味津々だった。


最初に湯へ入った男が思わず声を上げる。


「温かい……」


その言葉が広がる。


次々と人々が湯へ浸かる。


凍えていた身体が温まる。


疲労が和らぐ。


肩の力が抜ける。


自然と笑顔が増えていく。


子供たちは大はしゃぎだった。


老人たちは感動していた。


兵士たちは疲れを癒やしていた。


王都中で評判となる。


そして教師たちはそこで終わらなかった。


数日後。


大浴場前広場で大規模な衛生講習会が開かれる。


数千人の住民が集まっていた。


前へ出たのはマイケルだった。


「皆さん」


穏やかな声が響く。


「今日は病を減らす方法を学びます」


人々は顔を見合わせる。


病を減らす。


そんなことができるのか。


多くの者がそう思っていた。


マイケルは大きな桶を取り出した。


「まずは手洗いです」


教師たちが実演する。


手のひら。


指の間。


爪。


手首。


丁寧に洗う。


子供たちは興味津々だった。


母親たちも真剣に見ている。


「見えない汚れが病を運びます」


その説明に多くの人々が驚いた。


続いてエルナが前へ出る。


「次は飲み水です」


二つの容器が並ぶ。


一方は浄化された水。


もう一方は汚染された水。


見た目はほとんど同じだった。


「見ただけでは分かりません」


「だから管理が必要なんです」


光属性教師が浄化魔法を実演する。


歓声が上がる。


さらに講習は続いた。


洗濯。


食器洗浄。


傷口の洗浄。


食材保管。


換気。


排水。


病気予防。


どれも派手ではない。


戦闘魔法のような華やかさもない。


しかし人が生きるために必要な知識だった。


学んだ人々は実践を始める。


家へ帰って手を洗う。


衣服を洗う。


水を管理する。


子供へ教える。


隣人へ教える。


知識は少しずつ広がっていった。


そして一か月後。


変化が数字となって現れる。


治療院の患者数減少。


感染症減少。


熱病減少。


死亡率低下。


特に子供たちの健康状態が大きく改善した。


王城。


女王マリンは報告書を読み終えた。


何度も数字を確認する。


間違いではない。


本当に減っている。


「信じられません……」


隣にいた王配アルベルトも報告書を見る。


「だが現実だ」


二人は窓の外を見る。


雪は変わらず降っている。


極寒の冬も変わらない。


しかし人々は変わった。


学んだ。


知識を得た。


それが結果になっている。


その時、会議へ出席していたエレノア・グランディア侯爵が静かに口を開いた。


「教育とは不思議なものです」


誰もが耳を傾ける。


「剣より強い」


「城壁より堅い」


「そして財宝より価値がある」


静かな声だった。


しかし重みがあった。


エレノアは続ける。


「教育は人を救います」


「一度だけではありません」


「何度でも」


「何世代でも」


会議室は静まり返る。


誰も反論できなかった。


実際に結果が出ている。


病が減った。


命が救われた。


民が健康になった。


それは事実だった。


その夜。


王都の大浴場には多くの人々が集まっていた。


湯気が立ち上る。


笑い声が響く。


子供たちが元気に走り回る。


家族が語り合う。


兵士たちが明日に備える。


温かな光景だった。


エルナはその様子を見ながら微笑む。


人は変われる。


正しく学べば。


正しく育てば。


そして環境が整えば。


必ず前へ進める。


農業革命。


衛生改革。


医療改革。


サンナ・マリン王国は着実に変わり始めていた。


そして教師たちはすでに次の計画へ向かっている。


極寒の国を支える新たな産業。


防寒着。


毛織物。


雇用。


自立。


紡織産業革命の幕が、静かに上がろうとしていた。







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