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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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179.3話 農業革命

巨大温室完成から二週間後。


サンナ・マリン王国の王都は、これまでとは違う熱気に包まれていた。


戦争ではない。


祭りでもない。


農業だった。


王都郊外に建設された巨大温室には、毎日のように農民たちが集まっている。


老人。


若者。


女性。


子供。


身分も出身も関係ない。


誰もが学ぶために集まっていた。


アルカディア連邦の教師たちは知っている。


施設だけでは人は豊かにならない。


知識が必要だ。


技術が必要だ。


そして、それを伝える教師が必要だった。


巨大温室の中央。


数千人の農民を前に農業教師たちが講義を行っていた。


「まず土を知ってください」


教師の一人が言う。


農民たちは真剣な表情で耳を傾ける。


「作物は土で決まります」


「種だけではありません」


「肥料だけでもありません」


「土です」


多くの農民が驚いていた。


これまで誰もそんなことを教えてくれなかった。


畑は耕すもの。


それだけだった。


しかし教師たちは違う。


土の状態。


水分量。


養分。


病害。


細かく説明していく。


さらに実技が始まる。


土属性教師が土壌を切り分ける。


農業教師が解説する。


「この土は養分不足です」


「こちらは水分過多です」


農民たちは目を見開いた。


見ただけでは分からない。


しかし教師には分かる。


知識があるからだ。


講義は続く。


水管理。


温度管理。


病害対策。


害虫対策。


保存技術。


農民たちは必死に学んだ。


教導スキルを持つ教師たちの説明は分かりやすい。


理解が早い。


覚えるのも早い。


午後になると実習が始まる。


野菜栽培。


薬草栽培。


果樹栽培。


農民たちは実際に手を動かした。


教師は見守る。


命令しない。


代わりに教える。


失敗したら修正する。


成功したら褒める。


それだけだった。


しかし効果は絶大だった。


若い農民の一人が歓声を上げる。


「できた!」


綺麗な畝が完成していた。


教師が頷く。


「上手です」


青年は嬉しそうに笑った。


その姿を見て周囲もやる気になる。


学ぶ。


試す。


成長する。


その循環が生まれていた。


数日後。


温室内部に変化が現れる。


芽だった。


小さな緑。


しかし確かな生命。


農民たちは毎朝確認するようになる。


芽が伸びる。


葉が増える。


日ごとに成長していく。


「育ってる……」


誰かが呟いた。


冬である。


外は雪だ。


それなのに育っている。


長年農業を続けてきた老人ですら信じられない光景だった。


さらに一週間。


野菜は明らかに成長した。


薬草も育つ。


果樹も根付く。


王都中の話題になった。


見学者が押し寄せる。


貴族たちも訪れる。


商人たちも訪れる。


皆が驚いた。


「本当に冬なのか?」


そんな声すら出る。


女王マリンも再び視察に訪れた。


温室内部を歩く。


緑が増えている。


働く農民の顔も明るい。


以前のような諦めはない。


希望があった。


「皆さん、楽しそうですね」


マリンが言う。


近くにいた農婦が笑顔で答えた。


「楽しいですよ」


「育つんですから」


その言葉に女王は目を細めた。


当たり前の言葉だった。


しかしサンナ・マリン王国では当たり前ではなかった。


冬は耐えるもの。


春を待つもの。


それが常識だった。


今は違う。


自分たちで作れる。


自分たちで育てられる。


それが人々の自信になっていた。


教師たちはさらに活動を広げる。


農業学校の設立準備。


地方農村への教師派遣。


教材作成。


育成計画。


単なる温室では終わらせない。


国全体へ広げるつもりだった。


夕方。


巨大温室の中で収穫第一号が行われた。


成長の早い葉物野菜だった。


量は多くない。


しかし象徴だった。


農民たちから歓声が上がる。


拍手が響く。


泣いている者もいた。


長年の苦労を知る者ほど感動していた。


女王マリンもその光景を見つめていた。


その隣には王配アルベルトがいる。


アルベルトは静かに言った。


「我らは食料を与えられたのではない」


周囲が耳を傾ける。


王配は続けた。


「食料を生み出す方法を学んだのだ」


農民たちは頷いた。


教師たちも頷く。


それが本質だった。


誰かに頼るのではない。


自分たちで作れるようになる。


それこそが未来だった。


温室の天井越しに夕日が差し込む。


透明な氷壁が黄金色に輝く。


その光景は美しかった。


極寒の北方国家。


かつては貧困と飢えに苦しんだ国。


しかし今は違う。


知識がある。


教師がいる。


学ぶ人々がいる。


そして希望がある。


農業革命は始まったばかりだった。


だが誰も疑っていない。


この国は変わる。


確実に。


より豊かに。


より強く。


より自立した国へと。


次に教師たちが向かうのは王都だった。


病を減らし、人々を健康にするための新たな改革。


公衆浴場建設と衛生教育が始まろうとしていた。







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