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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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179話 巨大温室建設

吹雪が大地を白く染めていた。


サンナ・マリン王国。


北方に位置するこの国は、長い冬と短い夏に支配されている。


農民たちは怠けていない。


朝から晩まで働いている。


それでも貧しい。


それでも飢える。


原因は明白だった。


寒すぎるのだ。


女王マリンは王都郊外の農地を視察していた。


どこまでも続く雪。


凍りついた畑。


春まで眠るしかない大地。


隣には王配アルベルトが立っている。


「毎年同じです」


案内役の農民が苦笑した。


「春を待つしかありません」


その言葉に女王は静かに頷く。


彼らは努力している。


決して怠惰ではない。


環境が厳しすぎるだけだった。


その頃。


教師団の会議が開かれていた。


中心に立つのはダークエルフのセリナ。


念話による報告が次々と集まる。


「農地凍結率九割以上」


「薬草不足」


「冬季生産停止」


「家畜飼料不足」


「野菜不足」


情報は膨大だった。


しかし結論は単純である。


セリナは静かに言った。


「農民は悪くありません」


教師たちが頷く。


「土地も悪くありません」


さらに頷く。


「問題は環境です」


会議場が静まり返る。


そしてセリナは続けた。


「ならば環境を変えましょう」


即座に賛同の声が上がった。


巨大温室計画。


サンナ・マリン王国の未来を変える大事業である。


翌日。


王都郊外へ教師たちが集結した。


土属性教師。


氷属性教師。


風属性教師。


火属性教師。


農業教師。


建築教師。


数万人規模の教師団だった。


見物に来た農民たちは驚いている。


「何を作るんだ?」


「城か?」


「いや、もっと大きいぞ」


誰も予想できなかった。


まず前へ出たのは土属性教師たちだった。


魔力が大地へ流れ込む。


地面が震えた。


凍土が盛り上がる。


巨大な基礎が形成される。


さらに柱。


さらに壁。


まるで山が生えてくるかのようだった。


農民たちから歓声が上がる。


「すごい……」


「こんな工事見たことがない……」


職人たちも目を見開く。


普通なら数年。


それだけの工事量だった。


しかし教師たちは迷いなく進めていく。


教育によって磨かれた魔力操作。


魔力循環。


長年積み上げた技術。


それらが形になっていた。


やがて巨大な骨組みが完成する。


次に前へ出たのは氷属性教師たちだった。


青白い光が空を照らす。


巨大な氷が生まれる。


透明だった。


まるで水晶のように美しい。


氷の壁。


氷の天井。


巨大な透明ドームが形成されていく。


子供たちが歓声を上げた。


「空が見える!」


「氷なのに向こうが見える!」


大人たちも息を呑む。


誰も見たことがない建造物だった。


さらに風属性教師が動く。


空気の流れを整える。


湿度を管理する。


換気経路を構築する。


農業教師が細かく調整を行う。


続いて火属性教師。


温室内部へ熱を供給する。


冷たい空気が押し出される。


凍っていた土が少しずつ柔らかくなる。


外は吹雪。


中は春。


その光景を見た農民たちは言葉を失った。


老人の一人が温室へ入る。


そっと土へ触れた。


温かい。


生きた土だった。


老人は震える声で言う。


「冬なのに……」


目から涙が零れた。


若い頃から農業を続けてきた男だった。


寒さに苦しんだ。


飢えに苦しんだ。


それでも諦めず畑を守ってきた。


その男の目の前に。


冬を越えた大地があった。


セリナは農業教師たちへ指示を出す。


「作業開始」


すぐに人々が動き出す。


畝を作る。


種を蒔く。


苗を植える。


薬草畑も整備される。


果樹も植樹される。


農民たちは教師の指導を受けながら作業を進めた。


重要なのは施設ではない。


知識である。


温室だけ残しても意味はない。


育て方を知らなければ続かない。


だから教師たちは教える。


土壌管理。


水管理。


温度管理。


病害対策。


一つ一つ丁寧に。


それがアルカディア連邦のやり方だった。


数日後。


完成した温室へ女王マリンと王配アルベルトが訪れた。


二人は入口で立ち止まる。


外では雪が降っている。


しかし温室へ一歩入った瞬間。


暖かな空気が身体を包んだ。


「これは……」


マリンは驚きを隠せない。


緑があった。


まだ小さい。


しかし確かに芽吹いている。


野菜。


薬草。


果樹。


未来の食料たちだった。


農民たちの表情も違う。


希望があった。


諦めではない。


期待だった。


セリナが二人へ説明する。


「ここは冬でも生産できます」


「教師たちが管理技術も指導します」


女王マリンは温室全体を見渡した。


巨大だった。


しかし彼女が見ているのは建物ではない。


働く人々である。


学ぶ農民。


教える教師。


笑う子供。


その姿だった。


「これは奇跡ではありませんね」


マリンが言う。


セリナは静かに答えた。


「はい」


「教育です」


女王は深く頷いた。


確かにそうだった。


教師たちも元は普通の人々である。


特別な存在ではない。


学び。


育ち。


そして誰かを育てている。


王配アルベルトも温室を見ながら口を開いた。


「我らは食料を与えられたのではない」


周囲が耳を傾ける。


「食料を生み出す方法を学んだのだ」


農民たちは力強く頷いた。


それこそが本当の支援だった。


誰かに頼るのではない。


自分たちで生み出せるようになること。


それが未来へ繋がる。


温室の外では吹雪が続いている。


冬はまだ終わらない。


だが誰も下を向いていなかった。


春を待つ必要はない。


自分たちの手で春を作れるのだから。


こうしてサンナ・マリン王国における農業革命の第一歩が始まった。







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