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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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2話 盗賊襲撃

翌朝。


まだ日も昇り切らない時間だった。


村の見張り台から鐘の音が響いた。


カン! カン! カン!


緊急事態。


村人達の顔色が変わる。


エミリーは即座に槍を掴んだ。


「来た!」


見張りの少年が叫ぶ。


「盗賊です!」


「十人以上!」


「馬もいます!」


村の空気が一気に凍りついた。


子供達は家へ。


老人達は隠れる。


動ける者は武器を持つ。


しかし、その表情に希望はなかった。


何度も襲われてきたからだ。


食料を奪われた。


娘を攫われた。


仲間を殺された。


抵抗しても勝てない。


それが現実だった。


エミリーは歯を食いしばる。


「全員配置について!」


村人達が動く。


だが武器は粗末だった。


木槍。


農具。


錆びた剣。


まともな装備はほとんどない。


その様子をケルナインは静かに見ていた。


「怖いか」


隣の少年に聞く。


少年は震えていた。


「……はい」


「そうか」


ケルナインはそれ以上何も言わなかった。


やがて盗賊達が姿を現す。


馬に乗った男。


斧を持った男。


剣を持った男。


全員が汚れている。


全員が笑っていた。


村を獲物として見ている笑顔だった。


先頭の男が叫ぶ。


「おい村人共!」


「今月の上納金を回収しに来てやったぞ!」


盗賊達が笑う。


村人達は顔を伏せる。


エミリーだけが前へ出た。


「帰りなさい」


盗賊達が大笑いした。


「狼娘が何を言う!」


「今日は女も連れて帰るぞ!」


「売れば金になる!」


下卑た笑い声。


エミリーの目が冷たくなる。


その瞬間。


ケルナインが呟いた。


「エミリー」


「何ですか」


「お前はどうしたい」


エミリーは答える。


迷いなく。


「守りたい」


「村を」


「皆を」


ケルナインは頷いた。


「なら戦え」


それだけだった。


命令ではない。


指示でもない。


判断を委ねた。


エミリーは一歩前へ出る。


狼の耳が立つ。


尻尾が揺れる。


恐怖はある。


だが、それ以上に怒りがあった。


「皆」


村人達が顔を上げる。


「もう奪われない」


「もう誰も渡さない」


盗賊達が笑う。


「やれるもんならやってみろ!」


その瞬間。


ケルナインの指が動いた。


地面の水分。


空気中の水分。


井戸の水。


全てが集まる。


魔力操作。


魔力循環。


魔力吸収。


膨大な魔力が世界から流れ込む。


村人達は気付かなかった。


盗賊達も気付かなかった。


ただ一人。


エミリーだけが見ていた。


「……何を」


ケルナインは答えない。


水が動く。


蛇のように。


鞭のように。


「ウォーターウィップ」


轟音。


水の鞭が盗賊達を薙ぎ払った。


馬が転ぶ。


男が吹き飛ぶ。


剣が手から離れる。


盗賊達が混乱する。


「なっ!?」


「魔法使いだ!」


「逃げろ!」


遅い。


今度は氷。


「アイスバインド」


地面から氷が伸びる。


足を拘束する。


腕を拘束する。


全員が動けなくなる。


悲鳴。


怒号。


混乱。


さらに水が集まる。


巨大な球体になる。


「ウォータープリズン」


盗賊達を包み込む。


牢獄。


完全拘束。


誰一人動けない。


村人達は呆然としていた。


十数人の盗賊。


全滅。


一瞬だった。


盗賊の頭目が叫ぶ。


「待て!」


「金なら返す!」


「もう来ない!」


「助けろ!」


エミリーは無言だった。


盗賊を見る。


村を見る。


老人を見る。


泣いている母親を見る。


傷だらけの村人を見る。


過去を思い出す。


攫われた友人。


殺された仲間。


焼かれた畑。


奪われた食料。


全部。


目の前の連中がやった。


頭目が叫ぶ。


「頼む!」


「命だけは!」


エミリーは振り返った。


ケルナインを見る。


ケルナインは何も言わない。


判断を求めない。


答えも出さない。


ただ見ている。


エミリーは理解した。


決めるのは自分だ。


守るのも自分。


責任を負うのも自分。


狼獣人の少女は前を向いた。


「処刑します」


村人達が息を呑む。


頭目が絶叫した。


「待て!」


「待てぇぇぇ!」


エミリーは槍を構える。


声は震えていなかった。


「村を襲った」


「人を殺した」


「人を攫った」


「食料を奪った」


「子供を売った」


「許しません」


村人達が立ち上がる。


農民。


職人。


老人。


若者。


全員が前へ出る。


恐怖ではない。


怒りだった。


長年押し潰されてきた怒り。


エミリーが静かに言う。


「見ていてください」


「これが村の決断です」


槍が振り下ろされた。


盗賊の頭目が倒れる。


続く。


二人目。


三人目。


四人目。


村人達が見ている。


逃げない。


目を逸らさない。


そして最後の盗賊が倒れた時。


村は静まり返った。


エミリーは空を見上げる。


恐怖は消えていなかった。


だが一つだけ確信していた。


今日。


初めて守れた。


誰も失わずに。


その横でケルナインは静かに村を見ていた。


戦ったのは自分ではない。


決めたのも自分ではない。


守ったのは村人達だった。


だからこそ意味がある。


環境が変われば人は変わる。


学べば強くなる。


守る力を得る。


それが始まりだった。


小さな貧困村が変わり始めた最初の日。


村人達はまだ知らない。


この日が後に語られる歴史の第一歩になることを。







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