176話 第二の救援要請
セレンスキー王国王都。
復興を終えた王都は活気に満ちていた。
市場には食料が並ぶ。
治療院には教師がいる。
学校には子供達の笑い声が響く。
ほんの数年前。
この国は滅びかけていた。
飢餓。
病。
腐敗。
侵略。
絶望。
あらゆる災厄に苦しんでいた。
だが今は違う。
教育が根付き。
農業革命が広がり。
治療技術が普及し。
国民が自ら考え始めている。
環境が変わった。
だから人も変わった。
そしてその日。
王宮へ一通の緊急通信が届いた。
通信官が慌てて会議室へ飛び込む。
「緊急通信です!」
セレンスキー王。
エレノア侯爵。
セリナ。
エミリー。
ロバート。
トミー。
各省庁責任者。
教師代表達。
全員が席についていた。
通信官は深呼吸して封書を開く。
「北方サンナ・マリン王国より」
会議室の空気が変わった。
通信文が読み上げられる。
「サンナ・マリン王国国王アルベルトより」
「救援を要請する」
短い。
しかし十分だった。
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「国内食料不足」
「病の蔓延」
「教師不足」
「農地荒廃」
「魔物被害拡大」
「国家運営能力低下」
「国民保護困難」
「救援を願う」
沈黙。
誰も驚かない。
むしろ納得していた。
セレンスキー王が小さく息を吐く。
「来たか」
セリナが頷く。
「ええ」
「予想より少し早かったですね」
北方国家。
長年閉鎖的。
教育水準が低い。
農業技術も古い。
交易も弱い。
調査資料は以前から存在していた。
だから状況は想像できる。
エミリーが腕を組む。
「放置すれば滅ぶな」
「恐らく」
セリナは冷静だった。
感情ではなく数字を見る。
数字は嘘をつかない。
教師不足。
農地不足。
物流不足。
治療不足。
全てが揃っていた。
かつてのセレンスキー王国そのものだった。
その時。
ロバートが笑う。
「なら話は簡単だ」
「俺達が昔やったことをやるだけだろ」
会議室から小さな笑いが漏れる。
確かにそうだった。
特別な奇跡は必要ない。
教育。
農業。
治療。
物流。
治安。
これまで何度もやってきた。
だから今回もやるだけだった。
セレンスキー王は頷く。
「調査を開始しよう」
「はい」
立ち上がったのはセリナだった。
ダークエルフの知将。
今やアルカディア連邦全体の情報網を統括する存在である。
彼女は静かに目を閉じた。
魔力が広がる。
テレパシー。
念話。
しかし。
今のアルカディア連邦の念話は昔とは違う。
教師網。
転移網。
索敵網。
通信網。
全てが統合されている。
数億人規模の教育国家だから可能な技術だった。
セリナの声が世界へ広がる。
『救援教師各位』
『緊急要請です』
『北方サンナ・マリン王国』
『索敵調査を開始してください』
『農地』
『病』
『食料』
『人口』
『治安』
『教育』
『物流』
『全て確認』
『報告を本部へ』
念話終了。
その瞬間だった。
世界中で動きが始まる。
索敵教師達が立ち上がる。
治療教師が資料を確認する。
農業教師が地図を広げる。
物流教師が街道を調査する。
誰かに命令されたからではない。
自分達の役割を理解しているからだ。
環境が人を育てる。
それがアルカディア連邦だった。
王都郊外。
巨大転移施設。
索敵教師達が次々と集まっていた。
鳥人族。
エルフ。
狼獣人。
人族。
魔族。
様々な種族が並ぶ。
その中心にいたのはミシェルだった。
鳥人族。
アルカディア連邦最高峰の索敵教師。
「みんな準備は?」
「問題なし」
「出発できます」
「座標確認済みです」
優秀だった。
昔なら考えられない。
教育によって育った教師達。
今では自分達で判断できる。
ミシェルが笑う。
「じゃあ行きましょう」
転移魔法陣が輝く。
一瞬で姿が消えた。
北方。
サンナ・マリン王国。
調査開始。
その頃。
王宮では第二陣の準備が進んでいた。
トミーが地図を広げる。
「物流は何とかなる」
「問題は初動だな」
「食料不足がどれほどか」
商売スキル。
在庫。
流通。
原価。
相場。
全てを把握する男。
彼は既に輸送計画を作っていた。
エミリーも報告を受ける。
「警備部隊は?」
ロバートが答える。
「三十万人」
「全員教師資格持ちだ」
エミリーは笑った。
兵士であり教師。
教師であり兵士。
今のアルカディア連邦では珍しくない。
守るだけではない。
育てる。
それが彼らの仕事だった。
数時間後。
第一報が届く。
セリナが資料を受け取る。
早い。
異常なほど早い。
しかし。
アルカディア連邦なら普通だった。
索敵網が完成している。
遠隔透視。
念聴。
透視。
未来予知。
危機感知。
様々な能力が調査に使われる。
資料を開く。
会議室が静かになる。
人口。
約六千万人。
教師。
極端に不足。
病人。
一千万人超。
農地。
半数以上が低生産。
食料備蓄。
危険水準。
物流。
機能不全。
治安。
悪化傾向。
セリナが言う。
「深刻ですね」
誰も否定できない。
数字が全てだった。
セレンスキー王が呟く。
「昔の我が国以上かもしれぬな」
エレノア侯爵が頷く。
「その可能性があります」
だが。
誰の顔にも絶望はなかった。
昔なら違った。
今は違う。
救う手段を持っている。
教育。
技術。
人材。
全てある。
だから焦らない。
その時。
再び報告が届いた。
今度はミシェルからだった。
念話通信。
『王都確認』
『魔物被害多数』
『病院不足』
『教師不足』
『国民は真面目です』
『救援受入意思あり』
セリナが少し笑う。
そこが重要だった。
受け入れる意思。
学ぶ意思。
それがあるなら救える。
環境は作れる。
人は育つ。
会議室の全員が理解していた。
セレンスキー王は立ち上がった。
「正式に救援を決定する」
異論はない。
誰も反対しない。
全員が賛成だった。
かつて救われた国。
今度は救う側になる。
それは自然な流れだった。
王は通信魔道具を手に取る。
サンナ・マリン王国王へ向けて。
正式な返答を送る。
「セレンスキー王国は貴国の救援を受諾する」
「教師団を派遣する」
「農業支援を行う」
「治療支援を行う」
「物流支援を行う」
「共に未来を築こう」
送信終了。
会議室は静かだった。
だが。
誰もが次を見ている。
世界はまだ広い。
救われていない人々がいる。
だから進む。
そして翌朝。
数百万の教師達が動き始める。
農業教師。
治療教師。
索敵教師。
戦闘教師。
物流教師。
教導スキル覚醒者達。
彼らは誰かの命令で動くのではない。
自らの意思で動く。
環境が人を育てる。
その思想によって育った人々が。
今度は北方国家を育てに向かう。
第二の救援が始まった。
そしてアルカディア連邦の歴史は。
さらに北へと広がっていくのであった。




