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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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172話:衛生革命

セレンスキー王国。


農業改革。


建築改革。


土木改革。


教育改革。


それらが急速に進む中で。


なお残る問題があった。


病だった。


戦争は人を殺す。


しかし戦争の後に来る病は。


時として戦争以上の命を奪う。


焼けた街。


崩れた井戸。


汚れた水。


腐った食料。


怪我を放置した兵士達。


失われた医療。


そして絶望。


それらが病を生み続けていた。


王都中央。


かつて王城の庭園だった場所。


今は巨大な医療都市になっている。


治療院。


教育施設。


衛生指導所。


診断施設。


数十万人が訪れる場所だった。


その中心に立つのはエルナだった。


優しい瞳。


穏やかな笑顔。


ハーフエルフの美女。


かつては弱かった少女。


しかし今は違う。


教導スキル。


治癒技術。


聖女スキル。


数え切れない経験。


全てが彼女を成長させていた。


その日。


最初の患者が運ばれてきた。


片腕を失った元兵士。


戦争で切断されたまま放置されていた。


男は震えていた。


「本当に治るのか……」


周囲も信じていない。


失った腕は戻らない。


それが常識だった。


エルナは微笑む。


「大丈夫です」


優しい声。


安心させる声だった。


そして。


光属性魔法。


浄化。


治癒。


再生。


さらに聖女スキル。


【エクストラヒール】


白い光が男を包む。


静寂。


誰も息をしない。


次の瞬間。


腕が生えた。


骨が形成される。


筋肉が作られる。


血管が繋がる。


神経が伸びる。


皮膚が覆う。


数分後。


完全な腕がそこにあった。


男は固まる。


指を動かす。


握る。


開く。


震える。


涙が落ちた。


「動く……」


「動く……」


そして泣き崩れた。


周囲から嗚咽が漏れる。


奇跡だった。


だがエルナは首を振る。


「違います」


「これは奇跡じゃありません」


「技術です」


その言葉は重かった。


教育。


研究。


経験。


努力。


積み重ねた結果だった。


それから患者が続く。


足を失った者。


耳を失った者。


目を失った者。


指を失った者。


戦争で人生を壊された者達。


全て治療する。


【プレミアムヒール】


【マキシマムヒール】


【パーフェクトヒール】


聖なる光が溢れる。


絶望が消える。


人々が立ち上がる。


歩き出す。


再び働けるようになる。


家族の元へ帰れるようになる。


治療院は涙で満ちていた。


だが。


エルナは理解している。


治療だけでは足りない。


病人を治すだけでは終わらない。


病気にならない環境が必要だった。


だから。


次に始まったのは衛生教育。


教師達が全国へ派遣される。


マイケル。


リーン。


数千万の治癒教師達。


彼らが国中へ散った。


村。


町。


都市。


学校。


市場。


至る場所で授業が始まる。


「まず手を洗いましょう」


誰もが不思議そうな顔をした。


そんなことで病気が減るのか。


そう思った。


しかし。


教師達は説明する。


汚れ。


細菌。


感染。


病原。


目に見えない敵。


教育を受けたことがない人々には未知の概念だった。


それでも教師達は諦めない。


実験する。


実演する。


実際に見せる。


理解させる。


子供達が覚える。


母親が覚える。


父親が覚える。


祖父母が覚える。


やがて国全体へ広がっていく。


井戸改革も始まった。


汚染された井戸を閉鎖する。


新しい井戸を掘る。


浄化魔法を使う。


水質管理を行う。


光属性魔法。


ピュリフィケーション。


浄化技術。


安全な水が供給される。


さらに。


トイレ改革。


排水改革。


ごみ処理改革。


建築改革で育った土木技術者達が活躍する。


排水路が整備される。


汚水が流れる。


飲み水と分離される。


病原の拡散が止まる。


都市が清潔になっていく。


農村も変わる。


家畜管理。


食品保存。


調理環境。


保管環境。


全て教育される。


数か月後。


王都の統計が発表された。


感染症患者。


七割減。


乳幼児死亡率。


八割減。


重症患者。


六割減。


国中が騒然となった。


さらに一年後。


病人は激減した。


病院が空く。


診療所が空く。


医師達が驚く。


患者が来ない。


病気になる人そのものが減ったからだった。


セレンスキー国王は報告書を見つめた。


数字が並ぶ。


信じられない数字だった。


「何が起きている……」


老臣が静かに答える。


「教育です」


「衛生教育です」


「環境が変わりました」


国王は目を閉じた。


農業改革。


建築改革。


土木改革。


教育改革。


衛生改革。


全て同じ結論へ辿り着いている。


人を変えるのではない。


環境を変える。


環境が人を育てる。


その言葉の意味を。


ようやく理解し始めていた。


王都郊外。


一人の少女が走っている。


かつて病弱だった少女。


毎月高熱を出していた。


外で遊べなかった。


だが今は違う。


元気に走る。


笑う。


友達と遊ぶ。


母親は涙ぐんでいた。


病院へ通わなくなった。


薬に頼らなくなった。


娘が生きている。


それだけで幸せだった。


その頃。


アルカディア連邦。


ケルナインは報告書を読んでいた。


病人減少。


衛生教育普及率。


治癒師育成数。


全て順調だった。


ケルナインは静かに紙を閉じる。


満足そうな顔ではない。


当たり前の結果を見る顔だった。


病気は運命ではない。


環境だ。


貧困も運命ではない。


環境だ。


教育も。


戦闘も。


農業も。


建築も。


全て同じ。


正しい環境を作れば。


人は育つ。


そして。


育った人がさらに環境を良くする。


その循環が始まれば。


国家は強くなる。


セレンスキー王国は今。


その循環へ足を踏み入れていた。


戦争で壊された国ではない。


自ら学び。


自ら育ち。


自ら未来を作る国へ。


衛生革命は。


単なる医療改革ではなかった。


人々が健康に生きるための環境そのものを作り変える革命だった。


そしてその中心にいたエルナは。


治療院の窓から子供達の笑顔を見つめながら。


静かに微笑んだ。


病を治すだけではない。


人が安心して生きられる世界を作る。


それこそが。


彼女の目指す治癒だった。







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