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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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19話 農業革命――綿花という白い金

盗賊を撃退した。


村人たちは強くなった。


戦えるようになった。


守れるようになった。


だが。


ケルナインは知っていた。


本当に村を豊かにするのは剣ではない。


畑だ。


食料だ。


仕事だ。


産業だ。


人間は飯がなければ生きられない。


仕事がなければ未来を描けない。


朝。


村の会議所。


セリナ。


エミリー。


マイケル。


エルナ。


トミー。


主要な人間が集まっていた。


ケルナインは地図を広げる。


村周辺の土地。


畑。


川。


森。


荒れ地。


全てが描かれている。


「農業革命を始める」


静かに言った。


皆が顔を上げた。


「麦じゃないのか?」


エミリーが尋ねる。


ケルナインは頷いた。


「麦も増やす」


「だがそれだけでは貧しいままだ」


「次の段階へ進む」


トミーの耳がぴくりと動いた。


「金になる作物か?」


「そうだ」


ケルナインは答える。


そして一枚の紙を置いた。


そこには白い花が描かれていた。


「綿花だ」


・・・


誰も知らなかった。


綿花。


聞いたことがない。


マイケルが首を傾げる。


「食べるのか?」


「違う」


「服になる」


沈黙。


さらに沈黙。


意味が分からない。


エルナがそっと聞く。


「服になる植物なんですか?」


「そうだ」


ケルナインは説明を始めた。


綿花。


実の中に繊維が生える植物。


糸になる。


布になる。


服になる。


寝具になる。


ロープになる。


包帯になる。


村人たちは次第に目を見開いていった。


「すごい……」


エルナが呟く。


ケルナインは続ける。


「しかも腐りにくい」


「軽い」


「運びやすい」


「高く売れる」


トミーが立ち上がった。


「これだ!」


全員が驚く。


トミーは紙を掴んだ。


興奮している。


「これなら遠くまで売れる!」


「保存できる!」


「利益率高い!」


「服不足も解決できる!」


完全に商人の顔だった。


セリナが微笑む。


「相場が見えるのね」


「見える!」


即答だった。


「これ絶対売れる!」


・・・


その日から。


綿花畑の開墾が始まった。


荒れ地だった土地。


石だらけの土地。


村の南側。


今まで誰も使わなかった場所。


エミリー率いる獣人たちが木を伐る。


ガイルが岩を砕く。


ロバートが運ぶ。


村人たちが働く。


皆が動く。


以前の村では考えられなかった光景だった。


誰も命令していない。


自分で動いている。


それを見てケルナインは何も言わない。


見守るだけ。


それでいい。


自立こそ目的なのだから。


・・・


土属性魔法。


石壁。


土壁。


整地。


圧縮。


村人たちは学び始めていた。


以前なら不可能だった作業。


今は違う。


「土壁!」


若い農民が叫ぶ。


土が盛り上がる。


水路ができる。


畝ができる。


「できた!」


歓声が上がる。


ケルナインは遠くから見ていた。


魔力操作。


魔力循環。


それを教えただけ。


後は自分たちで育った。


環境が人を育てる。


それが証明されていた。


・・・


綿花の種が蒔かれる。


白い未来の種。


エルナは小さな子供たちと一緒に植えていた。


孤児たちもいる。


移住者の子供たちもいる。


皆が楽しそうだった。


「大きくなるかな?」


幼い少女が聞く。


エルナは微笑む。


「なりますよ」


「きっと綺麗なお花になります」


子供たちが笑う。


未来への希望。


それがここにはあった。


・・・


その頃。


トミーは倉庫に籠もっていた。


数字。


数字。


数字。


綿花生産量。


必要布量。


村人の人数。


移住予測。


全てを計算する。


以前なら絶対にやらなかった。


面倒だからだ。


逃げていた。


楽な方へ流れていた。


しかし今は違う。


必要とされている。


信頼されている。


だから頑張れる。


「あと二百人増えてもいける」


「布は足りる」


「むしろ余る」


「売れる」


笑った。


人生で初めて。


自分の才能が役立っていた。


その時。


文字が浮かぶ。


【商業計算】


【物流管理】


【市場分析】


【需要予測】


新たなスキルだった。


トミーは呆然とする。


「また増えた……」


才能は使えば育つ。


環境がそれを引き出す。


ケルナインの教育は。


確実に結果を出し始めていた。


・・・


数週間後。


芽が出た。


綿花だった。


白くはない。


まだ小さい。


だが確かに育っている。


村人たちは歓声を上げた。


麦とは違う。


見たこともない植物。


未知の作物。


未来の産業。


セリナが畑を見る。


「本当に育った」


「育つ」


ケルナインは短く答えた。


「そして村を変える」


セリナは静かに頷いた。


理解していた。


農業は食料だけではない。


産業になる。


仕事になる。


経済になる。


国家になる。


・・・


その日の夕方。


村の門に一台の馬車が現れた。


古い馬車だった。


護衛も少ない。


旗もない。


だが。


乗っている人物を見て。


セリナの表情が変わった。


白髪。


老女。


杖をつく老人。


気品だけは隠せない。


老貴族だった。


馬車が止まる。


老女は村を見渡した。


整備される畑。


新しい水路。


建築中の倉庫。


訓練する村人たち。


活気。


笑顔。


そして。


防壁に掲げられた盗賊たちのさらし首。


老女は小さく頷いた。


「なるほど」


静かな声。


「噂は本当だったようだね」


セリナが前へ出る。


「お名前を伺っても?」


老女は微笑んだ。


「エレノア・グランディア」


「侯爵家の者だよ」


その場の空気が変わった。


侯爵。


上位貴族。


村人たちがざわめく。


しかし。


エレノアは周囲を見て言った。


「安心しなさい」


「私は敵ではない」


そして。


遠くで働くケルナインを見つめる。


「面白い人材がいると聞いて来た」


「どうやら本当らしい」


農業革命は始まった。


綿花は芽吹いた。


トミーは商才を開花させた。


そして今。


新たな来訪者が村へ足を踏み入れる。


貧困村は。


少しずつ。


確実に。


国家への道を歩み始めていた。







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