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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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170話:農業改革

セレンスキー王国南部。


かつて豊穣地帯と呼ばれた平原。


今は見る影もなかった。


戦争。


略奪。


放火。


徴発。


幾度も繰り返された破壊によって、大地は黒く焼け焦げていた。


農民たちは立ち尽くす。


老人も。


女も。


子供も。


誰もが同じ顔をしていた。


諦め。


それがこの国の日常だった。


収穫は奪われる。


家畜は奪われる。


種は奪われる。


働く意味が無い。


そんな時代が長すぎた。


しかし。


今。


空を見上げる民衆の表情は違っていた。


青空の向こう。


無数の飛行部隊が飛来していた。


風属性魔法。


レビテーション。


飛行魔法。


そして超能力。


アルカディア連邦の飛行物流部隊である。


巨大な輸送箱が次々と運ばれてくる。


種子。


種芋。


農具。


肥料。


教材。


全てが空から届く。


「来たぞ!」


「本当に来た!」


「食料だけじゃなかったんだ!」


歓声が広がった。


先頭に立つのは農業教師団。


マイケル。


リーン。


リーザ。


リーブ。


リーぜ。


そして数万人の農業教師たち。


彼らは戦士ではない。


だが国家を救う力を持っていた。


教育だった。


広大な荒野を前に。


マイケルが静かに言った。


「始めましょう」


その言葉と同時だった。


百万人。


いや。


百二十万人を超えるテレキネシス覚醒者が前へ出る。


セレンスキー王国で教育を受けた者たち。


魔力循環。


魔力操作。


超能力教育。


それによって生まれた新世代である。


彼らは両手を前に突き出した。


地面が震える。


ごごごごごごごごごごごごごごごごっ!


焼けた大地が持ち上がる。


黒く固まった土塊が砕ける。


石が除去される。


雑草が取り除かれる。


百万人の念動力。


百万人のテレキネシス。


それが同時に発動した。


民衆は言葉を失った。


目の前で起きている光景が理解できない。


数十年放置された荒地。


普通なら何年もかかる開墾作業。


それが。


数時間で変わっていく。


大地が波打つ。


畝が形成される。


排水路が掘られる。


灌漑路が作られる。


土壌が均一化される。


農業教師たちは冷静だった。


アルカディアでは珍しくもない。


農業革命の初歩だからだ。


しかしセレンスキー王国にとっては奇跡だった。


老人が涙を流す。


「畑だ……」


「畑になってる……」


その声は震えていた。


戦争で焼かれた故郷。


もう二度と戻らないと思っていた土地。


そこに再び命が宿ろうとしている。


環境が変わる。


人が変わる。


ケルナインが証明し続けてきた真理だった。


数日後。


さらに大規模な作業が始まる。


アルカディア連邦から運ばれた種子。


改良小麦。


改良大麦。


改良豆。


改良野菜。


そして。


種芋。


アルカディアの農業革命を支えた主力作物。


飢饉に強い。


保存性が高い。


収穫量が多い。


農業教師達は住民へ説明していく。


「焦らないでください」


「土を育てることも大切です」


「収穫だけを見るのではありません」


「次の世代へ残す畑を作るのです」


農民達は真剣に聞いていた。


以前なら違った。


食べるだけで精一杯だった。


学ぶ余裕がなかった。


しかし今は違う。


食料支援がある。


治癒師がいる。


学校がある。


教師がいる。


環境が整っている。


だから学べる。


だから成長できる。


だから未来を考えられる。


それが教育だった。


各地で種蒔きが始まる。


広大な平原。


百万人を超えるテレキネシス使い。


念動力で土を掘る。


種を落とす。


土を被せる。


また掘る。


また植える。


また埋める。


作業速度が常識を超えていた。


農民たちは最初驚いていた。


やがて参加するようになる。


そして学ぶ。


魔力循環。


魔力操作。


テレキネシス。


身体強化。


土属性魔法。


農業と魔法が融合していく。


セレンスキー王国に新しい文化が生まれ始めていた。


一か月後。


変化は数字に現れる。


王城。


農業会議。


国王が報告書を受け取った。


「現在開墾面積」


「戦前比二百三十%」


会議室がざわつく。


「耕作地回復率」


「六十四%」


さらに空気が変わる。


まだ一か月だ。


本来なら数年かかる事業だった。


「新規農業従事者」


「三百万人」


「農業教師育成完了」


「二十八万人」


国王は思わず笑った。


戦争ではない。


軍事でもない。


農業だった。


人材だった。


教育だった。


それが国家を変えている。


さらに驚くべき報告が続く。


「テレキネシス覚醒者」


「百三十五万人」


「土属性覚醒者」


「二百八十万人」


「身体強化習得者」


「四百万人」


誰も想像できなかった。


教育を始めて数か月。


ここまで人材が育つとは。


セリナが分析した通りだった。


才能は存在していた。


教育が無かっただけだった。


夕暮れ。


広大な畑。


地平線まで続く新しい農地。


そこに立つマイケルは静かに微笑む。


隣にはリーン。


そして多くの農業教師達。


芽吹いたばかりの畑を眺めていた。


「変わりましたね」


リーンが言う。


マイケルは頷いた。


「ええ」


「でも畑だけじゃありません」


彼の視線の先。


子供達が走っている。


農民が笑っている。


職人が語り合っている。


未来を信じる人間の顔があった。


以前のセレンスキー王国には無かったもの。


希望だった。


その頃。


アルカディア中央会議場。


トミーが最新報告を眺めていた。


「面白いな」


マーガレットも笑う。


「予想以上よ」


報告書には数字が並んでいる。


食料価格。


物流量。


人口移動。


教育普及率。


全てが上昇していた。


農業改革が経済を動かしている。


経済が教育を支えている。


教育が人材を生む。


人材が農業を強くする。


循環が完成し始めていた。


ケルナインは静かに窓の外を見る。


何も言わない。


昔と同じだった。


貧困村だったアルナ村。


最初にやったこと。


剣ではなかった。


戦争でもなかった。


人を育てた。


環境を整えた。


だから人が育った。


今。


その循環が国境を越えて広がっている。


焼けた農地は畑へ変わる。


絶望した民は教師になる。


飢えていた子供は未来を語る。


環境が人を育てる。


そして育った人が、次の環境を作る。


セレンスキー王国の農業改革は。


まだ始まったばかりだった。







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