169話:教育という名の援軍
セレンスキー王国に変化が現れ始めた。
最初は食料だった。
飢えていた民が食べられるようになった。
市場に物が並んだ。
農民が畑へ戻った。
職人が工房へ戻った。
兵士が戦列へ戻った。
そして今。
アルカディア連邦が送り込んだ次の援軍が到着する。
教師だった。
王都中央広場。
数万人の民衆が集まっていた。
巨大な演壇。
その上に立つのはマイケルだった。
かつて泣き虫だった少年。
今ではアルカディア連邦を代表する教師の一人。
教導スキル保持者。
全属性魔法使い。
治癒師。
そして教育者。
セレンスキー国王も視察に訪れていた。
マイケルは静かに語る。
「皆さん」
「私たちは魔法を教えに来ました」
民衆がざわめく。
魔法。
それは選ばれた者だけの力。
貴族。
宮廷魔術師。
一部の才能ある者。
そんな認識がこの国にはあった。
マイケルは首を振る。
「違います」
「皆さんは才能が無いのではありません」
「学ぶ環境が無かっただけです」
静まり返る広場。
その言葉は。
アルカディアの原点だった。
貧困村。
盗賊。
病。
飢餓。
絶望。
そこから始まった国。
誰も才能が無いと思われていた。
しかし違った。
教育が無かっただけだった。
マイケルは続ける。
「今日から魔力循環を教えます」
「今日から魔力操作を教えます」
「今日から皆さん自身が未来を変えます」
その日。
王都各地で教育施設が開設された。
学校。
訓練所。
魔法教室。
治癒講座。
農業講座。
建築講座。
物流講座。
教師の数は十万人を超える。
アルカディア連邦は教師国家だった。
教導スキル保持者だけで七億人。
人材不足という概念が存在しない。
教育こそ最大の輸出品だった。
訓練初日。
農民の青年が目を閉じる。
教師が語る。
「魔力を感じてください」
「体内を流れる水を想像してください」
「焦らなくていい」
「皆さんには元々ある」
青年は半信半疑だった。
だが。
数分後。
指先に温かな流れを感じる。
「な、なんだこれ」
教師が笑う。
「それです」
「それが魔力です」
青年は震えた。
人生で初めて感じる感覚だった。
隣の老婆も驚いていた。
鍛冶屋も。
パン職人も。
兵士も。
誰もが同じ反応だった。
才能が無かったわけではない。
知らなかっただけだった。
数日後。
魔力循環を習得する者が現れ始める。
数十人。
数百人。
数千人。
増加速度は異常だった。
教育環境が整う。
教師がいる。
教材がある。
食料がある。
安全がある。
環境が整えば人は育つ。
それがケルナインの証明してきた理論だった。
二週間後。
王都で最初の属性覚醒者が誕生する。
「水属性です!」
歓声が上がる。
水球が浮かぶ。
続いて。
火属性。
風属性。
土属性。
光属性。
闇属性。
次々と覚醒していく。
さらに。
超能力教育も始まった。
担当はミシェルだった。
鳥人族の教師。
索敵能力の天才。
彼女は大広間で説明する。
「超能力も特別な力ではありません」
「これも訓練です」
人々は驚く。
未来視。
念話。
透視。
念聴。
そんな力が本当に存在するのか。
半信半疑だった。
しかし。
アルカディアの教師達は実演してみせた。
離れた場所の会話を聞く。
壁の向こうを見る。
遠隔地を観測する。
民衆は息を呑む。
そして学び始めた。
一か月後。
成果が現れる。
王都教育局。
役人が報告書を抱えて走る。
「陛下!」
「集計が終わりました!」
国王は目を見開いた。
「どうだった」
役人の声が震える。
「魔力循環習得者」
「五十二万人」
会議室が静まる。
「魔力操作習得者」
「四十七万人」
「属性覚醒者」
「二十一万人」
国王は立ち上がった。
誰も予想していなかった。
さらに報告は続く。
「超能力覚醒者」
「三千四百名」
「念話」
「未来予知」
「念聴」
「透視」
「複数確認されています」
王国貴族達は言葉を失った。
数百年。
いや。
千年以上かけても達成できなかったこと。
それをアルカディアは一か月でやってみせた。
教育だった。
軍事ではない。
支配でもない。
教育だった。
その頃。
辺境の農村。
かつて貧困に苦しんでいた村。
老人が畑に立つ。
彼は最近。
土属性魔法を覚醒した。
アースウォール。
土壌改良。
水路整備。
農業効率が激変した。
収穫量は三倍。
病害も減少。
さらに。
若者達は風属性を覚醒していた。
害虫駆除。
受粉補助。
種子散布。
農業革命が始まっていた。
そして。
紡織工房。
若い女性達が糸を紡ぐ。
風属性。
念動力。
魔力操作。
全てが利用される。
生産量は十倍。
品質は過去最高。
リーザ達アルカディアの紡織教師が残した技術が根付き始めていた。
人が育つ。
技術が残る。
技術が人を育てる。
好循環が生まれていた。
王城。
セレンスキー国王は報告書を見つめていた。
食料支援。
物流支援。
治癒支援。
農業支援。
教育支援。
どれも軍隊ではない。
しかし。
どの軍隊より強力だった。
「不思議な国だな」
国王が呟く。
宰相も頷いた。
「剣で勝とうとしません」
「人を育てます」
国王は静かに笑った。
「だから強いのだろう」
その頃。
アルカディア中央会議場。
セリナが新たな報告書を閉じた。
「順調です」
マーガレットも笑う。
「予想以上ね」
トミーは机を叩いた。
「商売が回り始めてる」
教育で人材が増える。
人材が生産を増やす。
生産が市場を育てる。
市場が国家を強くする。
それはアルカディアが歩んできた道だった。
ケルナインは窓の外を眺める。
遠くの空。
飛行物流隊が飛んでいる。
教師達が移動している。
農業教師。
治癒教師。
魔法教師。
超能力教師。
誰も命令されて動いていない。
育った人材が。
自ら次の人材を育てている。
それこそが国家だった。
環境が人を育てる。
そして人が環境を作る。
セレンスキー王国でも。
その循環が始まろうとしていた。




