167話:商人派遣
セレンスキー王国。
戦争三年目。
国土の東半分は焼かれていた。
村は消えた。
畑は燃えた。
街道は破壊された。
商人は逃げた。
兵士は疲弊した。
そして。
民が飢えていた。
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アルカディア中央議会。
セレンスキー王国から届いた報告書が机に積まれている。
セリナが口を開いた。
「現在の最大問題は軍事ではありません」
会議室が静まる。
「食料です」
地図が浮かぶ。
赤い印。
飢餓地域。
数百。
数千。
無数。
「戦争で死ぬ人数より」
「飢餓で死ぬ人数の方が多い」
重い沈黙が落ちた。
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トミーが立ち上がる。
「だったら簡単だ」
狐獣人は笑った。
「飯を送ればいい」
会議室から苦笑が漏れる。
だが誰も否定しない。
実際それが正解だった。
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現在のアルカディア。
人口九億。
食料充足率千五百パーセント。
世界最大の農業国家。
余剰食料だけで国家が作れる。
トミーは数字を出した。
「小麦」
「米」
「芋」
「豆」
「塩」
「干し肉」
「保存食」
「一年分送れる」
セレンスキー使者が固まった。
一年分。
国家規模の支援だった。
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マーガレットが頷く。
「食料はある」
「問題は運び方ね」
全員が理解していた。
戦争中なのだ。
地上輸送は危険。
荷馬車は襲われる。
街道は破壊される。
橋も落とされる。
普通の物流は成立しない。
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その時。
ミシェルが立ち上がった。
鳥人族。
飛行物流部隊総責任者。
「飛行物流を開始します」
空中地図が広がる。
アルカディア。
セレンスキー王国。
巨大な空路。
何千本もの線。
会議室がどよめく。
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風属性魔法。
飛行スキル。
レビテーション。
転移。
アイテムボックス。
アルカディアが育てた技術。
全て投入。
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「輸送隊」
「五十万人」
ミシェルが言う。
セレンスキー使者は目を見開いた。
五十万人。
それだけで国家規模。
だがアルカディアでは違う。
教師七億五千万人。
その中の一部に過ぎない。
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翌日。
空が埋まった。
飛行物流隊。
無数。
本当に無数だった。
風属性魔法。
飛行魔法。
巨大な輸送箱。
アイテムボックス。
全てが空を飛ぶ。
地上の兵士達が見上げる。
誰も言葉を失った。
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セレンスキー王国。
首都。
広場。
空から食料が降りてくる。
小麦。
米。
芋。
塩。
保存肉。
薬。
毛布。
衣服。
種子。
農具。
次々と。
次々と。
降りてくる。
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子供達が泣いた。
母親達が泣いた。
老人達が泣いた。
兵士達ですら涙を流した。
久しぶりだった。
未来を見たのは。
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その日の夜。
セレンスキー国王は報告書を見て呟いた。
「軍隊ではない」
震える声だった。
「商人だ」
「教師だ」
「農民だ」
「治癒師だ」
そして。
窓の外を見た。
まだ飛行物流隊が飛んでいる。
終わらない。
止まらない。
まるで空そのものが街道になったようだった。
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アルカディアは兵を送らない。
侵略もしない。
占領もしない。
だが。
飢えを殺す。
病を殺す。
貧困を殺す。
そのための物流を送る。
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戦争中のセレンスキー王国で。
初めて。
食料価格が下がり始めた。
ブーチン帝国が最も恐れた戦いが始まった。
剣ではない。
物流戦争だった。




