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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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160話:8億6千2百万

空は晴れていた。


アルカディア中央議事堂。


世界最大の会議場には、人々が集まっていた。


教師。


治癒師。


農場長。


商人。


行政官。


軍人。


かつて難民だった者。


かつて奴隷だった者。


かつて孤児だった者。


そして。


かつて飢えに苦しんでいた者たち。


今日。


彼らは歴史の証人となる。


アルカディア連邦。


建国以来最大の報告会。



議場中央。


巨大な魔導映像が浮かび上がる。


静寂。


数万人が見守る。


壇上には五人。


エレノア・グランディア。


トミー。


マーガレット・ヴァレリア。


セリナ。


ロバート。


そして一歩後ろ。


ケルナイン。


いつものように前へ出ない。


誰も不思議に思わない。


それが彼だからだ。



司会役の行政官が口を開いた。


「アルカディア連邦、建国統計報告を開始します」


魔導映像が切り替わる。


数字が現れる。


会場が息を呑んだ。



人口。


八億六千二百万人。



教師。


七億五千万人以上。



教導スキル覚醒者。


七億人以上。



兵士。


二億人。



食料充足率。


一五〇〇%以上。



農業圏。


七大農業圏。



教育圏。


全域。



魔法覚醒率。


一〇〇%。



十属性以上覚醒者。


七億人以上。



会場が静まり返る。


数字が大きすぎた。


理解が追い付かない。



行政官が続ける。


「次に、キンペイ帝国の現状です」


映像が切り替わる。


誰もが注目した。



キンペイ帝国。


推定人口。


九千八百万人。



会場がどよめいた。


一億を切った。


かつて世界最大級だった帝国。


圧倒的軍事国家。


巨大人口国家。


それが。


ここまで縮小した。



徴兵失敗。


農村崩壊。


税収崩壊。


物流崩壊。


教育崩壊。


医療崩壊。


職人流出。


教師流出。


軍人流出。


商人流出。


人口流出。



全ての原因は一つだった。


人が出ていった。


ただそれだけ。



会場は静かだった。


歓声はない。


誰も喜ばない。


なぜなら。


戦争で勝ったわけではないからだ。



ロバートが立ち上がる。


元冒険者。


今は二億兵を率いる元帥。


男は会場を見渡した。


そして笑った。


「勝ったな」


会場が少し笑う。


ロバートは続けた。


「戦争してねぇけどな」


笑いが広がった。



ロバートは腕を組む。


「俺は戦士だ」


「だから最初は分からなかった」


「強い軍を作れば勝てると思ってた」


静かに語る。


「違った」


「もっと強ぇもんがあった」


会場が耳を傾ける。


「教育だ」


一言だった。


「教育された農民は飢えねぇ」


「教育された商人は騙されねぇ」


「教育された兵士は逃げねぇ」


「教育された民は国を作る」


ロバートは笑った。


「剣じゃねぇ」


「教育で勝った」


大歓声。


会場が揺れた。



次に立ったのはセリナだった。


ダークエルフの行政長官。


冷静な女。


静寂が戻る。


「私が語ることは一つです」


彼女は数字を見る。


「人は才能で育つのではありません」


「環境で育ちます」


会場が静かになる。


「かつて多くの人は無能と呼ばれました」


「違います」


「学ぶ環境が無かっただけです」


セリナは断言した。


「環境が人を育てた」


「それがアルカディアです」


会場は深く頷いた。



マーガレットが立ち上がる。


赤髪の美女。


巨大商会の会頭。


商業の象徴。


彼女は豪快に笑った。


「私も一つだけ言うわ」


会場が静かになる。


「商売が国を支えた」


即答だった。


「食料を運ぶ」


「薬を運ぶ」


「布を運ぶ」


「知識を運ぶ」


「人を運ぶ」


彼女は笑う。


「商売は金儲けじゃない」


「人を繋ぐ技術よ」


会場から拍手。


「だからアルカディアは勝った」


「流れを止めなかったから」



トミーが立ち上がる。


狐獣人。


昔は小悪党だった男。


今は世界最大物流網の管理者。


男は頭を掻いた。


「難しい話は苦手だ」


会場が笑う。


「俺は数字しか見ねぇ」


再び笑い。


「でもな」


顔が真面目になる。


「一つだけ分かった」


会場が静まる。


「人が集まる国は強ぇ」


その一言だった。


「商人が来る」


「教師が来る」


「職人が来る」


「治癒師が来る」


「農民が来る」


「だから強くなる」


トミーは笑う。


「人が来なくなった国は終わる」


誰も反論できなかった。



最後に。


エレノアが立った。


白髪の老侯爵。


かつて理想を笑われた女。


彼女は会場を見渡す。


目に涙が浮かぶ。


「私は長く生きました」


静かな声。


「多くの国を見ました」


「多くの王を見ました」


「多くの戦争を見ました」


会場は静まり返る。


「ですが」


彼女は微笑んだ。


「民がここまで育った国は見たことがありません」


涙が零れた。


「これこそ理想です」


会場が立ち上がる。


万雷の拍手。



その時だった。


議場の扉が開く。


一人の使者が飛び込んでくる。


王都の紋章。


王国公式使者。


男は震えていた。



「報告です!」


息を切らす。


会場が静まる。



「アルカディア連邦の人口及び国力調査が終了しました!」



「正式認定されます!」



男は震える声で叫んだ。


「世界地図を書き換えねばなりません!」


会場が凍り付く。



使者は宣言する。


「アルカディア連邦」


「人口八億六千二百万人」


「世界最大国家として正式認定されました!」



その瞬間。


会場は爆発した。


歓声。


拍手。


涙。


抱擁。


笑顔。



そして。


遠く。


崩壊したキンペイ帝国。


皇都広場。


民衆が見守る中。


かつて絶対権力を誇った皇帝は倒れていた。


誰も助けない。


誰も支えない。


誰も従わない。


権力だけで国を支配した男の末路だった。


民は静かに去っていく。



一方。


アルカディアでは。


教師が授業を続けていた。


農民が畑を耕していた。


商人が荷を運んでいた。


治癒師が患者を治していた。


誰も浮かれない。


なぜなら。


この国を作ったのは英雄ではない。


民だからだ。



ケルナインは会場の後方から眺めていた。


何も言わない。


必要なかった。


もう国は動いている。


自分がいなくても。



人口八億六千二百万人。


教師七億五千万人以上。


教導スキル覚醒者七億人以上。


兵士二億人。


食料充足率一五〇〇%以上。


世界最大国家。


アルカディア連邦。


それは剣ではなく。


教育と環境が生み出した国家だった。







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