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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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159話:民が国家を作る

朝日が大地を照らしていた。


かつて盗賊に怯え、奴隷商に人を奪われ、飢えと病に苦しんでいた世界。


その面影は、もはやどこにもなかった。


アルカディア連邦。


人口八億人。


食料充足率一五〇〇%超。


魔法属性覚醒率一〇〇%。


教導スキル覚醒者七億人以上。


教師七億五千万人以上。


世界最大の教育国家。


そして。


誰か一人に依存しない国家。


それが今のアルカディアだった。



アルナ村。


最初の村。


全てが始まった場所。


広場では授業が行われていた。


教師は若い女性だった。


元難民。


十年前まで文字も読めなかった。


食べるものもなく。


家族もなく。


未来もなかった。


そんな少女だった。


今。


彼女は三百人の子供へ授業を行っている。


「魔力循環とは何ですか?」


子供たちが一斉に手を上げる。


「魔力を体内で循環させる技術です!」


「魔法の効率が上がります!」


「身体強化にも使えます!」


元難民の教師は微笑んだ。


かつて教わる側だった。


今は教える側だ。


人材が人材を育てる。


その循環が完成していた。



ベルグ村。


巨大農業区画。


見渡す限り畑だった。


空には飛行物流便。


地上には灌漑水路。


農地の中心に立つ男がいる。


農場長。


元奴隷だった。


かつては名前すらなかった。


数字で呼ばれていた。


だが今は違う。


数百万人の食料生産を管理する責任者だ。


「北区画の収穫開始!」


「南区画へ教師派遣!」


「土属性班は灌漑補強!」


命令が飛ぶ。


全員が動く。


農業は力仕事ではない。


知識だ。


教育だ。


管理だ。


それを誰より理解している。


だから彼は農場長になった。



ノース村。


中央治療院。


白衣を着た青年が患者を診察していた。


元孤児。


かつて道端で倒れていた子供。


誰にも必要とされなかった少年。


今。


彼は治癒師だった。


「次の患者さんどうぞ」


光属性魔法。


ヒーリング。


ピュリフィケーション。


浄化。


精製。


治療。


病は昔ほど恐ろしいものではない。


教育された治癒師がいる。


教師がいる。


予防知識がある。


だから病は広がらない。


青年は患者へ微笑む。


「もう大丈夫ですよ」


少女が泣きながら礼を言った。


その光景を見ていた老人が呟く。


「良い時代になったな」



ハイランド村。


行政庁。


書類が山のように積まれている。


しかし誰も慌てていない。


行政官たちが淡々と処理している。


税。


教育。


医療。


物流。


防衛。


人口管理。


全てが仕組み化されている。


昔なら貴族一人が握っていた権力。


今は違う。


知識が共有されている。


教師がいる。


教本がある。


だから誰でも学べる。


だから誰でも運営できる。



リーフ村。


紡織産業区。


巨大工房が並ぶ。


リーザ。


リーブ。


リーゼ。


三人のエルフが歩いていた。


織機の音が響く。


職人たちが働く。


美しい布が次々生まれる。


「生産量は?」


リーザが聞く。


「先月比一二七%増加」


「良いですね」


リーブが頷く。


「新規職人も増えています」


リーゼが笑った。


「教師制度が効いていますね」


昔なら職人は技術を隠した。


今は違う。


教える。


育てる。


共有する。


だから増える。


だから発展する。


紡織産業は爆発的成長を続けていた。



ストーン村。


鍛冶区画。


ベルンが弟子を指導している。


横ではドワーフたちも働いていた。


ガイル。


バルド。


グラン。


多くの職人がいる。


誰も技術を独占しない。


誰も後継者不足で悩まない。


なぜなら。


教える文化があるから。



空。


飛行物流便が飛ぶ。


農産物。


薬品。


教材。


布。


工具。


食料。


全てが流れる。


物流が止まらない。


教育が止まらない。


経済が止まらない。



そして。


中央都市アルカディア。


エレノア・グランディア侯爵は馬車から降りた。


白髪の老侯爵。


かつて奴隷制度へ反対し続けた貴族。


その目が揺れていた。


彼女は歩く。


学校を見る。


農場を見る。


治療院を見る。


役所を見る。


市場を見る。


どこへ行っても同じだった。


民が動いている。


民が学んでいる。


民が教えている。


誰も命令を待たない。



エレノアは気付く。


ケルナインがいない。


中央会議にもいない。


学校にもいない。


農場にもいない。


治療院にもいない。


なのに回っている。


完全に。


見事に。


自律している。



広場。


エレノアはマイケルを見つけた。


かつて泣き虫だった少年。


今は教師の教師だった。


数万人を育成している。


「マイケル」


「エレノア様」


「ケルナイン殿はどこですか」


マイケルは笑った。


「分かりません」


エレノアは目を丸くする。


「分からない?」


「はい」


マイケルは頷いた。


「でも問題ありません」


「問題ない?」


「先生は最初からそういう人です」


「教えるだけです」


「後は自分たちで考えろと言います」


エレノアは沈黙した。



気付いてしまった。


これは国家ではない。


思想だ。


文化だ。


教育そのものだ。


だから消えない。


一人が死んでも終わらない。


一人がいなくなっても止まらない。



夕方。


高台。


エレノアはアルカディア全景を見下ろしていた。


飛行物流便。


巨大農地。


学校。


工房。


治療院。


市場。


都市。


村。


全てが動いている。


全てが生きている。


全てが繋がっている。



彼女の目から涙が零れた。


長い人生だった。


奴隷制度へ反対した。


民を守ろうとした。


何度も敗れた。


何度も笑われた。


理想は実現しないと言われた。


だが。


今。


目の前にある。



エレノアは静かに呟いた。


「これが理想郷ですか」


誰も答えない。


必要なかった。


答えは目の前にある。



民が教師になる。


民が農場長になる。


民が治癒師になる。


民が行政官になる。


民が商人になる。


民が国家を支える。


誰か一人が支配する国ではない。


誰か一人が救う国でもない。


民自身が作る国。


それがアルカディアだった。


そしてこの日。


人口は八億人を突破した。


世界最大の教育国家。


世界最大の自律国家。


人材が人材を育て続ける循環国家。


アルカディア。


その歩みは、まだ止まらない。







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