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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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158話:商人王トミー

物流が国家を支える。


朝。


アルカディア連邦中央物流庁。


巨大な建物の最上階。


壁一面を覆う立体映像の前で、一人の狐獣人が腕を組んでいた。


トミーである。


かつては調子がよく、要領ばかり考えていた青年。


強い者に取り入り、損を避けることばかり考えていた男。


そんな彼は今。


七億人国家の物流を支配する存在になっていた。


立体映像には連邦全域が映っている。


農業圏。


工業圏。


商業圏。


港湾都市。


飛行物流拠点。


全てが光の線で繋がっていた。


無数の光点。


それは貨物便。


旅客便。


商業便。


医療便。


教育便。


一日に数千万便が飛び交っている。


トミーは笑った。


「昔なら頭がおかしくなる数字だな」


隣で秘書が苦笑する。


「もう誰も驚きませんよ」


「慣れって怖ぇな」


そう言いながらも目は真剣だった。


七億人。


それだけの人間を飢えさせない。


それが彼の仕事だった。



物流とは何か。


トミーは昔から考えていた。


答えは単純だった。


運ぶことではない。


必要な場所に。


必要な物を。


必要な量だけ。


必要な時に届けること。


それが物流だ。


そして国家を支える血流でもある。



巨大倉庫群。


そこには穀物が積み上がっている。


小麦。


大麦。


米。


豆。


芋。


乾燥野菜。


保存肉。


保存果物。


食料は無限に見える。


しかしトミーは油断しない。


「在庫報告」


部下が答える。


「中央穀倉地帯」


「六ヶ月分」


「北部」


「七ヶ月分」


「東部」


「五ヶ月分」


「南部」


「八ヶ月分」


トミーは頷いた。


十分だ。


だが安心はしない。


飢餓は突然来る。


病。


災害。


人口増加。


予想外は必ず起きる。


だから備える。



在庫管理。


これがトミー最大の武器だった。


魔法より強い。


剣より強い。


戦争より強い。


なぜなら。


飢えた国家は必ず滅ぶからだ。


逆に。


食える国家は強い。


単純な話だった。



商業学校。


数万人の若者が学んでいる。


教師は元商人。


元冒険者。


元職人。


元農民。


様々な経歴を持つ者たちだ。


教える内容も多い。


在庫。


流通。


原価。


交渉。


信用。


市場。


会計。


税制。


物流。


全てだ。


トミーは講義を見ていた。


若い教師が言う。


「商売とは儲けることではありません」


生徒たちが顔を上げる。


「商売とは人を繋ぐことです」


静まり返る教室。


教師は続けた。


「農民と職人を繋ぐ」


「職人と商人を繋ぐ」


「商人と客を繋ぐ」


「それが商売です」


トミーは少し笑った。


良い教師だ。



かつて商人は嫌われていた。


右から左へ流すだけ。


何も生み出さない。


そんな風に言われていた。


だが違う。


流れを作る。


止めない。


維持する。


それが商人だ。


そして国家は流れで出来ている。



マーガレットが部屋へ入ってきた。


赤い髪を揺らしながら歩く。


ヴァレリア商会会頭。


アルカディア最大の商人。


「数字見た?」


「見た」


トミーが笑う。


マーガレットも笑った。


「また増えたわね」


「止まらねぇな」


人口。


企業数。


流通量。


全て増えている。



二人は巨大地図を見る。


アルカディア商業圏。


それはもはや国家ではない。


世界経済そのものだった。


旧ジョンウン王国。


旧キンペイ開拓区。


北方諸国。


南方連合。


西方都市国家群。


東方海洋国家群。


全てがアルカディア経済圏に組み込まれている。



マーガレットが言う。


「世界中の商人が来てる」


「だろうな」


「商売するならここだもの」


その通りだった。


安全。


安定。


教育。


物流。


市場。


全てが揃っている。


商人にとって理想郷だった。



毎日のように移住者が来る。


商人。


職人。


学者。


医者。


教師。


冒険者。


軍人。


誰もが未来を求めてやって来る。



その頃。


キンペイ帝国。


帝都。


市場は静まり返っていた。


商人がいない。


職人がいない。


客もいない。


あるのは空き店舗だけ。


かつて世界最大級だった商業都市。


今は見る影もない。



さらに問題が起きていた。


通貨暴落。


キンペイ帝国通貨。


価値が毎日のように下がる。


税収減少。


人口流出。


生産力低下。


信用崩壊。


全てが連鎖していた。



ある商人が言った。


「この金貨じゃパンも買えない」


別の商人が答える。


「アルカディア通貨なら買える」


それが全てだった。


信用は数字ではない。


人が決める。


そして人は移住している。



アルカディア中央銀行。


セリナが報告書を見ていた。


「キンペイ通貨暴落」


「アルカディア通貨流通率八十四パーセント突破」


周囲がどよめく。


もはや連邦外でもアルカディア通貨が使われていた。



戦争ではない。


侵略でもない。


経済だった。


信用だった。


教育だった。


人材だった。



トミーは夕方になって倉庫街を歩く。


飛行貨物便が空を埋めている。


巨大な輸送網。


巨大な市場。


巨大な経済圏。


全てが動いている。


誰か一人では維持できない。


何百万人。


何千万人。


何億人。


人が支えている。



そこでトミーは一人の少年を見る。


新米商人だった。


荷物を抱えて走っている。


昔の自分に似ていた。


不器用で。


少しズルくて。


でも必死だった。


「頑張れよ」


小さく呟く。


少年は気付かない。


それでいい。



ケルナインも同じだった。


前には出ない。


教えるだけ。


育てるだけ。


あとは本人が歩く。


だから強い。


だから続く。



夜。


中央会議。


最終報告が行われる。


トミーが壇上に立った。


「物流網完成」


「商業教育網完成」


「アルカディア商業圏完成」


会場が静まる。


続く数字に誰もが息を飲んだ。


「人口」


「七億三千万人突破」


歓声が上がる。


「アルカディア通貨」


「世界最大流通通貨」


さらに歓声。


「世界商人移住者数」


「三億人突破」


拍手が鳴り響く。



トミーは少しだけ笑った。


昔。


食うためにズルをしていた男。


今。


七億人国家を支える商人王。


人生は分からない。


だが一つだけ分かることがある。


物流が止まれば国家は死ぬ。


物流が流れれば国家は生きる。


だから流す。


止めない。


それが商人の仕事だ。


そしてこの日。


アルカディア経済圏は完全体となった。


農業。


工業。


教育。


物流。


商業。


全てが繋がった。


人材が人材を育てる循環。


物資が物資を呼ぶ循環。


経済が経済を育てる循環。


その中心には、一人の狐獣人がいた。


かつて弱者のズルさを知っていた男。


今や世界最大の物流網を動かす男。


商人王トミー。


彼の作った流れは、もはや誰にも止められなかった。







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