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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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154話:旧キンペイ開拓区

かつて。


世界は土地を奪い合っていた。


だが今。


アルカディア連邦が抱える問題は違った。


土地が足りないのではない。


開発が追いつかないのである。


人口三億人。


移住希望者はさらに増加。


毎月。


毎週。


毎日。


キンペイ帝国から人が流れてくる。


飢餓。


重税。


腐敗。


徴兵。


奴隷制度。


未来のない土地から。


未来のある土地へ。


人は流れる。


それは水と同じだった。


止められない。



アルカディア中央行政庁。


巨大な会議室。


壁一面に地図が並んでいた。


旧ジョンウン王国。


完全開拓済み。


農地化率九十八パーセント。


主要道路整備完了。


教育網構築完了。


医療網構築完了。


セリナは腕を組んでいた。


ダークエルフの美女は静かに地図を見つめる。


「次へ行くしかないわね」


誰も反論しなかった。


既に結論だった。


旧ジョンウン王国だけでは足りない。


人が増えすぎた。


豊かさが人を呼ぶ。


教育が人を呼ぶ。


食料が人を呼ぶ。


だから次の土地が必要になる。


セリナは地図の北を指差した。


「旧キンペイ帝国国境地帯」


会議室が静かになる。


広大な土地。


しかし放置されていた。


荒地。


湿地。


耕作放棄地。


放棄された村。


捨てられた都市。


本来なら開発に百年以上かかる。


しかし。


ここはアルカディア連邦だった。



同時刻。


物流省本部。


トミーは机に地図を広げていた。


隣にはマーガレット。


そして数百人の物流責任者。


「よっしゃ」


狐獣人は笑った。


「全部つなぐぞ」


周囲が頷く。


旧ジョンウン王国。


アルナ村。


ベルグ村。


ノース村。


ハイランド村。


リーフ村。


ストーン村。


さらに新都市。


新農業区。


新工業区。


それら全てを一本の流れにする。


トミーの得意分野だった。


在庫。


流通。


相場。


原価。


それらを見抜く商売スキル。


数億人規模になっても機能する。


それが彼だった。


「食料は?」


「余裕です」


「建材は?」


「余裕です」


「教師は?」


「余裕です」


「治癒師は?」


「余裕です」


トミーは笑う。


「ほんま恐ろしい国になったな」



マーガレットも笑った。


「だから投資する価値があるのよ」


赤髪の美女商人。


ヴァレリア商会会頭。


彼女の前には数字が並ぶ。


投資額。


過去最大。


国家予算級。


普通の商人なら震える数字だった。


しかしマーガレットは迷わない。


なぜなら分かっている。


教育へ投資した金は返ってくる。


農地へ投資した金は返ってくる。


人材へ投資した金は返ってくる。


アルカディア連邦では。


それが証明され続けていた。


「物流網建設」


「倉庫建設」


「住宅建設」


「学校建設」


「病院建設」


「全部やるわ」


「景気ええなぁ」


「当然よ」


「うちの子の未来もあるんだから」


トミーが少し照れる。


マーガレットは母になった。


だが商人としてもさらに強くなっていた。



開拓は始まった。


数千万人。


数億人。


人が動く。


空を飛んで。


風属性。


レビテーション。


飛行魔法。


今や誰もが使える。


通勤時間という概念が崩れていた。


朝。


都市を出る。


空を飛ぶ。


数百キロ先へ到着。


農地で働く。


夕方帰る。


終わり。


距離の問題は消えていた。



旧キンペイ開拓区第一号。


人口一千万人。


完成。


第二号。


人口二千万人。


完成。


第三号。


人口三千万人。


完成。


第四号。


人口五千万人。


完成。


都市が生まれる。


学校が建つ。


病院が建つ。


市場ができる。


農地が広がる。


人が住む。


そしてまた人が増える。



農業教師たちは忙しかった。


二億人の教師。


そのうち数千万人が農業教師。


彼らは移住者へ教える。


土を作る方法。


水路の作り方。


肥料の作り方。


病害虫対策。


魔法農法。


超能力農法。


全て教える。


だから一年目から収穫できる。


だから飢えない。


だから定着する。



マイケルは開拓区の学校を訪れていた。


新設校。


開校三日目。


生徒数二万人。


教師数一万人。


普通なら異常だ。


しかしアルカディアでは普通だった。


教室。


老人が学ぶ。


子供が学ぶ。


元兵士が学ぶ。


元奴隷が学ぶ。


元農民が学ぶ。


全員が学ぶ。


「教育は希望です」


マイケルが言う。


誰も反論しない。


目の前に結果があるからだ。



キンペイ帝国では逆だった。


村が消える。


町が消える。


学校が閉鎖される。


市場が崩壊する。


税収が消える。


兵士も逃げる。


教師も逃げる。


医者も逃げる。


職人も逃げる。


残るのは支配者だけ。


国境警備隊長は報告書を見て青ざめた。


「今月だけで一千二百万人流出」


副官も顔色が悪い。


「止まりません」


「なぜだ」


副官は答える。


「向こうには未来があります」


それ以上の説明は不要だった。



アルカディア連邦。


中央統計局。


最新数字が発表された。


人口。


三億人突破。


教師。


二億五千万人突破。


教導スキル保持者。


二億人突破。


十属性以上覚醒者。


二億人突破。


連邦兵士。


二億人突破。


食料充足率。


千二百パーセント以上維持。


数字を見た者たちは静かになった。


もはや比較対象が存在しない。



夕暮れ。


旧キンペイ開拓区。


かつて荒野だった場所。


今は黄金色の穂が揺れている。


子供たちが走る。


教師が笑う。


農民が働く。


職人が家を建てる。


商人が商品を運ぶ。


治癒師が病人を診る。


誰も飢えていない。


誰も学びを拒まれていない。


誰も未来を奪われていない。


土地はあった。


人もいた。


足りなかったのは環境だけだった。


そして今。


アルカディア連邦はその環境を作り続けている。


旧ジョンウン王国全土は完全開拓済み。


次の舞台は旧キンペイ開拓区。


人が育つ場所は。


さらに北へ。


さらに遠くへ。


果てしなく広がっていくのだった。







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