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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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153話:教師二億人

空を見上げれば、人が飛んでいる。


それはアルカディア連邦では当たり前の光景になっていた。


かつては奇跡。


今は日常。


風属性魔法。


レビテーション。


飛行技術。


教育によって習得した者たちが、朝になれば空を渡り、それぞれの職場へ向かう。


農地へ。


工房へ。


病院へ。


学校へ。


そして。


教師たちは今日も教壇へ向かっていた。


アルカディア連邦。


人口二億五千万人。


教師数二億人。


世界史上どこにも存在しなかった国家である。


その中心にいたのは、一人の男だった。


マイケル。


かつて泣き虫だった少年。


自信がなく。


失敗ばかりしていた少年。


今では世界最大の教育機構を率いる人物となっていた。


巨大な教育省本部。


数万人が働く建物。


その最上階。


マイケルは窓の外を眺めていた。


空には教師たちが飛んでいる。


何百万人。


何千万人。


それほどの教師が今日も人を育てている。


「先生」


秘書が声を掛けた。


「第二次教師育成計画の結果がまとまりました」


「見せて」


書類が差し出される。


数字を見た瞬間。


マイケルは静かに息を吐いた。


教師数。


二億人突破。


教導スキル保持者。


一億五千万人突破。


学校総数。


四千万校突破。


「……すごいな」


思わず呟く。


だが。


これは終わりではない。


始まりだった。


教育は最大の生産力。


それがアルカディア連邦の結論だった。



農業学校。


建築学校。


商業学校。


医療学校。


魔法学校。


戦闘学校。


アルカディア連邦には無数の学校が存在していた。


子供だけではない。


大人も学ぶ。


六十歳でも。


七十歳でも。


学ぶ。


誰でも学ぶ。


それが当たり前だった。


元農奴。


元奴隷。


元盗賊。


元傭兵。


元流民。


全員が学ぶ。


だから強くなる。


だから豊かになる。


だから国家が成長する。


アルナ村出身の老人がいた。


七十歳。


昔は文字も読めなかった。


今では教師だった。


農業教師。


数千人を指導している。


「土は生きている」


「水は流れを読む」


「作物は人を見る」


若者たちは真剣に聞いていた。


学ぶことが当たり前だからだ。



旧ジョンウン王国跡地。


巨大農業地帯。


地平線まで畑だった。


小麦。


米。


野菜。


果樹。


薬草。


全てが育っている。


風属性魔法。


水属性魔法。


土属性魔法。


教師たちが教え続けた結果だった。


食料充足率。


千二百パーセント以上。


二億五千万人が食べても余る。


さらに輸出もできる。


さらに備蓄もできる。


飢餓。


その言葉はアルカディア連邦から消えていた。



病院も同じだった。


エルナが率いる中央医療院。


数万人の治癒師。


数十万人の看護師。


数百万人の医療教師。


毎日。


新しい治癒師が誕生していた。


病は治る。


怪我も治る。


子供は育つ。


老人も長生きする。


だから人口は増える。


だから未来が生まれる。



その日。


ヴァレリア商会本部。


トミーは走っていた。


珍しく慌てていた。


部下たちも驚いている。


「会頭!」


「大変です!」


「知っとる!」


「知ってるんですか!?」


「今から行くんや!」


そして。


病院へ飛び込む。


診察室。


そこにはマーガレットがいた。


赤い髪。


長身。


美しい顔。


そして。


腕の中に小さな命。


トミーは固まった。


「……」


声が出ない。


マーガレットが笑った。


「ほら」


「抱いてみなさい」


トミーは恐る恐る抱く。


軽い。


小さい。


暖かい。


泣きそうになった。


「俺の子か」


「誰の子やと思ってたんや」


マーガレットが呆れる。


トミーは笑った。


そして。


泣いた。


周囲の医師たちも笑っている。


世界最大の物流責任者。


世界最大の商業責任者。


そんな肩書きは関係ない。


ただの父親だった。


「名前は?」


マーガレットが聞く。


トミーは答えた。


「まだ考えてへん」


「商売より先に考えなさい」


「無茶言うな」


二人は笑った。



だが。


それは特別な話ではなかった。


アルカディア連邦全体で起きていた。


出生数。


年間一千万人突破。


過去最大。


病がない。


飢餓がない。


仕事がある。


教育がある。


未来がある。


だから子供が生まれる。


それは自然なことだった。


学校では子供たちが走り回る。


公園では赤ん坊が笑う。


病院では新しい命が生まれる。


保育施設も増設。


教師も増設。


全てが追いつかないほどだった。


しかし。


誰も悲観しない。


なぜなら。


教師がいるからだ。



マイケルは中央教育会議に立っていた。


目の前には数万人。


いや。


通信を含めれば数億人。


全教師へ向けた演説だった。


静まり返る会場。


マイケルはゆっくり話し始めた。


「僕は昔」


「弱かった」


「泣き虫でした」


会場が静かになる。


誰も笑わない。


皆知っている。


彼の過去を。


「でも」


「教えてもらった」


「育ててもらった」


「だから今があります」


声が響く。


「教育は人を変えます」


「教育は村を変えます」


「教育は国を変えます」


さらに続ける。


「武器は壊れます」


「城も壊れます」


「お金も失います」


「でも知識は残ります」


教師たちは頷いた。


「だから」


「僕たちは教え続けます」


「子供を」


「大人を」


「農民を」


「職人を」


「兵士を」


「商人を」


「全ての人を」


拍手が起きる。


やがて歓声へ変わる。


それは数億人の歓声だった。



その頃。


キンペイ帝国。


人口流出は止まらなかった。


空になった村。


空になった街。


閉鎖された学校。


崩壊する市場。


原因は単純だった。


アルカディアには教師がいる。


キンペイ帝国には教師がいない。


アルカディアには未来がある。


キンペイ帝国には未来がない。


民は賢かった。


だから移動する。


だから流出する。


だから国家が崩れる。



夕暮れ。


アルカディア連邦。


無数の学校に灯りがともる。


夜間学校。


成人学校。


職業学校。


教師たちはまだ教えていた。


子供たちはまだ学んでいた。


二億人の教師。


二億五千万人の国民。


そして。


さらに増え続ける人口。


アルカディア連邦。


それはもはや軍事国家ではなかった。


商業国家でもない。


農業国家でもない。


教育国家だった。


環境が人を育てる。


その理念が。


二億人の教師によって。


世界そのものを書き換え始めていた。







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