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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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17話:トミー加入

朝の村は活気に満ちていた。


かつて貧困村と呼ばれたこの場所は、少しずつ姿を変えている。


畑では土魔法を覚えた農民たちが耕作を進めている。


水魔法を覚えた者たちは水路の整備を行う。


治療院ではマイケルとエルナが病人を診ていた。


魔法学校からは子供たちの声が聞こえてくる。


村は生きていた。


そして成長していた。


その日の昼。


村の門に一人の獣人が現れた。


狐耳。


細身。


年齢は二十代前半。


目だけは妙に鋭い。


背には大きな荷物を背負っている。


門番をしていたエミリーが腕を組んだ。


「何しに来た?」


狐獣人は笑う。


「飯を食いに」


「帰れ」


即答だった。


狐獣人は肩を落とした。


「酷くない?」


「怪しいからな」


「いやいや」


「俺はただの商人志望だ」


「商人志望?」


エミリーの眉が動いた。


狐獣人は胸を張る。


「名前はトミー」


「将来は大商人」


「今は無職」


「食う金もない」


「宿代もない」


「財布も軽い」


「未来も軽い」


エミリーは深いため息を吐いた。


「救いようがないな」


「でも情報は持ってる」


トミーの目が細くなる。


それを聞いた瞬間。


エミリーの顔つきが変わった。


「中に入れ」


「現金だなぁ」


「違う」


「情報は価値だ」


トミーは笑った。


その考え方が好きだった。


だからこの村まで来たのだ。


最近。


各地で噂になっている。


盗賊を撃退した村。


病人が減った村。


農業革命が始まった村。


魔法学校ができた村。


そして。


誰でも学べる村。


そんな場所があるらしい。


最初は信じなかった。


だが。


調べれば調べるほど。


噂は本当だった。


だから来た。


生き残るために。


そして。


賭けるために。


村の未来へ。


---


トミーは村を歩いた。


驚く。


本当に驚く。


畑が違う。


農民が違う。


空気が違う。


貧困村なのに希望がある。


普通は逆だ。


貧しい場所ほど諦めが漂う。


ここにはそれがない。


子供たちは笑っている。


老人は働いている。


大人たちは学んでいる。


何かがおかしい。


良い意味で。


---


村役場代わりの建物。


そこにセリナがいた。


ダークエルフ。


長い銀髪。


冷静な瞳。


書類の山を処理している。


トミーは一目見て理解した。


「頭のいい奴だ」


セリナも理解した。


「要領のいい男ね」


二人の視線が交わる。


互いに笑わない。


似ているからだ。


人を見る。


流れを見る。


損得を見る。


そういう種類の人間だった。


「何しに来たの?」


セリナが聞く。


「移住希望」


「理由は?」


「儲かりそうだから」


セリナは少しだけ笑った。


正直だった。


嫌いではない。


「普通は理想とか言うものよ」


「飯の方が大事だろ」


「確かに」


トミーは続ける。


「それに」


「ここは伸びる」


「なぜ?」


「人が集まるから」


即答だった。


セリナの目が細くなる。


「続けて」


「強い国は土地じゃない」


「人だ」


「人が集まれば金が集まる」


「金が集まれば商売が生まれる」


「商売が生まれれば物流が生まれる」


「物流が生まれれば国になる」


静かになった。


セリナは驚いていた。


自分と同じ結論に辿り着いている。


この男。


ただの口先ではない。


---


夕方。


ケルナインも話を聞いた。


トミーは正直に話した。


「俺は善人じゃない」


「知ってる」


「鑑定か?」


「そうだ」


トミーは苦笑した。


隠す意味がない。


「強い奴につく」


「知ってる」


「見栄っ張り」


「知ってる」


「少しズルい」


「知ってる」


「全部知ってるなら何で受け入れる?」


ケルナインは答える。


「悪人じゃないからだ」


トミーは黙った。


「人は完璧じゃない」


「ズルさもある」


「弱さもある」


「見栄もある」


「問題は何をするかだ」


ケルナインの視線は真っ直ぐだった。


「お前は盗まない」


「殺さない」


「人を売らない」


「仲間を裏切らない」


「それで十分だ」


トミーは初めて言葉を失った。


今まで。


どこへ行っても信用されなかった。


要領がいいから。


口が上手いから。


信用されなかった。


ここでは違った。


見抜いた上で受け入れている。


それが妙に嬉しかった。


---


翌日。


トミーは働き始めた。


最初の仕事は倉庫整理。


不満そうだった。


「商人志望に倉庫番?」


セリナが言う。


「まず覚えなさい」


「何を?」


「在庫」


その日。


トミーは一日中倉庫を見た。


麦。


塩。


布。


木材。


鉄。


薬草。


水瓶。


鍋。


工具。


そして気付く。


足りない物。


余っている物。


動きの遅い物。


必要になる物。


見えてくる。


翌日。


セリナに報告した。


「麦が足りなくなる」


「理由は?」


「移住者が増えてる」


「正解」


「布が足りない」


「理由は?」


「冬前に需要が来る」


「正解」


「塩が余る」


「理由は?」


「供給が多すぎる」


「正解」


セリナは驚いていた。


才能がある。


本物だ。


---


数日後。


トミーは魔法学校にも通い始めた。


魔力操作。


魔力循環。


風魔法。


水魔法。


光魔法。


何でも学ぶ。


特に得意だったのは風属性だった。


索敵。


探索。


移動。


情報収集。


商人と相性が良すぎた。


遠くを見る。


音を聞く。


流れを読む。


まるで生まれつきの才能だった。


---


ある日。


ケルナインが言った。


「商売とは何だ?」


トミーは答える。


「儲けること」


「半分正解だ」


ケルナインは続けた。


「商売とは不足を埋めることだ」


その言葉は深く刺さった。


不足。


それは貧困。


それは病。


それは飢え。


それは知識。


それは人材。


全てだった。


「人が困っている場所に価値がある」


「価値を届ければ感謝される」


「感謝が信用になる」


「信用が商売になる」


トミーは黙って聞いていた。


人生で初めて。


商売を教わった気がした。


---


夕暮れ。


村を見下ろす丘。


トミーは一人で立っていた。


畑が見える。


学校が見える。


治療院が見える。


子供たちが走っている。


老人たちが笑っている。


貧困村だった場所。


今は違う。


成長する村だった。


トミーは小さく笑う。


「面白くなってきたな」


ここなら。


本当に国になるかもしれない。


剣だけではない。


魔法だけでもない。


人材。


教育。


物流。


商売。


全てが揃い始めている。


そして狐獣人トミーもまた。


環境によって育てられる一人になろうとしていた。







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