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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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152.3話:流れる民

キンペイ帝国。


崩壊は戦争から始まらなかった。


反乱でもなかった。


民が消え始めたのだ。


最初は小さな流れだった。


一万人。


十万人。


百万人。


帝国の役人たちは気にしなかった。


辺境の貧民が消えたところで問題ないと思っていた。


しかし。


一か月後。


報告書を見た地方総督は顔面蒼白になった。


「今月の流出者数……一千百二十万人?」


何度見ても数字は変わらない。


間違いではなかった。


一か月で一千万人以上。


都市一つ分の人口が消えたのだ。


「ふざけるな!」


机が吹き飛ぶ。


怒鳴り声が響く。


しかし数字は変わらない。


現実だった。


さらに問題は続く。


消えたのは老人だけではない。


若者。


職人。


農民。


商人。


教師。


兵士。


働ける人間から消えていた。


帝国各地で異変が起き始める。


農地。


耕す者がいない。


工房。


働く者がいない。


市場。


客がいない。


都市。


人がいない。


空洞化。


まさにその言葉だった。


地方都市・龍河。


人口百二十万人。


かつて栄えた都市。


現在。


人口八十万人。


一か月で四十万人消えた。


酒場の主人が呟く。


「また消えたな」


常連だった客もいない。


鍛冶屋もいない。


商人もいない。


誰もいない。


理由は一つ。


アルカディア連邦。


そこへ行けば食える。


病が治る。


学べる。


働ける。


未来がある。


だから皆行く。


単純な話だった。


生きたいだけだった。


同じ頃。


アルカディア連邦。


旧ジョンウン王国跡地。


巨大農業区画。


空を埋め尽くす人影。


風魔法による飛行通勤。


数万人単位で空を飛ぶ。


朝になれば畑へ向かう。


夕方になれば帰る。


もはや当たり前の光景だった。


農地はさらに拡大していた。


地平線の向こうまで畑。


小麦。


大豆。


芋。


果樹園。


牧草地。


どこまでも続く。


食料不足など起きようがない。


食料充足率千二百%以上。


数字が現実になっていた。


巨大倉庫群では物流が動く。


そこにいるのはトミーだった。


狐獣人の男。


商売スキル覚醒者。


物流を束ねる男。


「西倉庫三百二十万トン移送!」


「了解!」


「南農区の在庫確認!」


「完了!」


「第五輸送隊出発!」


指示が飛ぶ。


部下が走る。


トミーは巨大地図を見ていた。


そこへ。


見慣れた赤髪が現れる。


マーガレット・ヴァレリア。


巨大商会の会頭。


そしてトミーの妻だった。


「おーい」


「ん?」


トミーが振り返る。


しかし。


妙だった。


マーガレットがいつもより静かだった。


「どうした?」


「ちょっと話ある」


「なんや?」


マーガレットは珍しく視線を逸らした。


トミーが首を傾げる。


「商会で損でもしたか?」


「違う」


「じゃあ税金か?」


「違う」


「キンペイ帝国が滅びた?」


「まだや」


「じゃあ何や」


マーガレットは数秒黙った。


そして。


小さく言う。


「子供できた」


時間が止まった。


トミーも止まった。


完全停止だった。


「……は?」


「だから」


マーガレットが顔を赤くする。


「子供や」


「妊娠した」


再び沈黙。


十秒。


二十秒。


三十秒。


トミーは動かない。


完全に固まった。


周囲の部下たちも気付く。


「あ」


「言った」


「ついに」


皆が見守る。


そして。


トミーが叫んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


倉庫が揺れた。


鳥が飛び立った。


部下が耳を塞ぐ。


「親父になるぞおおおおおおお!!」


大騒ぎだった。


マーガレットは額を押さえた。


「うるさい」


「だって子供やぞ!?」


「知っとる」


「俺の子やぞ!?」


「当たり前や」


「世界一かわいいやろ!」


「まだ生まれてへん」


周囲は笑った。


久しぶりだった。


こんな平和な笑いは。


外では何千万人が移住している。


国家が崩れている。


世界が変わっている。


それでも。


人は生きる。


家族を作る。


子供を育てる。


それこそがアルカディアの強さだった。


同じ頃。


キンペイ帝国。


皇帝は報告書を握り潰していた。


今月流出者数。


一千三百万人。


翌月予測。


一千五百万人。


止まらない。


誰も止められない。


兵を出しても意味がない。


飢えた民は命懸けで逃げる。


処刑しても意味がない。


翌日にはさらに増える。


噂が事実になったからだ。


アルカディアへ行けば生きられる。


その事実が。


帝国を内側から食い潰していた。


戦争ではない。


侵略でもない。


民が未来を選んだだけだった。


そして流れはさらに加速していく。


誰にも止められないほどに。


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