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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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152話:大流出

アルカディア連邦。


かつて貧困と病に苦しんでいた小さな村から始まった共同体は、いまや人口八千万に迫ろうとしていた。


農地はどこまでも広がる。


旧ジョンウン王国。


かつて圧政と飢餓で知られたその土地は、いまでは巨大な穀倉地帯へ変貌していた。


空を見上げれば無数の人影が飛ぶ。


風魔法。


レビテーション。


飛行術。


教導スキル。


教育。


それらが結び付いた結果だった。


もはや通勤の概念すら変わった。


百キロ先の畑へ朝飛び立ち、夕方には帰宅する。


それが当たり前になっていた。


農民も飛ぶ。


教師も飛ぶ。


職人も飛ぶ。


子供ですら飛ぶ。


アルカディア連邦では珍しい光景ではない。


そして。


その事実が世界を震撼させていた。


王都。


巨大な議事堂。


重臣たちが並ぶ中、一人の女性が歩く。


エレノア・グランディア侯爵。


かつて奴隷制度へ反対し続けた老侯爵。


いまでは若返った肉体を持つ美貌の侯爵である。


議場へ入った瞬間。


空気が変わった。


「エレノア侯爵だ」


「戻られたぞ」


「アルカディアの報告だ」


ざわめきが広がる。


王も玉座から身を乗り出した。


「報告を」


エレノアは一礼した。


そして静かに告げる。


「アルカディア連邦の現在人口は八千万に到達寸前です」


議場が凍った。


誰も声を出せない。


一人の伯爵が立ち上がる。


「は?」


「聞き間違いか?」


「八百万ではないのか?」


エレノアは首を横に振る。


「違います」


「八千万です」


沈黙。


数秒。


その後。


議場が爆発した。


「馬鹿な!」


「国家規模ではないか!」


「いや国家を超えている!」


「どうやって養っている!?」


「食料は!?」


「教育は!?」


質問が飛び交う。


エレノアは冷静だった。


「食料充足率は千二百%以上」


「教師は四千万人以上」


「教導スキル覚醒者六千万人以上」


「十属性以上の覚醒者三千万人以上」


「兵士四千万人以上」


再び沈黙。


理解が追い付かない。


一人の侯爵が震えながら言った。


「そんなもの……国家ではない」


エレノアは微笑んだ。


「その通りです」


「だから彼らは国号を変えました」


議場が静まる。


王が尋ねる。


「名は」


エレノアは胸を張った。


「アルカディア連邦」


その名が響く。


理想郷。


誰かが呟いた。


「楽園か……」


エレノアは首を振る。


「違います」


「彼らは楽園を与えてはいません」


「作り方を教えたのです」


議場は静まり返った。


それこそが恐ろしかった。


救済ではない。


教育だった。


施しではない。


自立だった。


だから増え続ける。


だから止まらない。


だから崩れない。


同じ頃。


キンペイ帝国。


辺境都市・東寧。


広場には痩せた人々が並んでいた。


食料配給。


しかし。


何も来ない。


三日。


五日。


七日。


子供が泣く。


母親が倒れる。


老人が動かなくなる。


飢餓。


病。


絶望。


そして。


空から声が降った。


「聞こえるか」


人々が顔を上げる。


風魔王放送。


空気を媒体にした広域伝達魔法。


アルカディアが開発した技術だった。


「アルカディア連邦は移住者を受け入れる」


「食料を支給する」


「病を治療する」


「子供へ教育を行う」


「移住希望者は指定地点へ集まれ」


広場が静まり返る。


誰も信じない。


最初は。


当然だった。


しかし。


一週間後。


実際に移住した者が戻ってきた。


痩せていた男が。


太っていた。


病人だった女が。


歩いていた。


文字を書けなかった子供が。


本を読んでいた。


噂が走る。


瞬く間に。


「本当らしい」


「飯が出るらしい」


「病が治るらしい」


「子供が学校へ行くらしい」


「魔法も教えるらしい」


そして。


人は動き始めた。


生きるために。


その夜。


都市の南門から数万人が消えた。


翌日。


十万人。


三日後。


五十万人。


一週間後。


百万人。


流れは止まらなかった。


もはや噂ではない。


事実だった。


キンペイ帝国の民は知ってしまった。


生きられる場所があることを。


学べる場所があることを。


未来があることを。


人は鎖より未来を選ぶ。


それが始まりだった。


大流出の。


始まりだった。







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