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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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149.5話 最初の百万人

移住は想像を超える速度で進んでいた。


キンペイ帝国各地に設置された集合地点。


そこへ人々が集まり続けている。


農民。


職人。


病人。


孤児。


老人。


母親。


子供。


誰もが未来を求めていた。


転移師団の隊長は報告書を見て息を吐いた。


「三日で五十万人」


隣の教師が苦笑する。


「予想の倍ですね」


「まだ増えている」


隊長は遠くを見た。


集合地点の外まで人が並んでいる。


皆やせ細っていた。


服はボロボロ。


病を抱える者も多い。


だが目だけは死んでいなかった。


希望を見ていた。


その頃。


連合圏最大の受入拠点ではマイケルが忙しく走り回っていた。


「子供たちはこちらです!」


「家族は離れないでください!」


「治療が必要な方は右へ!」


教師たちが動く。


教導スキル覚醒者たちが動く。


かつて教えられる側だった者たちが、今は教える側になっていた。


マイケルはふと足を止める。


目の前にいたのは一人の少年だった。


年齢は十歳ほど。


痩せている。


服は破れている。


少年は不安そうに尋ねた。


「本当に学校へ行っていいの?」


マイケルは優しく笑った。


「ああ」


「もちろんだ」


「文字も勉強も全部教える」


少年は目を見開く。


「お金は?」


「いらない」


少年は黙った。


そして泣き出した。


母親も泣いていた。


周囲の教師たちも言葉を失う。


そんな質問が出ること自体が異常だった。


学ぶことは贅沢ではない。


当たり前の権利だ。


連合圏では。


少なくともそうなっていた。


治療院ではエルナが休む暇なく動いていた。


病人が列を作る。


感染症。


栄養失調。


古傷。


慢性的な病。


様々だった。


治癒師たちが次々と回復させていく。


光属性魔法。


ヒール。


ハイヒール。


エリアヒール。


ヒーリング。


浄化。


患者たちは驚く。


「痛くない」


「治った」


「歩ける」


何度も同じ声が響いた。


エルナは微笑む。


「次の方どうぞ」


その姿を見ていた若い治癒師が呟く。


「昔は私たちも救われる側だったのに」


エルナは頷いた。


「だから今度は私たちが救うの」


受入地域の農地では別の驚きが起きていた。


広大な畑。


整備された水路。


倉庫。


魔法農業。


農民たちは言葉を失う。


「なんだこれは」


「全部畑なのか」


「本当に食料が余っているのか」


案内役の農業教師が笑った。


「余っています」


「食料充足率は千二百パーセント以上です」


誰も信じられなかった。


飢えが当たり前だった。


食べ物を奪い合うのが普通だった。


それなのに。


ここでは余っている。


農民たちは静かに涙を流した。


一方。


紡織地区では職人たちが工房を見学していた。


巨大な織機。


整備された工房。


原材料の備蓄。


教育制度。


リーザが説明する。


「技術は共有します」


「隠しません」


「教えます」


移住してきた女職人が目を見開く。


「教えてくれるのか?」


「競争相手なのに?」


リーザは笑う。


「技術者が増える方が国は豊かになります」


その言葉に多くの職人が衝撃を受けた。


キンペイ帝国では技術は奪うものだった。


隠すものだった。


だがここでは違う。


育てるものだった。


環境が違う。


考え方が違う。


その頃。


中央司令部。


ロバートは報告書を受け取っていた。


軍団長が敬礼する。


「移住者百万人突破」


会議室が静まり返る。


百万人。


国家規模の人口移動だった。


トミーが口笛を吹く。


「凄いな」


マーガレットも笑う。


「商会でもこんな数字見たことないわ」


セリナは資料を読み続けていた。


「まだ増えています」


「むしろ加速しています」


ロバートは頷く。


予想通りだった。


民は馬鹿ではない。


環境が変われば動く。


未来がある場所へ向かう。


それだけだ。


同じ頃。


キンペイ帝国。


地方役所では役人たちが顔を青くしていた。


「税収が減っています」


「労働者不足です」


「農地が維持できません」


「工房も閉鎖が始まっています」


貴族は怒鳴る。


「止めろ!」


役人は震えながら答えた。


「無理です」


「人がいません」


その言葉に誰も反論できなかった。


兵士はいても。


税はあっても。


民がいなければ国は動かない。


そして。


空を見上げる者たちは増え続けていた。


風魔法放送の続きを待ちながら。


連合圏へ向かうために。


未来を選ぶために。







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