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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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149話 キンペイ帝国

キンペイ帝国。


世界最大級の人口を誇る巨大国家。


数千万の民が住むと言われている。


だが、その正確な数を知る者はいない。


皇帝も。


貴族も。


役人も。


誰も知らない。


知る必要がないと思っていたからだ。


民は税を生む存在。


兵になる存在。


それ以上でも以下でもなかった。


連合圏中央軍司令部。


巨大な会議室では軍、行政、教育、物流の責任者たちが集まっていた。


最上席に座るのは元帥ロバート。


その隣にはセリナ。


反対側にはトミーとマーガレット。


教師団代表のマイケル。


治癒師団代表のエルナ。


索敵教師団代表のミシェル。


各方面軍の軍団長たち。


かつて村を守るために戦っていた者たちは、今や数百万の人々を支える組織の責任者となっていた。


ロバートは机の上へ地図を広げた。


そこにはキンペイ帝国全土が描かれている。


巨大な国家。


広大な領土。


膨大な人口。


軍団長の一人が口を開いた。


「侵攻作戦でしょうか」


ロバートは首を振った。


「違う」


会議室が静まる。


ロバートは地図を指差した。


「削る」


「キンペイ帝国を削る」


セリナが静かに補足した。


「軍ではありません」


「人口です」


何人もの責任者が頷く。


既に概要は共有されていた。


トミーが資料を広げた。


「輸送能力は十分」


「転移師団三十万人待機」


「受入地域の食料備蓄も問題なし」


マーガレットが続く。


「住宅も足りるわ」


「職場も足りる」


「農業、紡織産業、建設、物流」


「どこも人材不足だから歓迎よ」


マイケルが報告する。


「教師団五百五十万人」


「新規受入教育も可能です」


エルナも頷いた。


「治療院も余裕があります」


「病人の受入も問題ありません」


ロバートは全員を見渡した。


誰も不安な顔をしていない。


それが何よりの証拠だった。


環境が人を育てた。


かつて泣き虫だったマイケル。


弱かったエルナ。


貧困に苦しんでいた村人たち。


彼らはもう守られる側ではない。


支える側だった。


ロバートは命令を下す。


「風魔法放送を開始」


「全土へ流せ」


その瞬間。


数十万の風属性教師たちが動き始めた。


風が走る。


空が震える。


山脈を越える。


河川を越える。


国境を越える。


そして。


キンペイ帝国全土へ声が響いた。


『聞こえるか』


『飢えている者』


『病に苦しむ者』


『働いても報われぬ者』


『学ぶ機会を奪われた者』


『来たいなら来い』


『仕事がある』


『学校がある』


『治療がある』


『食事がある』


『選ぶのはお前たちだ』


その声は帝国各地へ届いた。


東部の農村。


南部の織物都市。


西部の鉱山地帯。


北方の寒村。


人々は空を見上げた。


農民の男が立ち尽くす。


痩せた畑。


重税。


飢え。


死。


それしか知らない人生だった。


男は震える声で呟く。


「学校があると言った」


隣の妻が涙を流す。


「子供が学べると言った」


娘はまだ七歳。


文字を知らない。


本を持ったこともない。


男は拳を握った。


「行こう」


「ここにいても変わらない」


同じ頃。


南部の織物工房。


女職人が機織りを止める。


腕は一流だった。


それでも貧しい。


作っても作っても税で奪われる。


未来がない。


だが風の声は言った。


仕事がある。


技術を学べる。


紡織産業がある。


女は決断する。


「私は行く」


各地で同じことが起きた。


民が立ち上がる。


兵ではない。


民だ。


農民。


職人。


病人。


孤児。


老人。


母親。


子供。


彼らは歩き始める。


都市ごとに指定された集合地点へ。


そして。


そこには転移師団が待っていた。


教師たちが待っていた。


治癒師たちが待っていた。


約束は本当だった。


嘘ではなかった。


一方。


キンペイ帝国中央。


地方役人からの報告が山積みになり始める。


「移住者増加」


「住民減少」


「労働者不足」


「徴税不能地域発生」


貴族たちは理解できなかった。


何故なのか。


何故人が消えるのか。


答えは簡単だった。


今まで人を育てなかったからだ。


会議室。


報告書がロバートの前へ積まれる。


初日移住希望者。


三十万人突破。


ロバートは静かに笑った。


「始まったな」


誰も騒がない。


誰も浮かれない。


これは戦争ではない。


人が自ら選んだ結果だった。


ロバートは地図を見る。


巨大な帝国。


しかし国家を支えるのは城ではない。


民だ。


「削るぞ」


元帥の声が響く。


「民を救いながらな」







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