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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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148話 環境が人を育てる

朝。


連合圏中央軍本部。


巨大な作戦室には主要幹部が集まっていた。


地図の上から赤い印がほとんど消えている。


かつて百二十八あった奴隷拠点。


残るは三十八。


ロバートは地図を見つめながら笑った。


「なあ」


全員が顔を向ける。


ロバートは大剣を肩に担いだ。


「今日で三十八拠点潰そうぜ」


静寂。


そして。


エミリーが笑った。


「賛成だ」


リーヴが頷く。


「当然です」


ティグリスが拳を鳴らした。


「ようやく終わりが見えたな」


ソフィアは豪快に笑う。


「全部ぶっ潰すぞ」


カタリナも立ち上がる。


「異論なし」


ガイルが酒瓶を置いた。


「今日で終わらせるか」


セリナも静かに頷く。


「戦略上も問題ありません」


誰一人反対しなかった。


ここまで来た。


誰も止まらない。


ロバートは笑った。


「よし」


「連合圏軍、出撃だ」


巨大な歓声が響いた。


その頃。


風魔法放送を聞いた民達は各地で動き始めていた。


飢えた村。


税に苦しむ集落。


病に苦しむ町。


奴隷狩りに怯える辺境。


人々は空を見上げていた。


「本当に助けてくれるのか」


「食べ物があるらしい」


「教師もいるそうだ」


「病人も治してくれる」


希望が広がる。


そして。


連合圏は受け入れた。


拒否しない。


見捨てない。


保護を求める者全てを迎え入れる。


転移門が各地で稼働する。


大量の輸送隊。


大量の食料。


大量の治療師。


大量の教師。


圧倒的な支援体制。


数日後。


セリナは報告書を見て目を見開いた。


「百五十万人……」


マイケルも驚いている。


「増えましたね」


セリナは苦笑した。


「増えましたねではありません」


「百五十万人です」


連合圏人口。


四百七十万人。


そこへ。


新たに百五十万人。


人口六百二十万人。


国家規模を超えている。


しかし。


誰も慌てていなかった。


なぜなら。


教師がいる。


教導スキルがある。


農業革命が完成している。


紡織産業もある。


医療もある。


教育もある。


そして。


何より。


人材育成の仕組みが完成していた。


トミーが数字を眺めて笑う。


隣ではマーガレットも笑っている。


「どうする?」


「また人口増えたぞ」


マーガレットが肩を竦めた。


「いつものことでしょ」


トミーが吹き出す。


「確かに」


周囲も笑った。


最近の二人は完全に息が合っていた。


商売。


物流。


流通。


相場。


原価。


在庫。


二人が組むと問題が消えていく。


いつしか周囲から言われるようになった。


「お笑い夫婦」


本人達は否定している。


だが。


誰も信じていない。


マーガレットが言う。


「人口六百二十万人」


「食料余裕」


「住居余裕」


「教育余裕」


トミーが続ける。


「つまり問題なし」


二人は同時に笑った。


周囲も笑う。


もはや日常だった。


その頃。


各地の訓練施設では新住民達への教育が始まっていた。


ティグリスの訓練場。


大量の猫系獣人が集まっている。


小柄。


俊敏。


器用。


しかし。


自信がない。


ティグリスは大声で叫ぶ。


「お前ら!」


全員が背筋を伸ばす。


「猫だから弱い?」


「関係ない!」


巨大な岩を持ち上げる。


筋肉が躍動する。


「環境が悪かっただけだ!」


歓声が上がる。


ティグリスは笑った。


「強くなれ!」


「できるまで教える!」


猫系獣人達の目に光が宿った。


別の訓練場。


エミリーとリーヴ。


犬系獣人達を指導していた。


風属性魔法。


身体強化。


索敵。


集団行動。


リーヴが実演する。


風が走る。


風刃。


風弾。


風壁。


美しい。


犬系獣人達は歓声を上げた。


エミリーが言う。


「才能はある」


「使い方を知らなかっただけだ」


皆真剣に聞いていた。


その言葉は連合圏そのものだった。


さらに別の訓練場。


ロバートとソフィア。


魔族とダークエルフが集まっている。


差別され続けた者達。


居場所を失った者達。


ロバートが言う。


「ここでは関係ねぇ」


静かになる。


「魔族も」


「ダークエルフも」


「同じ仲間だ」


ソフィアが巨大な斧槍を振るう。


轟音。


地面が揺れた。


皆が驚く。


ソフィアは笑う。


「遠慮するな」


「強くなれ」


「それだけだ」


魔族達の目に力が戻る。


ダークエルフ達も頷いた。


次はエルフ達。


指導者はカタリナ。


エルフ達は驚いていた。


目の前の女性が同族とは思えない。


長身。


巨大な体格。


圧倒的戦闘力。


カタリナは笑う。


「何を驚いている」


「エルフだから細い?」


「誰が決めた」


周囲が笑う。


カタリナは続ける。


「魔法も鍛えろ」


「身体も鍛えろ」


「両方できる」


エルフ達は目を輝かせた。


最後はドワーフ達。


ガイルが担当している。


鍛冶。


建築。


採掘。


土木。


戦闘。


全てを教える。


ガイルは巨大な岩を砕きながら言う。


「技術は裏切らん」


ドワーフ達が頷く。


「努力も裏切らん」


さらに頷く。


「だから作れ」


「最高の物を」


歓声。


ドワーフ達は熱狂していた。


その様子を。


若い貴族達が眺めていた。


誰も言葉を発しない。


ただ見ている。


農民。


獣人。


魔族。


ダークエルフ。


エルフ。


ドワーフ。


かつて見下されていた者達。


その全員が教師になっている。


教導スキルを持っている。


数百万人を育てている。


若い伯爵が呟く。


「凄いな……」


侯爵令嬢も頷く。


「はい」


「本当に」


エレノア侯爵が後ろから現れた。


若返った美しい姿。


気品は変わらない。


彼女は静かに言う。


「見えますか」


若い貴族達が振り返る。


エレノアは笑った。


「環境です」


「人は環境で育つ」


皆が黙る。


エレノアは続けた。


「昔の私達は勘違いしていました」


「貴族だから優秀」


「平民だから劣る」


「違ったのです」


視線の先。


そこにはガイルがいる。


ティグリスがいる。


エミリーがいる。


ロバートがいる。


ソフィアがいる。


彼らは教師だった。


誰よりも優秀な教師だった。


「教育があった」


「機会があった」


「だから育った」


エレノアは微笑む。


「そして」


「皆さんも育った」


若い貴族達は頷いた。


自分達もそうだった。


連合圏へ来る前。


魔法も未熟だった。


超能力もなかった。


教導スキルもなかった。


今は違う。


全員が覚醒している。


全員が教師になっている。


環境が変えた。


人を育てた。


その頃。


遠征軍本部。


ロバートへ報告が届く。


「最後の三十八拠点」


「制圧完了しました」


静かになる。


ロバートは目を閉じた。


そして。


笑った。


「終わったか」


誰もが笑顔だった。


奴隷拠点。


全滅。


百二十八拠点。


完全制圧。


数百万人救出。


歴史が変わった瞬間だった。


夜。


連合圏全域で祝賀会が始まる。


歌声。


笑い声。


焼肉の香り。


酒の香り。


子供達の笑顔。


誰も怯えていない。


誰も飢えていない。


誰も見捨てられていない。


ケルナインは少し離れた丘から眺めていた。


六百二十万人。


教導スキル六百万人。


教師五百五十万人。


兵士五百万人。


そして。


全員が誰かを育てている。


ケルナインは静かに笑った。


英雄はいらない。


必要なのは。


次を育てる人間だ。


その思想は。


既に六百二十万人へ広がっていた。


風は吹く。


希望を乗せて。


連合圏はさらに成長していく。


もう誰にも止められなかった。







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