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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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146話 教える者たち

連合圏中央教育区。


朝日が巨大な訓練都市を黄金色に染めていた。


人口四百万人。


教師三百万人。


教導スキル覚醒者三百五十万人。


かつて盗賊と病と飢えに苦しんでいた貧困村から始まった共同体は、もはや一つの文明圏と呼べる規模に成長していた。


その中心にあるのは軍隊でもない。


城でもない。


金でもない。


教育だった。


「おお……」


セリナは訓練場を見渡して息を呑んだ。


百名の若い貴族達。


伯爵家。


子爵家。


男爵家。


騎士爵家。


家を継げない次男や三男。


二女や三女。


彼らの体から次々と光が溢れている。


教導スキル。


教育に関わる者だけが得られる特殊スキル。


連合圏の発展を支えた根幹。


それが今。


若い貴族達に次々と宿っていた。


「またです!」


「こちらも覚醒しました!」


「私もです!」


歓声が響く。


教師達が拍手する。


マイケルも驚いていた。


「これは……」


予想以上だった。


属性覚醒。


超能力覚醒。


職業スキル覚醒。


そこまでは想定していた。


だが。


教導スキルまで全員が覚醒するとは思っていなかった。


さらに。


異変は続いた。


一人の伯爵家次男。


二十代前半の青年だった。


彼の周囲に淡い金色の光が浮かぶ。


周囲がざわめいた。


マイケルが鑑定する。


そして目を見開いた。


「領主スキル……?」


訓練場が静まり返る。


続いて。


別の少女。


さらに別の青年。


十人。


二十人。


三十人。


次々と同じ現象が起きていた。


領主スキル。


人を導き。


地域を育て。


集団を発展させる統治特化能力。


本来なら一生に一人出るかどうか。


それほど希少な能力だった。


「そんな……」


セリナが呟く。


そこへエレノア・グランディア侯爵が歩いてきた。


若返った四十代前半の美しい姿。


今は杖など使わない。


背筋も真っ直ぐだった。


「驚きましたか?」


「当然です」


セリナは苦笑した。


「エレノア様ですら先日覚醒したばかりでしょう」


「ええ」


侯爵は笑う。


「私も驚いています」


実際。


エレノア自身が領主スキルを覚醒したのはつい最近だった。


長い人生。


民のために尽くした年月。


それでも今まで覚醒しなかった。


それが。


連合圏の教育を受けた若者達は短期間で到達している。


セリナは理解した。


これは血筋ではない。


教育だ。


環境だ。


人を育てる仕組みだ。


その頃。


農業区。


広大な畑が広がっていた。


食料充足率千二百パーセント。


農業革命の象徴。


そこでは奇妙な光景が広がっていた。


伯爵家の令嬢が。


土だらけになりながら頭を下げていた。


「ご指導ありがとうございました」


相手は老人の農夫だった。


元は貧しい農民。


文字も読めなかった。


教育も受けていない。


だが今は違う。


農夫スキル。


教導スキル。


土壌改良。


病害対策。


作物育成。


全てを極めている。


老人は慌てる。


「お、お嬢様!」


「頭を上げてください!」


だが令嬢は真剣だった。


「いえ」


「私は教わりました」


「教わった以上は感謝を伝えるべきです」


老人は涙ぐむ。


周囲の農民達も黙っていた。


かつてならありえない光景だった。


別の畑。


若い男爵家三男が獣人の農夫へ頭を下げていた。


「ありがとうございました」


「水管理の意味が理解できました」


狼獣人の農夫が照れ臭そうに笑う。


「大したことじゃねえですよ」


「いいえ」


青年は首を振った。


「私は知りませんでした」


「だから教えていただいたんです」


さらに別の場所。


魔族の教師へ礼を言う貴族。


ドワーフへ礼を言う貴族。


ダークエルフへ礼を言う貴族。


エルフへ礼を言う貴族。


連合圏では珍しくなかった。


だが外の世界なら異常だった。


種族。


身分。


生まれ。


そんなものは関係ない。


知識を持つ者が教師になる。


学ぶ者は生徒になる。


それだけだった。


セリナは遠くから眺めていた。


「不思議ね」


エレノアが隣に立つ。


「何がですか?」


「昔の私なら」


「こんな光景は信じなかった」


セリナは静かに答える。


「私もです」


ダークエルフ。


獣人。


魔族。


人間。


全員が同じ机に座る。


全員が同じ教師から学ぶ。


全員が互いを尊重する。


それが当たり前になっている。


そして。


だからこそ強い。


午後。


教導スキル覚醒者達の初授業が始まった。


「教える側になってください」


マイケルが言う。


若い貴族達は戸惑った。


「私達がですか?」


「はい」


「教えることで理解は深まります」


そして。


授業が始まる。


農業。


鍛冶。


建築。


紡織。


料理。


索敵。


戦闘。


魔法。


超能力。


若い貴族達は必死だった。


自分が学んだことを言葉にする。


相手に伝える。


理解してもらう。


それがどれほど難しいか。


初めて知る。


だが。


教導スキルは成長を加速させた。


理解が理解を呼ぶ。


教育が教育を生む。


連鎖だった。


夕方。


訓練場。


教導スキル覚醒者数の最新報告が届く。


三百五十万人。


誰も驚かなかった。


もう数字の感覚がおかしくなっている。


それでも。


意味は理解していた。


三百五十万人の教師。


三百五十万人の指導者。


三百五十万人の育成者。


それは国ではない。


文明だった。


同じ頃。


キンペイ帝国領内。


ロバート率いる連合圏軍が進撃していた。


九十番目の奴隷拠点。


そこも既に解放されている。


空には飛行部隊。


風属性魔法。


光属性魔法。


索敵網。


転移網。


補給網。


全てが完成していた。


敵は抵抗した。


だが結果は変わらない。


シャドウバインド。


アースウォール。


ストーンバレット。


ウィンドカッター。


拘束。


制圧。


保護。


救出。


流れるように終わる。


解放された人々が泣いていた。


子供達。


老人達。


女性達。


皆が自由を取り戻していた。


ロバートは報告書を受け取る。


人口。


四百万人突破。


周囲は静かだった。


誰も騒がない。


数字が目的ではない。


救うことが目的だった。


ティグリスが腕を組む。


「九十か」


「早いな」


リーヴが笑う。


「百が見えてきましたね」


ソフィアは斧槍を肩に担いだ。


「なら進むだけだ」


カタリナも頷く。


「終わるまで」


ロバートは空を見上げた。


彼は理解していた。


自分達は強い。


圧倒的に強い。


だが。


その強さは戦闘力ではない。


教育だ。


育成だ。


人材だ。


ケルナインが残したものだ。


あの旅人は前に出ない。


命令もしない。


支配もしない。


ただ教える。


ただ育てる。


それだけだった。


だから誰も止まらない。


だから誰も依存しない。


だから文明になる。


夜。


中央教育区。


ケルナインは静かに本を読んでいた。


周囲では生徒達が学んでいる。


教師達が教えている。


農夫が教師になる。


鍛冶師が教師になる。


貴族が教師になる。


獣人が教師になる。


魔族が教師になる。


全てが循環していた。


魔力循環。


教育循環。


人材循環。


それこそが連合圏だった。


貧困村から始まった小さな希望は。


今や四百万人を支える文明へ変わっている。


そして。


まだ終わらない。


まだ育つ。


まだ広がる。


環境が人を育てる。


その言葉を証明するかのように。


連合圏は今日も成長を続けていた。







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