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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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145話 貴族たち3

連合圏中央教育区。


朝日が巨大な訓練場を照らしていた。


数万人の生徒が整列している。


その中には平民もいた。


獣人もいた。


エルフもいた。


魔族もいた。


そして。


百名の若い貴族達もいた。


伯爵家。


子爵家。


男爵家。


騎士爵家。


次男。


三男。


四男。


二女。


三女。


四女。


本来なら家を継げない者達。


それでも未来を諦めなかった若者達だった。


「始めます」


教師の号令が響く。


マイケルが前に立つ。


かつて泣き虫だった少年。


今では二百万人を超える教師達の中心人物の一人だった。


「魔力循環を開始してください」


若者達が目を閉じる。


呼吸。


循環。


制御。


魔力操作。


ケルナインが教えた基礎。


連合圏の全ての始まり。


しばらくして。


一人の伯爵家次男が驚いた顔をした。


「なっ……」


掌に光が灯る。


光属性。


覚醒だった。


周囲から歓声が上がる。


「おめでとうございます」


マイケルが微笑む。


だが驚きはそこからだった。


別の少女が風を生む。


さらに別の少年が水を操る。


土。


火。


闇。


次々に覚醒していく。


セリナは高台から見ていた。


「早いわね……」


隣のエレノア侯爵も頷く。


「ええ」


「想像以上です」


だが。


さらに驚くことが起きた。


「先生!」


一人の男爵家三男が叫ぶ。


身体がふわりと浮いていた。


レビテーション。


超能力覚醒だった。


周囲が騒然となる。


「私もです!」


「私も!」


「見える!」


「遠くの音が聞こえます!」


テレパシー。


クレアオーディエンス。


クレヤボヤンス。


次々に超能力が開花する。


貴族達は混乱していた。


それも当然だった。


彼らの常識ではありえない。


魔法とは長い詠唱を必要とするもの。


大量の魔力を消費するもの。


一日に何度も使えないもの。


それが当たり前だった。


ところが。


ここでは違う。


「先生!」


「魔力が減りません!」


若い子爵家令嬢が驚く。


マイケルが笑った。


「正確には減っています」


「ですが循環しています」


「無駄がありません」


「だから魔力切れを起こしません」


若者達は唖然とする。


さらに。


詠唱がない。


杖もいらない。


呪文もいらない。


意識するだけ。


それだけで魔法が発動する。


彼らは初めて理解した。


これが。


ケルナインが作った教育なのだと。


才能の有無ではない。


教育の有無だった。


午後。


今度は職業訓練だった。


農業区。


鍛冶区。


建築区。


紡織区。


料理区。


採掘区。


土木区。


連合圏には巨大な教育施設が存在する。


若い貴族達は各地へ散った。


そして。


また驚く。


「土が違う……」


農業区。


伯爵家の少女が畑を見つめる。


食料充足率千二百パーセント。


農業革命の中心地。


魔法農法。


土壌改良。


魔力循環農法。


病害虫対策。


全てが体系化されている。


農夫スキルが覚醒する。


「嘘でしょう……」


少女は呆然とする。


続いて。


鍛冶区。


ベルンが指導していた。


巨大な炉。


ドワーフ達。


人間達。


獣人達。


皆が汗を流している。


そこに貴族の少年達も加わった。


鉄を打つ。


叩く。


伸ばす。


削る。


そして。


一人の騎士爵家三男が叫ぶ。


「見える!」


ベルンが笑う。


「覚醒したか」


鍛冶師スキルだった。


少年は驚いていた。


今まで剣を使うだけだった。


作る側になったことはない。


だが。


理解できる。


鉄の流れ。


構造。


応力。


加工。


全てが頭に入る。


鍛冶師スキル。


それは職人達の世界への扉だった。


紡織区でも同じだった。


リーザ。


リーブ。


リーゼ。


三人のエルフ職人が指導する。


糸を紡ぐ。


布を織る。


染色する。


裁断する。


仕立てる。


貴族令嬢達は目を輝かせていた。


「こんなに奥深いんですか」


「当然よ」


リーザが笑う。


「服は文明だから」


その日だけで。


紡織師。


仕立師。


染色師。


次々に覚醒していく。


建築区では。


石工。


大工。


建築士。


土木技師。


採掘師。


掘削師。


様々な職業スキルが生まれていた。


夕方。


セリナは報告書を見ていた。


そして。


絶句する。


「ありえない……」


属性覚醒。


超能力覚醒。


職業スキル覚醒。


全てが想定以上だった。


普通なら数年。


長ければ十年。


それが数日で起きている。


そこへ。


エレノア侯爵が歩いてきた。


今は若返り。


四十代前半の美貌を持つ女性だった。


「驚きましたか?」


セリナは苦笑する。


「正直に言うなら」


「はい」


エレノアは隣に立つ。


「貴族にもまともな人材はいるんですよ」


セリナは黙る。


確かにそうだ。


今まで見てきたのは一部だった。


権力に酔った者。


民を苦しめた者。


差別した者。


そういう人間ばかり目立つ。


だが。


目の前にいる若者達は違う。


努力する。


学ぶ。


汗を流す。


平民とも普通に話す。


獣人とも笑い合う。


エルフから教わる。


ドワーフを尊敬する。


そして負けん気が強い。


「認めます」


セリナが言った。


「良い人材です」


エレノアは嬉しそうに笑う。


「でしょう?」


「ええ」


その頃。


連合圏から遥か東。


キンペイ帝国。


七十番目の奴隷収容所が陥落していた。


ロバート率いる連合圏軍。


二百五十万人。


空を埋め尽くす飛行部隊。


風魔法。


光魔法。


闇魔法。


索敵部隊。


転移部隊。


治療部隊。


補給部隊。


全てが揃っている。


戦いは短かった。


シャドウバインド。


アースウォール。


ウィンドカッター。


ストーンバレット。


拘束。


制圧。


保護。


全てが数時間で終わる。


解放された奴隷達は涙を流していた。


子供達。


老人達。


女性達。


皆が救われた。


ロバートは静かに報告書を見る。


人口。


三百三十万人。


誰も驚かない。


もう数字ではない。


重要なのは人だった。


何人救えたか。


何人育てられるか。


それだけだった。


ティグリスが笑う。


「七十だな」


「そうだな」


リーヴも笑う。


「次は八十です」


ソフィアが斧槍を担ぐ。


「止まる理由はない」


カタリナも頷く。


「キンペイ帝国を潰すまで」


全員が同じ考えだった。


復讐ではない。


征服でもない。


救出だった。


病に苦しむ人間。


飢える人間。


奴隷にされた人間。


その全てを解放する。


それだけだ。


夜。


遠く離れた連合圏。


ケルナインは星空を見上げていた。


何も言わない。


何も命令しない。


必要ない。


皆が考える。


皆が動く。


皆が育つ。


環境が人を育てる。


その言葉通りに。


連合圏は巨大になっていた。


三百三十万人。


教師二百三十万人。


教導スキル覚醒者二百五十万人。


兵士二百五十万人。


そして。


まだ成長している。


止まらない。


貧困村から始まった小さな火は。


今や世界を照らす灯火になっていた。


キンペイ帝国の終わりも。


もう遠くはなかった。







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