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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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143話 貴族

連合圏中央庁舎。


その日、会議室の空気は少しだけ重かった。


理由は単純だった。


魔石。


それが減り始めていた。


人口二百五十万人。


教師二百万人。


教導スキル覚醒者二百三十万人。


十属性以上の覚醒者百万人。


連合圏兵士二百万人。


そして。


無数の魔道具。


マジックバッグ。


マジックリポジトリ。


転移陣。


治療院。


農業施設。


紡織工場。


魔法学校。


全てが魔石を消費する。


トミーが報告書を閉じた。


「在庫はまだある」


「あるんだがな」


マーガレットも頷く。


「消費速度がおかしいのよ」


「普通の国家なら百年分」


「私達だと数年分」


会議室に苦笑が広がる。


強くなり過ぎた。


発展し過ぎた。


人が増え過ぎた。


連合圏はその段階に入っていた。


ロバートが地図を見る。


「狩るか」


その一言で決まった。


誰も反対しない。


魔物は存在する。


資源も持っている。


危険もある。


しかし。


今の連合圏にとっては資源採集に近かった。


ロバートが立ち上がる。


「狩り部隊を編成する」


「十万人」


会議室が静かになる。


普通なら国家総力戦だ。


だが連合圏では違う。


ティグリスが確認する。


「全員飛行魔法?」


「全員だ」


「マジックバッグは?」


「全員貸与」


「補給は?」


「不要」


ソフィアが笑った。


「楽だな」


カタリナも頷く。


「空飛ぶ猟師十万人か」


ロバートが地図へ印を付ける。


山脈。


森林。


湿地。


魔境。


危険地帯。


全てが狩場になる。


翌日。


十万人が飛び立った。


風属性。


光属性。


超能力。


飛行魔法。


空を埋める大軍勢。


まるで渡り鳥の群れだった。


彼らは戦争をしない。


狩りをする。


魔物を討伐する。


魔石を回収する。


素材を回収する。


全てをマジックバッグへ収納する。


帰還する。


単純。


合理的。


効率的。


それだけだった。


そして同時に。


ロバート率いる解放軍は進撃を続けていた。


四十一。


四十二。


四十三。


奴隷収容所が消える。


四十四。


四十五。


四十六。


保護される人々が増える。


四十七。


四十八。


四十九。


そして。


五十。


五十拠点目。


巨大な城塞収容所。


数万人規模。


キンペイ帝国最大級の奴隷拠点だった。


ロバートは空を見上げる。


二百万の兵。


教師。


治癒師。


保護部隊。


輸送部隊。


誰も怯えていない。


誰も怒鳴らない。


誰も焦らない。


慣れていた。


助けることに。


教育することに。


育てることに。


それが連合圏だった。


「開始」


ロバートが言う。


その瞬間。


空から光が降った。


光属性。


拘束魔法。


浄化魔法。


風属性。


土属性。


闇属性。


水属性。


魔法が重なる。


敵兵は次々と無力化される。


殺すためではない。


止めるため。


守るため。


戦闘は数時間で終わった。


収容所の門が開く。


中から人々が現れる。


老人。


子供。


女性。


病人。


衰弱者。


数万人。


彼らは怯えていた。


しかし。


白衣の治癒師達が近づく。


教師達が近づく。


食事が運ばれる。


水が配られる。


誰も鞭を持っていない。


誰も怒鳴らない。


その光景を見て。


一人の女性が泣いた。


アリアだった。


百年以上を生きる魔女。


研究者。


世界を見てきた存在。


そのアリアが。


声を震わせる。


「……本当に」


涙が落ちる。


「本当に出来るなんて」


セリナが隣へ来る。


アリアは首を振る。


「私は見てきた」


「何百年も」


「国を」


「王を」


「英雄を」


「革命を」


「全部見てきた」


涙が止まらない。


「でも」


「こんな国は見たことがない」


遠くでは子供達が食事をしている。


病人が治療されている。


教師が文字を教えている。


奴隷だった者達が笑っている。


アリアは泣きながら笑った。


「本当に出来たんだね」


「環境が人を育てる」


その言葉を。


初めて現実として見ていた。


その頃。


連合圏本部。


エレノア・グランディア侯爵は静かに歩いていた。


若返った四十代前半の姿。


美しい銀髪。


背筋の伸びた姿勢。


彼女はセリナの執務室を訪ねる。


「お時間よろしいですか?」


「どうぞ」


セリナは資料から顔を上げた。


エレノアは少し考えた後に言う。


「お願いがあります」


珍しい。


この老侯爵が願い事をするのは。


セリナは耳を傾ける。


「若い貴族達を」


「ここへ連れて来てもいいでしょうか」


セリナの目が細くなる。


「若い貴族?」


エレノアは頷く。


「伯爵家」


「子爵家」


「男爵家」


「騎士爵家」


「次男」


「三男」


「四男」


「二女」


「三女」


「四女」


「百名ほど」


セリナは黙る。


意味は分かった。


後継者ではない。


家を継げない者達。


埋もれる才能。


余った人材。


連合圏が最も得意とする人種だった。


エレノアは続ける。


「優秀な子達です」


「ただ」


「居場所がありません」


「家は長男が継ぐ」


「長女が継ぐ」


「彼らには未来がない」


セリナは少し考えた。


そして答える。


「構いませんわ」


エレノアが顔を上げる。


「本当ですか?」


「ええ」


セリナは微笑む。


「ただし」


その声は静かだった。


しかし重い。


「連合圏の方針には従っていただきます」


「身分は通用しません」


「貴族だから偉い」


「そういう場所ではありません」


エレノアは笑った。


「それで十分です」


むしろ。


それが見せたかった。


若い貴族達に。


連合圏という現実を。


教育が人を変えることを。


環境が人を育てることを。


夜。


高台。


ケルナインは空を見ていた。


人口二百五十万人。


食料充足率千二百パーセント。


十属性以上覚醒者百万人。


教師二百万人。


教導スキル覚醒者二百三十万人。


兵士二百万人。


もはや貧困村の面影はない。


だが。


始まりは同じだった。


飢え。


病。


盗賊。


奴隷商。


絶望。


そこから始まった。


そして今。


救われた人々が。


次の人を救っている。


教えられた人々が。


次の人を教えている。


連鎖は止まらない。


遠くでは。


百人の若い貴族達を乗せた馬車が連合圏へ向かっていた。


彼らはまだ知らない。


ここでは家柄より能力。


血筋より努力。


地位より教育。


それが価値になることを。


そして。


その環境が。


彼ら自身を大きく変えていくことを。







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