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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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141話 百三十万人

春だった。


アルナ村の畑はどこまでも広がっている。


かつて盗賊に怯え、飢えに震え、病で倒れる者が絶えなかった貧困村。


今では誰もその姿を想像できなかった。


風が吹く。


黄金色の穂が揺れる。


その光景を見ながら、エミリーは腕を組んだ。


「……本当に百三十万人か」


隣にいたセリナが頷く。


「ええ」


「正確には百三十万四千六百二十二人」


エミリーが苦笑した。


もう数字が現実感を失っている。


三十の奴隷収容所。


救出された人々。


保護された子供達。


解放された職人達。


逃げ出してきた農民達。


彼らは次々と連合圏へ流れ込んだ。


そして驚くべきことが起きた。


誰も飢えなかった。


誰も見捨てられなかった。


誰も路上で死ななかった。


むしろ。


生産力がさらに上がった。


会議室ではトミーが頭を抱えていた。


「意味がわからねぇ……」


目の前には山のような報告書。


物流。


農業。


工業。


紡織産業。


建築。


教育。


全てが増加している。


マーガレットも同じ顔をしていた。


「私も分からないわ」


「商人人生で初めてよ」


「人口が増えたのに豊かになる速度が加速してるなんて」


普通は違う。


人口増加。


食料不足。


価格上昇。


治安悪化。


失業。


それが常識だった。


しかし連合圏では逆になった。


人口が増える。


教師が増える。


技術が広がる。


生産量が増える。


物流が増える。


さらに人口を支えられる。


循環が生まれていた。


セリナが資料をめくる。


「農業革命が完全定着しました」


巨大な数字が並ぶ。


農地生産量。


昨年比三倍。


果樹園。


昨年比五倍。


牧畜。


昨年比四倍。


保存食。


昨年比七倍。


「食料充足率」


「千パーセント突破」


会議室が静かになる。


何度見ても異常な数字だった。


ロバートが笑う。


「もう笑うしかねぇな」


将軍達も苦笑する。


八十万の兵。


百三十万人の人口。


教師八十万人。


教導スキル百万人。


もはや国家というより巨大な学校だった。


マイケルが資料を見る。


「治療院も増えました」


「現在六千二百施設」


「治癒師は二十八万人」


エルナも微笑む。


「病気で亡くなる人も大きく減りました」


聖女。


その存在は連合圏全体へ広がっていた。


欠損再生。


視力回復。


聴力回復。


神経再生。


かつて不可能だった治療が可能になった。


その結果。


働けなかった人々が働けるようになる。


学べなかった人々が学べるようになる。


生産力がさらに増える。


全てが循環していた。


セリナが次の資料を開く。


「六属性覚醒者」


「三十万人突破」


会議室がざわつく。


これは本当に異常だった。


この世界では本来。


一属性。


それだけでも優秀。


二属性なら天才。


三属性なら国宝。


そう言われていた。


しかし今。


三十万人。


六属性以上。


誰も想像できない数字だった。


エミリーが呆れる。


「教育って恐ろしいな」


セリナが頷いた。


「才能が無かったわけではないんです」


「教える人がいなかっただけ」


それがケルナインの結論だった。


魔法。


超能力。


戦闘技術。


農業技術。


建築技術。


商業知識。


物流知識。


全て同じ。


教育があれば育つ。


環境があれば伸びる。


連合圏はそれを証明していた。


その頃。


各地では新たな村が生まれていた。


元奴隷の農民達。


元職人達。


元流民達。


彼らは土地を与えられる。


教育を受ける。


技術を学ぶ。


そして村を作る。


自分達の力で。


ケルナインはそこにいない。


誰も依存していない。


それが重要だった。


ある元奴隷の男は農場長になった。


ある少女は教師になった。


ある鍛冶師は工房を開いた。


あるダークエルフは薬師となった。


ある魔族は警備隊長になった。


連合圏の強さは。


英雄ではない。


人材だった。


夕方。


ソフィアとカタリナは訓練場にいた。


巨大な兵士集団。


その数。


数万人。


ソフィアが笑う。


「増えたなぁ」


カタリナも頷く。


「強くなった」


目の前の兵士達。


全員が魔法を使える。


全員が超能力を扱える。


全員が教育を受けている。


かつての兵士とは比較にならない。


ロバートが歩いてくる。


「次の救出作戦だ」


二人の目が輝いた。


「行く!」


「当然」


ロバートは笑う。


「分かってた」


しかし今回は違う。


無計画な突撃ではない。


十拠点ごと。


実情確認。


保護計画。


輸送計画。


教育計画。


完全に組織化されていた。


八十万の兵士。


百万の教師。


百三十万人の国民。


全てが動く。


救うために。


夜。


高台。


ケルナインは静かに夜景を見ていた。


灯が続く。


どこまでも。


かつて存在しなかった光。


子供達の笑い声。


工房の灯火。


学校の窓。


治療院。


市場。


全てが生きている。


後ろからセリナが来た。


「報告です」


ケルナインは振り返らない。


「聞こう」


「人口百三十万人突破」


「教師八十万人突破」


「教導スキル百万人突破」


「食料充足率千パーセント突破」


静かな声だった。


ケルナインは少しだけ笑う。


「そうか」


それだけだった。


セリナも笑う。


「驚かないんですね」


「予想通りだ」


「本当に?」


「人は育つ」


それだけだった。


セリナは夜景を見る。


百三十万人。


誰も想像しなかった数字。


だがケルナインは最初から言っていた。


人材こそ国家。


武器ではない。


城ではない。


金ではない。


人。


教育された人。


自立した人。


それが国家。


連合圏はその姿になり始めていた。


遠くで鐘が鳴る。


学校の終業。


子供達が帰っていく。


教師達が笑う。


農民達が明日の準備をする。


職人達が工房を片付ける。


兵士達が訓練を終える。


そして明日もまた。


新たな奴隷収容所が解放される。


新たな人々が救われる。


新たな教師が生まれる。


新たな村が生まれる。


環境が人を育てる。


その言葉は。


もはや理想ではなかった。


百三十万人の現実として。


大地の上に根を張っていた。







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