139話 95万人
連合圏の進軍は止まらなかった。
奴隷収容所。
二十か所。
さらに解放。
さらに保護。
さらに教育。
さらに治療。
その結果。
保護人数は六十万人を突破した。
・・・
そして。
連合圏総人口。
九十五万人突破。
・・・
もはや王国級。
いや。
下手な大国すら超え始めていた。
・・・
解放された人々は衰弱していた。
栄養失調。
病。
怪我。
精神的疲弊。
長年の虐待。
様々な問題を抱えていた。
・・・
だが。
連合圏には経験がある。
二十万人。
三十万人。
五十万人。
これまで何度も受け入れてきた。
・・・
教師。
治癒師。
薬師。
農夫。
職人。
兵士。
全員が動く。
・・・
新しい学校。
新しい住宅。
新しい農地。
新しい工房。
新しい治療院。
次々と建設されていった。
・・・
土属性。
石属性。
氷属性。
風属性。
金属属性。
重力属性。
様々な能力が活躍する。
・・・
巨大な建物が一日で完成する。
農地が一週間で完成する。
用水路が一日で完成する。
・・・
普通の国家ならありえない速度だった。
・・・
それでも。
慌てている者達がいた。
・・・
トミー。
そして。
マーガレット。
・・・
巨大な倉庫。
物流本部。
・・・
二人は大量の資料を前に頭を抱えていた。
・・・
「待って。」
トミーが言う。
・・・
「六十万人増えた?」
・・・
「ええ。」
マーガレットが答える。
・・・
「人口九十五万人?」
・・・
「そう。」
・・・
沈黙。
・・・
トミーの耳が震えた。
・・・
「食料。」
・・・
マーガレットも青ざめる。
・・・
「食料よ。」
・・・
再び沈黙。
・・・
二人は顔を見合わせた。
・・・
「まずい。」
・・・
「まずいわ。」
・・・
即座に計算が始まる。
・・・
穀物。
野菜。
果樹。
家畜。
塩。
保存食。
乾燥肉。
発酵食品。
・・・
全てを計算する。
・・・
物流班総動員。
・・・
在庫確認。
輸送確認。
収穫確認。
消費確認。
・・・
結果が出た。
・・・
食料充足率。
一九九%。
・・・
一瞬。
二〇〇%を割った。
・・・
物流本部が凍り付く。
・・・
トミーが叫ぶ。
・・・
「収穫を急げ!」
・・・
「在庫確認!」
・・・
「保存食の生産量を上げろ!」
・・・
「輸送路を増設しろ!」
・・・
マーガレットも怒鳴る。
・・・
「農地拡張!」
・・・
「余剰地域を調査!」
・・・
「穀倉地帯を増やしなさい!」
・・・
連合圏中が動いた。
・・・
だが。
それは杞憂だった。
・・・
三日後。
・・・
再計算。
・・・
物流班。
農業班。
会計班。
全員が集まる。
・・・
結果。
・・・
食料充足率。
三〇五%。
・・・
「え?」
・・・
トミーが固まった。
・・・
一週間後。
・・・
再計算。
・・・
五二〇%。
・・・
「待て。」
・・・
二週間後。
・・・
七三〇%。
・・・
「おかしい。」
・・・
三週間後。
・・・
一〇〇二%。
・・・
物流本部が沈黙した。
・・・
誰も喋らない。
・・・
トミーが資料を見る。
・・・
マーガレットも見る。
・・・
何度も見る。
・・・
何度も計算する。
・・・
計算班も確認する。
・・・
十回。
二十回。
三十回。
・・・
結果は変わらない。
・・・
食料充足率。
一〇〇〇%突破。
・・・
九十五万人国家。
・・・
その国家で。
・・・
食料が十倍余る。
・・・
ありえない。
・・・
本来なら。
ありえない。
・・・
セリナも呼ばれた。
・・・
政策本部。
・・・
机の上に積まれる資料。
・・・
セリナは読み始める。
・・・
一時間。
・・・
二時間。
・・・
三時間。
・・・
無言。
・・・
そして。
・・・
「計算間違いでは?」
・・・
初めてそう言った。
・・・
周囲が頷く。
・・・
当然だった。
・・・
ありえない数字だからだ。
・・・
再検算。
・・・
再々検算。
・・・
全班で検算。
・・・
結果。
・・・
間違い無し。
・・・
食料充足率。
一〇〇〇%突破。
・・・
セリナが天井を見上げた。
・・・
「本当に?」
・・・
誰も答えられない。
・・・
だが。
数字は嘘をつかない。
・・・
理由は明確だった。
・・・
人口。
九十五万人。
・・・
その九十五万人が。
・・・
働く。
・・・
学ぶ。
・・・
教える。
・・・
成長する。
・・・
教導スキル。
・・・
農業革命。
・・・
魔法。
・・・
超能力。
・・・
その全てが合わさった。
・・・
普通の農民ではない。
・・・
教導スキルを持つ農民。
・・・
光属性を持つ農民。
・・・
水属性を持つ農民。
・・・
土属性を持つ農民。
・・・
重力属性を持つ農民。
・・・
金属属性を持つ農民。
・・・
九十五万人。
・・・
その生産力は。
想像を超えていた。
・・・
畑。
・・・
巨大だった。
・・・
かつての国家が一年かける作業。
・・・
連合圏は一週間で終わらせる。
・・・
灌漑。
・・・
完了。
・・・
堆肥。
・・・
完了。
・・・
改良種。
・・・
完了。
・・・
病害虫対策。
・・・
完了。
・・・
結果。
・・・
収穫量が爆発する。
・・・
さらに。
・・・
食品加工。
・・・
保存食。
・・・
乾燥技術。
・・・
冷凍保管。
・・・
塩蔵。
・・・
燻製。
・・・
味噌。
・・・
醤油。
・・・
酢。
・・・
発酵食品。
・・・
全てが整っていた。
・・・
グランが笑う。
・・・
「腐る方が難しいな。」
・・・
バルドも笑う。
・・・
「酒にすればええ。」
・・・
食料は増え続ける。
・・・
減らない。
・・・
尽きない。
・・・
マーガレットは頭を抱えた。
・・・
「食料不足を心配していたのに。」
・・・
トミーも苦笑する。
・・・
「今度は余りすぎて困る。」
・・・
倉庫。
・・・
倉庫。
・・・
倉庫。
・・・
倉庫。
・・・
どこも満杯。
・・・
さらに建設。
・・・
それでも満杯。
・・・
物流担当達が笑い始める。
・・・
「食料が多すぎる。」
・・・
贅沢な悩みだった。
・・・
その夜。
・・・
会議。
・・・
トミー。
マーガレット。
セリナ。
ロバート。
エレノア。
・・・
全員が集まる。
・・・
報告。
・・・
人口九十五万人。
・・・
教師二十万人以上。
・・・
教導スキル三十万人以上。
・・・
六属性以上覚醒者一万人以上。
・・・
食料充足率一〇〇〇%突破。
・・・
沈黙。
・・・
誰も言葉が出ない。
・・・
そして。
・・・
ロバートが笑った。
・・・
「俺達。」
・・・
「何を作ってるんだろうな。」
・・・
全員が笑う。
・・・
誰も最初は想像していなかった。
・・・
盗賊に怯える貧困村。
・・・
病に苦しむ村。
・・・
食べ物が足りない村。
・・・
そこから始まった。
・・・
今。
人口九十五万人。
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教育国家。
・・・
生産国家。
・・・
成長国家。
・・・
そして。
・・・
人材国家。
・・・
その中心には。
変わらず一人の旅人がいた。
・・・
ケルナイン。
・・・
英雄ではない。
・・・
王でもない。
・・・
支配者でもない。
・・・
ただ。
人を育てることが少し上手かった男。
・・・
その結果。
九十五万人が未来を手に入れた。
・・・
夜空には無数の灯りが広がる。
・・・
学校の灯り。
工房の灯り。
治療院の灯り。
農場の灯り。
・・・
九十五万人が生きている証だった。
・・・
そして。
その九十五万人は。
今日も誰かを育てている。
・・・
環境が人を育てる。
・・・
その理念は。
九十五万人の国家となって現実になっていた。




