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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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137話 魔族

連合圏の進軍は続いていた。


奴隷収容所。


百二十八か所。


その全てを潰すために。


戦うためではない。


救うために。


教育するために。


未来を残すために。


そのための進軍だった。


そして。


解放された奴隷達の数は二十万人を突破した。


かつてなら国家一つ分の人口である。


だが連合圏は受け入れた。


誰一人見捨てないために。


人材こそ国家だからだ。


・・・


巨大な保護区。


無数のテント。


仮設住宅。


治療院。


学校。


食堂。


工房。


畑。


かつて荒れ地だった場所に、新しい街が生まれていた。


その中心で。


ソフィアは静かに立っていた。


目の前にいるのは解放された人々。


その中に。


見覚えのある角があった。


魔族。


・・・


痩せ細った老人。


腕を失った戦士。


子供を抱く母親。


かつて誇り高く生きていたであろう魔族達。


その姿にソフィアは言葉を失う。


「……こんな。」


声が震えた。


「こんなことを。」


・・・


鬼人族の老戦士が苦笑する。


「久しいな。」


「同族を見るのは。」


ソフィアは膝をついた。


「大丈夫です。」


「もう終わりました。」


老人は首を振る。


「いや。」


「まだ終わっていない。」


「お前達が来てから始まったんだ。」


その言葉にソフィアは目を閉じた。


・・・


別の区域。


セリナもまた立ち尽くしていた。


そこには。


ダークエルフ達がいた。


何千人。


何万人。


奴隷として扱われていた同胞達。


・・・


若い女性が泣きながら言う。


「本当に自由なの?」


「売られない?」


「殴られない?」


「子供を取られない?」


セリナは静かに答える。


「自由です。」


「ここは連合圏です。」


「誰もあなたを売りません。」


女性は崩れるように泣いた。


周囲でも涙が広がる。


・・・


自由。


その一言が信じられない。


それが奴隷だった人々の現実だった。


・・・


治療班は限界まで動いていた。


マイケル。


エルナ。


リーン。


十数万の治癒師の治癒師。


休む暇は無い。


・・・


「次!」


「高熱!」


「栄養失調!」


「怪我!」


「感染症!」


治療院は戦場だった。


だが誰も疲れたと言わない。


・・・


ヒーリング。


光属性治療。


ピュリフィケーション。


浄化。


解毒。


消毒。


回復。


毎日何万人もの患者が運ばれてくる。


そして。


毎日何万人もの人間が回復していく。


・・・


エルナは少女の額に手を置く。


「大丈夫。」


「治るよ。」


優しい声だった。


少女は泣きながら頷く。


・・・


教育班も動く。


教師。


教師。


教師。


教師。


どこを見ても教師だった。


・・・


連合圏の教師数は二十万人を突破している。


学校だけではない。


畑にもいる。


工房にもいる。


鍛冶場にもいる。


治療院にもいる。


軍にもいる。


・・・


教導スキル。


それは教師だけの力ではない。


・・・


農夫が農夫を育てる。


鍛冶師が鍛冶師を育てる。


薬師が薬師を育てる。


治癒師が治癒師を育てる。


兵士が兵士を育てる。


職人が職人を育てる。


・・・


教える者。


育てる者。


支える者。


その全てが教導スキルを覚醒していた。


・・・


連合圏の教導スキル保持者。


三十万人突破。


前代未聞だった。


・・・


ケルナインですら予想していなかった。


教導スキルは特別な才能ではなかった。


環境だった。


・・・


人を育てる環境。


それが連鎖した結果。


三十万人になった。


・・・


農業区域。


かつて奴隷だった農民達が畑に立っている。


最初は何も知らなかった。


ただ命令されるだけだった。


・・・


今は違う。


輪作。


堆肥。


灌漑。


農業革命。


全てを学び始めていた。


・・・


農夫の老人が若者へ教える。


「土を見るんだ。」


「土は嘘をつかない。」


若者が頷く。


その瞬間。


老人の身体に光が宿った。


・・・


教導スキル。


覚醒。


・・・


老人が驚く。


周囲も驚く。


だが。


今では珍しくなかった。


・・・


環境が人を育てる。


育てる人も育つ。


その循環が完成していた。


・・・


鍛冶区域。


ベルンが叫ぶ。


「鉄を打て!」


「もっとだ!」


解放された奴隷達が鉄を打つ。


・・・


金属属性。


新しい力。


ピュリフィケーション。


純化。


精製。


・・・


鉄鉱石が純鉄になる。


銅が純銅になる。


銀が純銀になる。


・・・


武器。


農具。


工具。


建材。


次々と生産される。


・・・


職人達の中にも教導スキルが広がる。


弟子が育つ。


弟子が教師になる。


さらに弟子を育てる。


・・・


指数関数的な成長。


誰も止められない。


・・・


紡織区域。


リーザ。


リーブ。


リーゼ。


三人のエルフが指導していた。


・・・


かつて奴隷だった女性達。


その数は数万人。


彼女達が糸を紡ぐ。


布を織る。


服を作る。


・・・


最初は震えていた手。


今は違う。


自信がある。


技術がある。


未来がある。


・・・


そして。


紡織師達にも教導スキルが広がる。


・・・


一人が教える。


十人が育つ。


十人が百人を育てる。


百人が千人を育てる。


・・・


止まらない。


・・・


ロバートは報告書を読む。


人口。


五十五万人突破。


・・・


教師。


二十万人突破。


・・・


教導スキル。


三十万人突破。


・・・


信じられない数字だった。


だが事実だった。


・・・


「国だな。」


ロバートが呟く。


隣のエレノアが笑う。


「ええ。」


「もう国です。」


・・・


昔なら。


人口数千人。


それだけで大村だった。


・・・


今は違う。


五十五万人。


しかも全員が学ぶ。


全員が教える。


全員が成長する。


・・・


教育国家。


その言葉が最も似合う集団になっていた。


・・・


夜。


ケルナインは静かに街を歩く。


・・・


笑い声。


鍛冶の音。


授業の声。


子供達の歌。


料理の匂い。


・・・


昔の貧困村。


盗賊に怯えていた村。


病で倒れていた村。


飢えていた村。


・・・


その面影はもう無い。


・・・


ケルナインは立ち止まる。


遠くを見る。


・・・


そこには。


解放された魔族の子供達がいた。


ダークエルフの少女がいた。


獣人の少年がいた。


人族の子供がいた。


・・・


みんな笑っている。


・・・


同じ机。


同じ教室。


同じ教師。


・・・


誰も種族を気にしない。


・・・


その光景を見て。


ケルナインは小さく息を吐いた。


・・・


英雄ではない。


王でもない。


支配者でもない。


・・・


ただ。


人を育てることが少し上手かっただけ。


・・・


その結果。


五十五万人が未来を手に入れた。


・・・


そして。


覚醒の連鎖はまだ続いている。


教導スキル。


魔法。


超能力。


新しい職業。


新しい教師。


新しい未来。


・・・


遠くで鐘が鳴った。


新しい学校の完成を知らせる鐘だった。


・・・


その鐘の音は夜空へ響く。


奴隷だった者達。


貧困に苦しんだ者達。


病に倒れた者達。


全ての人々へ。


・・・


未来はここにある。


そう告げるように。


教育国家連合圏は、さらに大きく成長を続けていた。







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