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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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134話 反攻作戦

キンペイ帝国の崩壊は続いていた。


補給路は寸断される。


地方は独立を始める。


税は集まらない。


兵は逃げる。


農民は飢える。


帝国は巨大だった。


巨大だったからこそ、一度崩れ始めると止まらない。


しかし。


連合圏は浮かれていなかった。


誰も宴会など開かない。


誰も勝利宣言などしない。


なぜなら。


ケルナインが最初から教えていたからだ。


国家とは戦争で勝つものではない。


国家とは育てるものだ。


・・・


連合圏中央学術都市。


かつて何もない平原だった土地。


今では巨大な教育都市になっていた。


学校。


研究所。


訓練施設。


工房。


農業研究区画。


治療院。


巨大な街が形成されている。


朝。


十万人を超える教師達が動き出した。


教導スキル保持者。


十万人。


世界史上最大の教育組織だった。


・・・


教室。


若い教師が黒板へ文字を書く。


「魔力循環の基本です。」


数百人の子供達が頷く。


昔なら考えられない光景だった。


この世界では魔力を持つ者は多い。


しかし。


扱える者は少なかった。


理由は単純。


教える者がいなかった。


それだけだった。


・・・


今は違う。


教師がいる。


教材がある。


教育理論がある。


訓練方法がある。


だから育つ。


才能は最初から存在していた。


開花しなかっただけだった。


・・・


訓練場。


生徒達が全属性魔法を扱っていた。


火。


水。


風。


土。


光。


闇。


属性魔法は特別な力ではなくなっていた。


基礎教育だった。


少年が火球を放つ。


少女が氷壁を作る。


別の生徒が風刃を飛ばす。


教師が頷いた。


「良い。」


「次は複合運用。」


生徒達がさらに魔力を練る。


・・・


魔力操作。


魔力循環。


魔力制御。


これらも完全に体系化されていた。


ケルナイン。


マイケル。


ミシェル。


エルナ。


数多くの教師達が積み重ねた成果だった。


・・・


別の校舎。


超能力教育課程。


近年急激に増えた学科だった。


教師が生徒へ問う。


「アポートとは?」


生徒が答える。


「遠方物体の取り寄せです。」


「正解。」


教師は頷く。


さらに続ける。


「アスポートとは?」


「遠方への物体送信です。」


「正解。」


教室が静かになる。


教師が笑った。


「昔は伝説扱いでした。」


「今は違います。」


「教育によって覚醒率が向上しています。」


・・・


近年。


異変が起きていた。


今まで極めて珍しかった超能力が次々と出現している。


アポート。


アスポート。


プレコグニション。


クレヤボヤンス。


リモートビューイング。


ソートグラフィー。


教育環境が整うことで覚醒率が急増していた。


・・・


研究施設。


アリアが報告書を眺めていた。


百年以上研究してきた魔女ですら驚いている。


「異常ですね。」


隣の研究者が頷く。


「はい。」


「完全に常識が変わっています。」


アリアは笑った。


「違います。」


「これが本来の姿です。」


研究者達が首を傾げる。


アリアは窓の外を見る。


子供達が訓練している。


教師達が教えている。


「人は育つんです。」


「今までは育てなかっただけ。」


・・・


兵士達にも変化が起きていた。


連合圏軍。


総兵力十六万。


精鋭部隊。


彼らもまた進化していた。


・・・


訓練場。


ロバートが部隊を率いる。


兵士達が整列する。


「始めるぞ。」


声が響く。


兵士達が魔力を循環させる。


その時だった。


一人の若い兵士が驚いた顔をした。


「なっ・・・」


手元に槍が現れる。


アポート。


新規覚醒だった。


周囲がざわつく。


ロバートは笑う。


「おめでとう。」


「覚醒だ。」


兵士は目を見開く。


・・・


別の場所。


女性兵士が手を振る。


岩塊が遠方へ消える。


アスポート。


こちらも新規覚醒だった。


教師達が記録する。


研究者達が分析する。


すぐに教材化される。


教育国家の恐ろしいところだった。


発見。


研究。


実験。


教育。


普及。


全てが異常な速度で回る。


・・・


ミシェル率いる索敵軍団。


八千人。


その中でも変化が起きていた。


「見えます。」


若いハーピーが呟く。


遥か彼方。


百キロ先。


普通なら見えない。


しかし見える。


リモートビューイング。


遠隔透視。


索敵革命だった。


・・・


ミシェルが報告を受ける。


「またですか。」


「今月だけで三百人目です。」


ミシェルは空を見た。


教育が進むほど。


索敵能力は上がる。


索敵能力が上がるほど。


戦争は変わる。


もう奇襲は成立しない。


もう隠蔽も成立しない。


・・・


トミーは物流本部で笑っていた。


「いいねぇ。」


新型能力者達。


アポート。


アスポート。


物流革命の始まりだった。


荷車が不要になる。


輸送時間が消える。


在庫管理が変わる。


世界が変わる。


・・・


セリナも報告書を読んでいた。


冷静な顔のまま言う。


「予測以上です。」


部下が問う。


「何がです?」


セリナは答えた。


「人材の増殖速度です。」


・・・


連合圏。


人口三十三万人。


教師二十万人。


教導スキル十万人。


食料充足率六百パーセント。


全属性覚醒率百パーセント。


常識外れだった。


しかし。


誰も驚かない。


毎日見ているからだ。


・・・


その頃。


キンペイ帝国。


地方軍閥がまた一つ独立した。


補給倉庫が焼かれる。


軍閥同士が争う。


兵士同士が奪い合う。


帝国はさらに崩れる。


一方。


連合圏では。


学校が増える。


教師が増える。


研究者が増える。


覚醒者が増える。


国力が増える。


・・・


ケルナインは農地を歩いていた。


巨大な麦畑。


巨大な果樹園。


巨大な水路。


全てが稼働している。


若い教師が近寄る。


「先生。」


「反攻作戦の準備が整いました。」


ケルナインは静かに頷いた。


「そうですか。」


それだけだった。


命令は出さない。


指示もしない。


既に必要ない。


人材は育った。


国家は育った。


教師が教師を育てる。


生徒が教師になる。


兵士が指導者になる。


連合圏は自律していた。


・・・


夕日が大地を染める。


貧困村から始まった物語。


盗賊に怯えていた小さな村。


病に苦しんだ村。


飢えに泣いた村。


その村は消えた。


残ったのは。


教育国家。


人材国家。


そして。


世界最大の成長国家だった。


反攻作戦は始まる。


剣だけでなく。


知識で。


教育で。


人材で。


世界を変えるために。







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