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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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133話 敵崩壊開始

冬の風が大地を渡る。


かつて東方最強と呼ばれたキンペイ帝国。


その巨大な国家が、静かに音を立て始めていた。


崩壊の音だった。


誰かに攻め込まれたわけではない。


巨大な魔王軍が現れたわけでもない。


連合圏が侵略したわけでもない。


それでも帝国は壊れ始めていた。


原因は単純だった。


人がいなくなった。


それだけだった。


・・・


帝都。


皇帝執務室。


机の上には報告書が山積みになっている。


補給停止。


徴税失敗。


地方反乱。


兵士逃亡。


市場閉鎖。


食料不足。


皇帝は額を押さえた。


「なぜだ・・・」


誰も答えられない。


答えられる者は既に逃げていた。


優秀な官僚。


有能な商人。


熟練の職人。


優れた教師。


腕の良い治癒師。


皆、連合圏へ移住していた。


・・・


帝国北部。


大穀倉地帯。


収穫された麦は倉庫に積まれていた。


しかし動かない。


運ぶ者がいない。


管理する者がいない。


帳簿を付ける者もいない。


輸送とは技術である。


補給とは知識である。


兵士だけでは維持できない。


その事実を帝国は理解していなかった。


・・・


倉庫長が叫ぶ。


「早く運べ!」


兵士達が顔を見合わせる。


荷車の扱いが分からない。


馬の管理も分からない。


道中の補給計算もできない。


結局。


大量の穀物は動かないまま腐り始めた。


・・・


その頃。


連合圏。


巨大な紡織工房では機織りの音が響いていた。


カタン。


カタン。


カタン。


リーザ。


リーブ。


リーゼ。


三人のエルフ職人達が若い弟子達へ技術を教えている。


「糸は生き物です。」


「急ぎすぎては駄目です。」


「丁寧に。」


弟子達が頷く。


かつて難民だった少女達。


孤児だった少年達。


今では立派な職人になりつつあった。


・・・


別の工房。


ドワーフ職人達が酒樽を並べる。


バルドが豪快に笑った。


「もっと発酵を理解しろ!」


「酒は待つんだ!」


グランも頷く。


「味噌も醤油も同じだ。」


「焦るな。」


若者達が必死に学ぶ。


ここでは毎日が授業だった。


・・・


農地では農業革命が続いていた。


魔法灌漑。


輪作。


土壌改良。


品種改良。


教師達が畑を歩く。


教導スキルが広がる。


学んだ者が教える。


教えた者がまた教える。


知識が連鎖する。


だから強い。


・・・


ケルナインは畑を眺めていた。


隣にはエレノア侯爵。


「不思議ですな。」


老侯爵が呟く。


「戦争をしておらぬ。」


「それでも勝っている。」


ケルナインは笑った。


「勝敗は戦場だけで決まりません。」


「教育。」


「食料。」


「医療。」


「物流。」


「全部戦力です。」


エレノアは深く頷いた。


ようやく理解できた。


この男は最初から国家を育てていたのだ。


・・・


キンペイ帝国。


西部。


ついに地方軍が独立を宣言した。


理由は簡単だった。


中央が守れない。


中央が食わせない。


中央が助けない。


なら従う意味がない。


地方領主達は兵を引き上げた。


税の納付を拒否した。


帝国軍はさらに縮小する。


・・・


さらに悪いことが起きる。


南部で飢饉が発生した。


原因は人手不足。


農民不足。


輸送不足。


保管不足。


本来なら防げた。


しかし教育がない。


人材がいない。


だから防げない。


・・・


病も広がる。


治癒師不足。


薬師不足。


衛生知識不足。


連合圏では既に解決されていた問題だった。


エルナ達が築いた治療網。


リーン達が育てた薬師。


マイケル達が育てた教師。


それが存在しない。


その差が現れ始めていた。


・・・


帝都。


緊急会議。


将軍達が集められていた。


「連合圏が攻めてくる!」


若い将軍が叫ぶ。


しかし。


老将軍が首を振った。


「来ない。」


「なに?」


「連合圏は来ない。」


会議室が静まる。


老将軍は苦々しく言った。


「奴らは待つだけでいい。」


誰も反論できなかった。


現実だった。


・・・


帝国が崩れる。


地方が離反する。


税が集まらない。


補給が止まる。


兵が逃げる。


その全てが連鎖している。


敵に勝たれたのではない。


自分達が負けている。


・・・


連合圏軍本部。


ロバート。


エミリー。


ソフィア。


カタリナ。


ガイル。


主要将官達が集まっていた。


地図には赤い印が増えている。


帝国反乱地域。


帝国離反地域。


帝国補給停止地域。


ソフィアが腕を組む。


「つまらんな。」


カタリナが笑う。


「戦う前に終わりそうだ。」


ガイルも苦笑した。


「斧を振るう機会がねぇ。」


ロバートだけは真剣だった。


「違う。」


皆が見る。


「これが本当の戦争だ。」


静まり返る。


「剣で勝つ前に。」


「国家で勝つ。」


「ケルナインさんが最初から言ってたことだ。」


・・・


その頃。


学校では授業が続いていた。


子供達が文字を学ぶ。


魔法を学ぶ。


農業を学ぶ。


職業を学ぶ。


未来を学ぶ。


教師は六万人。


教導スキル覚醒者四万人。


世界最大規模の教育国家。


それが連合圏だった。


・・・


マイケルは教壇に立つ。


目の前には数百人の子供達。


「覚えてください。」


「強い人だけが国を作るんじゃありません。」


子供達が耳を傾ける。


「農家も。」


「職人も。」


「教師も。」


「治癒師も。」


「みんな国を作っています。」


静かな教室。


その言葉は。


かつてケルナインから学んだものだった。


・・・


夜。


セリナは情報局で地図を見ていた。


帝国崩壊速度。


人口流出。


物流停止率。


全てが予測以上だった。


トミーが横から覗く。


「どうだ?」


「早いですね。」


「どれくらい?」


セリナは冷静に答えた。


「もう止まりません。」


「始まりました。」


「何が?」


セリナは地図を見たまま言った。


「国家崩壊です。」


・・・


遠く離れたキンペイ帝国では。


地方都市がまた一つ独立を宣言した。


税収が消える。


補給が消える。


兵が消える。


人が消える。


そして未来が消える。


連合圏は何もしていない。


今日も教師が教える。


農民が耕す。


職人が作る。


治癒師が治す。


ただそれだけ。


だが。


それこそが最も強い力だった。


貧困村から始まった小さな火は。


今や巨大帝国を揺るがしている。


敵崩壊。


その始まりは静かだった。


しかし誰にも止められなかった。







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