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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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132話 キンペイ帝国の補給破壊

キンペイ帝国。


かつて東方最大を誇った巨大国家。


数千万の民。


数十万の兵。


広大な穀倉地帯。


無数の鉱山。


巨大な官僚組織。


誰もが滅びることなど想像していなかった。


だが。


崩壊は外から来なかった。


内側から始まった。


・・・


帝国北部。


穀倉地帯。


本来なら収穫の季節だった。


黄金色の麦が揺れ。


農民達が歌いながら刈り取る季節。


しかし。


畑は半分以上が放置されていた。


若者がいない。


働き手がいない。


徴兵。


重税。


逃亡。


移住。


原因はいくらでもあった。


残った老人達は疲れ果てていた。


「もう無理だ……」


「今年も税だけ持っていかれる……」


「息子は徴兵されたまま帰ってこない……」


誰も未来を語らない。


・・・


その頃。


国境近くでは。


別の光景が広がっていた。


連合圏へ向かう行列。


農民。


職人。


教師。


商人。


鍛冶師。


薬師。


家族連れ。


皆が同じ方向へ歩いていた。


連合圏。


そこには仕事がある。


学校がある。


治療院がある。


未来がある。


彼らは武器を持っていない。


反乱軍でもない。


ただ生きるために歩いていた。


・・・


キンペイ帝国軍本部。


将軍達は頭を抱えていた。


「兵糧が足りません。」


「南部倉庫も不足しています。」


「北部から輸送できません。」


「なぜだ!」


怒号が飛ぶ。


報告官は震えながら答えた。


「輸送隊が消えております。」


「盗賊か?」


「違います。」


「荷馬車の御者が逃亡。」


「倉庫管理官が辞職。」


「護衛兵が脱走。」


「道路整備員も不足。」


部屋が静まり返った。


敵に襲われたわけではない。


戦ったわけでもない。


人がいなくなっただけだった。


・・・


帝国西部。


補給倉庫。


数万トンの穀物が積まれている。


本来なら。


前線へ送られるはずだった。


しかし。


荷物は動かない。


荷車がない。


馬がいない。


御者がいない。


管理者もいない。


兵士達が慌てて運ぼうとする。


しかし無理だった。


物流とは技術だ。


経験だ。


人材だ。


剣では代わりにならない。


・・・


連合圏。


情報局。


セリナは報告書を読んでいた。


隣にはトミー。


「補給線崩壊か。」


トミーが口笛を吹く。


「想像以上だな。」


セリナは淡々としていた。


「当然です。」


「物流は人です。」


「人がいなければ止まります。」


彼女は地図を見る。


赤い印が増えていた。


補給停止。


輸送停止。


倉庫停止。


市場停止。


税収減少。


全てが繋がっていた。


・・・


トミーが笑う。


「俺達何もしてねぇな。」


「ええ。」


「怖ぇな。」


「怖いですか?」


「怖い。」


トミーは即答した。


「軍隊に負ける方がマシだ。」


「お前の場合。」


「勝手に崩れる。」


セリナは紅茶を飲んだ。


「選んだのは彼らです。」


「私ではありません。」


・・・


実際その通りだった。


連合圏は侵略していない。


略奪もしていない。


反乱を支援していない。


ただ。


学校を作った。


治療院を作った。


仕事を作った。


農業革命を起こした。


紡織産業を育てた。


食料を増やした。


病を減らした。


それだけだった。


結果として。


人が集まった。


・・・


キンペイ帝国南部。


ついに暴動が発生した。


発端は食料不足。


軍への優先供給。


民衆への配給削減。


怒りは限界を超えた。


役所が襲撃される。


徴税官が追放される。


倉庫が開放される。


兵士達も動かなかった。


彼ら自身も空腹だったからだ。


・・・


さらに悪いことに。


地方貴族達が動き始めた。


「中央は終わった。」


「自分の領地を守れ。」


そんな声が広がる。


地方軍が独立。


税の納付拒否。


命令無視。


帝国は一つだったはずなのに。


実態はバラバラになっていく。


・・・


元帥ロバートはその報告を聞いた。


「戦わずにここまで行くとはな。」


会議室には将軍達もいた。


エミリー。


ソフィア。


ガイル。


ミシェル。


全員が驚いている。


軍人である彼らから見ても。


異常な勝ち方だった。


ロバートが呟く。


「補給が死ねば軍は死ぬ。」


「その補給を人材不足で潰したか。」


セリナは頷いた。


「人材こそ国家です。」


誰かが言った言葉ではない。


連合圏そのものだった。


・・・


夜。


農地。


収穫祭が行われていた。


麦酒が並ぶ。


料理が並ぶ。


歌声が響く。


ドワーフ達が酒を飲む。


エルフ達が笑う。


獣人達が踊る。


子供達が走り回る。


かつての貧困村では考えられない光景。


その中を。


白髪混じりになったケルナインが静かに歩いていた。


誰も気付かない。


それでいい。


今の主役は若者達だ。


ロバート。


セリナ。


マイケル。


エミリー。


ソフィア。


ガイル。


彼らが育った。


それが全てだった。


・・・


遠くで花火代わりの火属性魔法が上がる。


歓声が広がる。


ケルナインは小さく笑った。


昔。


ここには何もなかった。


貧困。


病。


飢餓。


盗賊。


奴隷商。


絶望。


それしかなかった。


だが今は違う。


環境が変わった。


教育が生まれた。


人が育った。


だから国が育った。


それだけの話だった。


・・・


同じ夜。


キンペイ帝国首都。


皇帝は報告書の山に埋もれていた。


補給停止。


反乱発生。


税収減少。


地方離反。


兵士逃亡。


その全てに共通する言葉がある。


人材不足。


皇帝は理解できなかった。


軍はある。


金もある。


法律もある。


なぜ負ける。


なぜ崩れる。


答えは単純だった。


連合圏が育てたものを。


帝国は育てていなかった。


人である。


・・・


冬が近づいていた。


キンペイ帝国の補給線は完全に麻痺し。


内乱はさらに広がっていく。


連合圏は何もしていない。


ただ今日も。


学校で教師が教え。


治療院で病人を治し。


農民が畑を耕し。


職人が物を作る。


その積み重ねが。


巨大帝国を静かに追い詰めていた。


戦争はまだ始まっていない。


それでも勝敗は。


少しずつ決まり始めていた。







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