表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/290

131話 セリナ情報戦

結婚式ラッシュが終わった頃。


連合圏は平和だった。


農地は豊作。


倉庫は満杯。


治療院は整備され。


学校は子供達で溢れている。


紡織産業も成長を続けていた。


エルフ達が織る布は各地で高く評価され。


ドワーフ職人達の道具は飛ぶように売れていた。


貧困村から始まった土地は。


今や巨大な経済圏となっていた。


そんなある日。


セリナの机の上に一枚の報告書が置かれた。


彼女は静かに目を通す。


ダークエルフ特有の赤い瞳が細くなった。


「来ましたか。」


隣にいたトミーが首を傾げる。


「何がだ?」


「キンペイ帝国です。」


部屋の空気が少し変わった。


キンペイ帝国。


東方最大国家。


人口は多い。


軍も多い。


支配地域も広い。


しかし。


連合圏が最も警戒している国家でもあった。


奴隷制度。


強制徴兵。


情報統制。


重税。


監視。


恐怖による支配。


連合圏とは真逆の国家。


セリナは報告書を机に置いた。


「国境地帯で兵力集結。」


「食料徴発増加。」


「流通統制強化。」


「内部移動制限。」


トミーが顔をしかめる。


「戦争準備か?」


「可能性は高いですね。」


セリナは冷静だった。


むしろ。


少し楽しそうだった。


「なら先に崩しましょう。」


トミーが笑った。


「出たな。」


「お前の嫌らしいやつ。」


「褒め言葉として受け取ります。」


・・・


その日の夜。


連合圏情報局。


巨大な会議室に人が集まっていた。


索敵教師ミシェル。


商業代表トミー。


元帥ロバート。


将軍エミリー。


将軍ソフィア。


将軍ガイル。


各村代表。


全員が席に着く。


正面にはセリナ。


会議が始まった。


「結論から言います。」


「戦争はしません。」


ロバートが眉を上げる。


「ほう。」


「相手が攻めてきてもか?」


「攻めて来る前に終わらせます。」


静寂。


皆がセリナを見る。


彼女は地図を広げた。


キンペイ帝国。


広大な国家。


しかし。


赤い印が大量に付いていた。


「問題は三つ。」


「食料。」


「物流。」


「情報。」


セリナは続ける。


「軍隊は食料で動きます。」


「食料は物流で動きます。」


「物流は情報で動きます。」


「つまり。」


「情報を壊せば全部壊れます。」


・・・


数日後。


連合圏の索敵部隊が動いた。


ミシェル直属。


八千名。


全員が索敵専門家。


テレパシー。


遠隔透視。


念聴。


未来予知。


危機感知。


索敵能力だけなら世界最高峰。


彼らは戦わない。


見る。


聞く。


調べる。


それだけだった。


キンペイ帝国内。


穀倉地帯。


徴税官。


軍需倉庫。


将軍府。


貴族領。


全ての情報が集まり始めた。


・・・


さらに。


トミーも動く。


商人達を通じて。


商品を流す。


情報を流す。


噂を流す。


「連合圏では税が安い。」


「連合圏では奴隷がいない。」


「連合圏では学校が無料。」


「連合圏では病人も治療される。」


嘘は流さない。


全部本当だ。


だから強い。


・・・


半年後。


キンペイ帝国内。


奇妙な現象が起き始めた。


若者が消える。


職人が消える。


農民が消える。


教師が消える。


どこへ行ったのか。


皆知っていた。


連合圏である。


・・・


「ふざけるな!」


キンペイ帝国宰相が机を叩いた。


報告書が飛ぶ。


人口流出。


技術者流出。


農民流出。


兵士志願者減少。


税収低下。


全て赤字だった。


「国境を閉鎖しろ!」


「閉鎖済みです!」


「ならなぜ逃げる!」


誰も答えられなかった。


理由は簡単。


国境を閉じても。


人は逃げる。


未来がある場所へ。


・・・


セリナはその報告を読んでいた。


微笑みすら浮かべない。


当然だからだ。


「人は豊かな場所へ行く。」


「それだけです。」


トミーが笑う。


「お前らしいな。」


「私は何もしていません。」


「本当か?」


「本当に。」


セリナは紅茶を飲んだ。


「彼らが勝手に比較しただけです。」


「そして選んだ。」


「それだけ。」


・・・


さらに。


第二段階が始まる。


ソートグラフィー。


念写能力。


連合圏の日常を映像化する。


学校。


農地。


治療院。


工房。


結婚式。


祭り。


子供達。


それを商人達が各国へ運ぶ。


誰も強制しない。


誰も扇動しない。


ただ見せる。


それだけ。


結果は劇的だった。


キンペイ帝国の民衆は知った。


世界は一つではない。


自分達が当たり前だと思っていた生活は。


当たり前ではなかった。


・・・


翌年。


帝国内で暴動が起きる。


食料不足。


重税。


徴兵。


不満が爆発した。


しかし。


連合圏は何もしない。


武器も送らない。


軍も送らない。


資金も送らない。


セリナは禁止した。


「自分達で変えるべきです。」


「他人に与えられた自由は長続きしません。」


・・・


ロバートが聞く。


「本当に軍を出さなくていいのか?」


「必要ありません。」


「なぜ?」


セリナは地図を見た。


「崩壊は内側から始まっています。」


「外から殴る必要がない。」


元帥ロバートは笑った。


戦争屋ではない。


だから理解できた。


最も安い勝利。


最も被害が少ない勝利。


それが今起きている。


・・・


一年後。


キンペイ帝国は国境に集結していた軍を解散した。


兵糧が足りない。


税収が足りない。


兵士が集まらない。


戦争どころではなくなった。


連合圏は一発も撃っていない。


一人も殺していない。


それでも勝った。


・・・


夜。


情報局の屋上。


セリナは星空を見上げていた。


風が吹く。


豊かな土地の風。


遠くには学校の灯り。


工房の灯り。


家庭の灯り。


子供達の笑い声。


トミーが隣に立つ。


「終わったな。」


「まだです。」


「まだやるのか?」


「教育を続けます。」


トミーは苦笑した。


「戦争より怖いな。」


セリナも少し笑う。


「環境が人を育てます。」


「だから。」


「良い環境を増やすだけです。」


かつて貧困と病に苦しんだ村。


そこから始まった小さな灯火。


今では巨大な国家群を動かしていた。


剣ではない。


魔法でもない。


教育。


情報。


環境。


それこそが。


セリナが信じる最強の武器だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ