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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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130話 結婚 続々

春だった。


連合圏には花が咲いていた。


かつての荒れ地。


かつての貧困村。


かつて病と飢えに苦しんだ土地。


今では広大な農地が広がっている。


黄金色の麦。


青々とした野菜畑。


果樹園。


牧場。


紡織工房。


鍛冶工房。


学校。


治療院。


子供達の笑い声。


全てが当たり前になっていた。


そして。


人々は気付き始めていた。


明日がある。


来年がある。


十年後がある。


だからこそ。


家族を作ろうと思えるようになった。


・・・


最初に大きな話題となったのは。


ロバートの結婚だった。


連合軍総司令。


元帥。


数十万人を統率する男。


魔族である彼は五十歳に近かった。


しかし魔族は長命種。


人間で言えばまだ若い。


そんな彼が選んだ相手は。


連合圏に住む一人の女性だった。


ヒューマン。


三十代。


見眼麗しい女性。


かつて難民として流れてきた。


病に苦しみ。


家族を失い。


全てを失った女性だった。


名前はアイリス。


治療院で働く看護師である。


派手さは無い。


戦えない。


将軍でもない。


元帥でもない。


ただ優しい女性だった。


結婚式の日。


ロバートは少し緊張していた。


大軍を率いる男とは思えない。


アイリスが笑う。


「怖いんですか?」


「少しな。」


「戦場より?」


「戦場より怖い。」


周囲が笑った。


ロバートも笑った。


そして誓う。


「守る。」


それは元帥としてではない。


一人の男としてだった。


大歓声が響いた。


・・・


その数日後。


エミリーも結婚した。


相手は狼獣人。


自軍の将官だった。


何年も共に戦った男。


何年も共に育った男。


かつては荒くれ者だった。


今では数万人を率いる将官である。


結婚式。


狼獣人達は大騒ぎだった。


宴会。


歌。


酒。


踊り。


誰もが祝福した。


エミリーは笑っていた。


昔の彼女なら想像もできない。


誰も信用できなかった。


誰も頼れなかった。


村を守ることで精一杯だった。


今は違う。


隣に支えてくれる相手がいる。


共に守る仲間がいる。


だから笑えた。


・・・


ミシェルも結婚した。


相手はハーピーの将官。


索敵部隊出身。


空を飛ぶ男だった。


二人は何年も共に空を守ってきた。


遠隔透視。


念聴。


索敵。


飛行。


常に同じ空を飛んできた。


結婚式当日。


空には数百人のハーピー達が舞った。


風属性魔法。


飛行魔法。


花吹雪。


まるで空そのものが祝福していた。


・・・


リーヴも結婚した。


相手は狼獣人の将官。


共に奴隷商に故郷を奪われた男だった。


失った者同士。


支え合った。


戦った。


生き残った。


そして今。


家族になる。


結婚式の途中。


リーヴは泣いていた。


「昔は。」


「こんな日が来るなんて思わなかった。」


隣の男が優しく笑う。


「俺もだ。」


二人は手を繋いだ。


・・・


ティグリスは意外だった。


相手は将軍でもない。


英雄でもない。


魔族の農夫だった。


土を耕す男。


農業革命の最前線にいる男。


毎日畑にいる。


筋肉だらけ。


日に焼けている。


無口。


しかし優しい。


ティグリスは戦士だった。


前線で戦ってきた。


だからこそ。


土を守る男に惹かれた。


「戦うだけが強さじゃない。」


彼女はそう言った。


周囲は深く頷いた。


・・・


リリーも結婚した。


相手はドワーフ職人。


弓を作る職人だった。


風属性魔法を扱う彼女にとって。


最高の相棒だった。


工房で出会い。


工房で恋をした。


・・・


リーンも結婚した。


相手は醸造職人グラン。


長い片想いだった。


麹。


酵母。


発酵。


薬学。


互いに学び合った。


研究仲間だった。


気付けば夫婦になっていた。


結婚式でグランは照れていた。


リーンも真っ赤だった。


周囲は大笑いした。


・・・


リーザは酒造職人バルドと結婚した。


リーブも。


リーゼも。


それぞれ職人のドワーフ達と結婚した。


エルフとドワーフ。


昔なら珍しい組み合わせだった。


今では珍しくない。


共に働く。


共に学ぶ。


共に生きる。


だから自然だった。


・・・


さらに。


ガイルも結婚した。


相手はエルフの紡織職人。


長年共に働いてきた女性だった。


工房で出会った。


工房で喧嘩した。


工房で笑った。


工房で恋をした。


そして結婚した。


ドワーフ達は大騒ぎだった。


エルフ達も大騒ぎだった。


工房は祭りになった。


・・・


一方。


未婚組もいる。


ソフィア。


カタリナ。


セリナ。


三人である。


長命種。


まだ若い。


本人達も全く焦っていない。


ある日。


酒席で。


誰かが聞いた。


「結婚しないんですか?」


ソフィアは笑う。


「そのうちな。」


カタリナも笑う。


「百年くらい先かもしれん。」


セリナは書類をめくりながら言う。


「忙しいので。」


全員が笑った。


・・・


そして。


多くの者が待ち望んでいた結婚もあった。


マイケル。


そしてエルナ。


治癒師。


教師。


孤児達の保護者。


二人はいつも一緒だった。


学び。


教え。


助け。


育てた。


誰もが分かっていた。


だから結婚報告を聞いた時。


皆が笑った。


「やっとか。」


その一言だった。


・・・


結婚式当日。


孤児達が泣いていた。


教師達も泣いていた。


治療院の患者達も泣いていた。


エルナが笑う。


マイケルも笑う。


昔。


泣き虫だった少年。


自信の無かった青年。


今では数万人の教師達を束ねる男になった。


その隣には。


優しくて芯の強い女性がいる。


二人は手を繋いだ。


それだけで十分だった。


・・・


連合圏では。


結婚が増えていた。


教師同士。


農夫と農婦。


職人同士。


治癒師同士。


鍛冶師と織工。


商人同士。


兵士同士。


種族も関係ない。


年齢も関係ない。


出身も関係ない。


大切なのは。


共に生きたいと思えることだった。


・・・


昔。


この土地には何も無かった。


貧困。


病。


飢餓。


盗賊。


奴隷商。


死。


未来など存在しなかった。


明日生きられる保証も無かった。


だから家族を作れなかった。


だから子供を産めなかった。


だから村は滅んでいった。


今は違う。


食料は十分ある。


学校がある。


治療院がある。


仕事がある。


未来がある。


だから人は結婚する。


だから子供を産む。


だから国は続いていく。


環境が人を育てる。


それは戦士だけではない。


将軍だけでもない。


元帥だけでもない。


父になる人。


母になる人。


家族を作る人。


そんな普通の人々もまた。


この環境によって育っていた。


連合圏は今日も賑やかだった。


新しい家族が生まれ続けていた。







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