126話 連合軍結成
二十万人。
その数字は、もはや難民ではなかった。
国家だった。
アルナ連合中央会議所。
巨大な会議室に各村代表が集まっていた。
エミリー。
ロバート。
セリナ。
トミー。
マーガレット。
エレノア。
ミシェル。
マイケル。
そして各村の教導教師たち。
全員の前に置かれている報告書は異常だった。
誰もが理解している。
こんな数字は歴史上存在しない。
マイケルが静かに立ち上がる。
「最終報告です。」
室内が静まる。
「難民受け入れ総数二十万人。」
「治療完了率九九・九%。」
「感染症排除完了。」
「栄養失調改善完了。」
「身体欠損治療完了。」
「精神不安定者の保護完了。」
静かな歓声が上がる。
しかし報告は続く。
ここからが本題だった。
「教導スキル保有教師による教育完了。」
「属性魔法覚醒率九九・七%。」
「超能力覚醒率九六%。」
会議室がざわついた。
ロバートが目を見開く。
「九六%?」
「はい。」
マイケルは微笑んだ。
かつて泣き虫だった青年は、今や世界最高峰の教育者になっていた。
「理由は単純です。」
「病気が才能を潰していました。」
「飢えが才能を潰していました。」
「恐怖が才能を潰していました。」
「教育不足が才能を潰していました。」
「それらを取り除いた結果です。」
誰も反論できない。
この世界には昔から誤解があった。
才能がある者だけが強い。
違う。
才能は元々あった。
開花する環境が無かっただけだ。
ケルナインが証明した真実だった。
マイケルは資料をめくる。
「属性別覚醒数。」
「水属性魔法使い三万八千人。」
「土属性魔法使い三万五千人。」
「風属性魔法使い二万七千人。」
「火属性魔法使い二万四千人。」
「光属性魔法使い一万八千人。」
「闇属性魔法使い一万六千人。」
誰も言葉が出ない。
もはや国家軍事力を超えていた。
さらに続く。
「超能力覚醒者。」
「テレパシー。」
「テレキネシス。」
「ヒーリング。」
「フォアサイト。」
「クレヤボヤンス。」
「リモートビューイング。」
「サイコメトリー。」
「ピュリフィケーション。」
「各種能力が確認されています。」
セリナが呟く。
「教育でここまで変わるのね。」
マイケルは首を振る。
「教育だけではありません。」
「環境です。」
その言葉に。
会議室が静かになった。
環境が人を育てる。
アルナ連合の根幹思想。
貧困村だった頃。
誰も魔法を使えなかった。
誰も戦えなかった。
誰も未来を信じられなかった。
今は違う。
食べられる。
眠れる。
学べる。
守られる。
だから才能が育つ。
その結果だった。
エミリーが笑う。
「つまり二十万人が仲間になったってことだな。」
「はい。」
マイケルも笑う。
「しかも即戦力です。」
室内の空気が変わった。
二十万人。
食わせる負担ではない。
二十万人の人材。
二十万人の未来。
二十万人の力。
トミーが計算書を出す。
「経済面も問題なし。」
「農地拡張完了。」
「肥料供給増加。」
「飼料供給増加。」
「保存食備蓄増加。」
「魔物資源利用増加。」
「黒字継続。」
マーガレットが頷く。
「市場規模も三倍。」
「商業利益も三倍。」
「物流量も三倍。」
「正直笑うしかないわ。」
昔なら国家崩壊。
今は国家成長。
全てが逆転していた。
その時。
ロバートが立ち上がった。
魔族の大剣使い。
将軍スキル保持者。
統率者。
男は静かに言った。
「なら作るか。」
皆が見る。
ロバートは迷わない。
「連合軍だ。」
沈黙。
そして。
誰も反対しなかった。
エレノアが問う。
「規模は?」
ロバートは即答する。
「十五万。」
ざわめきが起きる。
しかし現実的だった。
残りは教師。
農民。
職人。
治療師。
物流。
生産。
国家を支える者たち。
ロバートは続ける。
「全員兵士じゃない。」
「全員が戦える国民だ。」
それがアルナ連合だった。
農民も戦う。
教師も戦う。
職人も戦う。
商人も戦う。
必要な時だけ。
普段は働く。
だから強い。
だから潰れない。
だから育つ。
翌日。
連合軍創設式典が開かれた。
アルナ村。
ベルグ村。
ノース村。
ハイランド村。
リーフ村。
ストーン村。
六村合同。
二十八万五千人が見守る。
巨大広場。
無数の旗。
青空。
そして壇上。
ロバートが立つ。
隣にはエミリー。
セリナ。
マイケル。
ミシェル。
各村代表。
そして少し離れた場所に。
ケルナインがいた。
前には出ない。
最初から変わらない。
育てるだけ。
決めるのは彼ら自身。
それが旅人の流儀だった。
ロバートが叫ぶ。
「連合軍創設を宣言する!」
歓声。
地響き。
空が震える。
十五万人が拳を上げた。
獣人。
エルフ。
ダークエルフ。
ドワーフ。
魔族。
人族。
鳥人。
亜人。
かつて迫害された者たち。
捨てられた者たち。
見捨てられた者たち。
今は違う。
皆が同じ旗の下にいた。
ロバートが続ける。
「我々は侵略しない!」
歓声。
「我々は略奪しない!」
歓声。
「我々は奴隷を認めない!」
歓声。
「我々は民を守る!」
歓声。
「我々は仲間を守る!」
歓声。
「我々は未来を守る!」
歓声。
声は大地を揺らした。
そして。
新たな組織が生まれる。
第一軍団。
軍団長ロバート。
十五万人の中核。
第二軍団。
軍団長エミリー。
獣人主体。
機動戦特化。
第三軍団。
軍団長セリナ。
索敵。
暗殺。
情報戦。
第四軍団。
軍団長ミシェル。
空中索敵。
超長距離警戒。
第五軍団。
軍団長マイケル。
治療。
教育。
後方支援。
戦争をするための軍ではない。
人を守る軍。
国家を守る軍。
未来を守る軍。
その姿を見ながら。
ケルナインは静かに空を見る。
何も言わない。
言う必要がない。
既に答えは出ていた。
貧困村だった場所。
盗賊に怯えていた人々。
病で死んでいた子供たち。
教育を知らなかった世界。
その全てが変わった。
人材こそ国家。
環境が人を育てる。
その思想は。
二十万人の難民を。
十五万の連合軍を。
六つの村を。
そして二十八万五千人の未来を生み出した。
夕陽が広場を染める。
歓声は止まらない。
誰かが守る国ではない。
皆で守る国。
連合軍はその象徴だった。
そしてこの日。
大陸の歴史は再び動き始める。
辺境の小さな貧困村から始まった奇跡は。
もはや誰にも止められない規模へ成長していた。




