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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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14話 セリナ

朝。


防壁の上に並ぶ首はまだ残っていた。


風が吹く。


干からび始めた盗賊達の顔が揺れる。


村へ入ろうとした旅人達が顔を青くしながら通り過ぎる。


中には逃げ帰る者もいた。


セリナはその光景を静かに見ていた。


長い黒髪を風が揺らす。


ダークエルフ。


迫害。


差別。


追放。


流浪。


それらは珍しい経験ではない。


だからこそ理解できる。


この首は見せ物ではない。


警告だ。


この村を襲えばこうなる。


その宣言だ。


「……当然ですね」


小さく呟く。


盗賊達は村を襲った。


人を殺した。


女や子供を売った。


何度も繰り返した。


だから処刑された。


そこに同情はない。


罪があり。


罰があった。


それだけだ。


セリナが考えていたのは別のことだった。


「問題はその後ですね」


彼女は村を見る。


普通なら。


戦いが終われば緩む。


酒を飲む。


安心する。


訓練をやめる。


そして次の襲撃で死ぬ。


それがよくある話だ。


しかし。


この村は違った。


畑では村人が働いている。


子供達が走っている。


井戸には列ができている。


誰も騒いでいない。


誰も浮かれていない。


誰も怯えていない。


妙だった。


非常に妙だった。


だからセリナは歩いた。


村を観察するために。


まず向かったのは畑だった。


エミリーがいた。


狼獣人の女。


かつては村で最も強かった。


そして最も追い詰められていた。


今は違う。


畑仕事を終えた後。


彼女は一人で訓練していた。


水球が浮かぶ。


三つ。


五つ。


十。


以前ならあり得ない。


セリナは知っている。


エミリーは魔法が得意ではなかった。


才能が無かったわけではない。


教える人間がいなかった。


それだけだ。


水球が変形する。


縄になる。


鞭になる。


輪になる。


さらに変わる。


牢獄。


水で作られた檻。


盗賊一人を閉じ込められるほどの大きさ。


「また上達しましたね」


セリナが声をかける。


エミリーが振り向いた。


「セリナか」


「訓練ですか?」


「当たり前だろ」


エミリーは笑う。


昔の刺々しさが少し消えている。


「前は盗賊が怖かった」


「今も怖い」


「でもな」


彼女は水牢を消した。


「勝てる方法が分かると怖さは減る」


セリナは黙って聞く。


エミリーが続けた。


「捕縛」


「拘束」


「水鞭」


「水刃」


「水弾」


「全部使い道が違う」


「教えられるまで考えたこともなかった」


そう言って笑う。


以前なら。


力だけで戦っていた。


今は違う。


考えて戦う。


環境が変わった。


だから人も変わった。


セリナはその事実を記憶した。


---


次に向かったのは広場だった。


マイケルがいた。


子供達を集めている。


以前なら泣き虫だった少年。


今は違う。


「魔力を動かすんだ」


「焦らなくていい」


「ゆっくりでいい」


子供達が目を閉じる。


魔力循環訓練。


ケルナインが教えたものだ。


驚くほど地味。


驚くほど退屈。


だが効果は絶大。


身体が強くなる。


疲れにくくなる。


病気になりにくくなる。


魔法の成長速度が上がる。


何より。


誰でもできる。


才能が必要ない。


それが大きかった。


「できた!」


子供が叫ぶ。


小さな火が灯る。


マイケルが嬉しそうに笑った。


「すごいぞ!」


「初成功だ!」


子供達が歓声を上げる。


セリナは足を止めた。


これも普通ではない。


普通の魔法使いは教えない。


知識を独占する。


希少価値になるからだ。


しかし。


この村では違う。


教える。


育てる。


増やす。


それが当たり前になっている。


---


さらに歩く。


井戸。


倉庫。


畑。


住居。


どこを見ても同じだった。


人が育っている。


そして。


誰か一人に依存していない。


ケルナインがいなくても動いている。


そこが恐ろしい。


英雄が村を救う話なら珍しくない。


しかし。


英雄がいなくても回る村を作る話は珍しい。


セリナはようやく理解した。


この村の異常さを。


---


夕方。


ケルナインは畑にいた。


黙々と土を見ている。


セリナが近付く。


「質問があります」


ケルナインは顔を上げた。


「なんだ」


「あなたは何を作っているのですか?」


しばらく沈黙。


やがて答える。


「畑だ」


「そういう意味ではありません」


「なら村だ」


「それも違います」


ケルナインは少し考えた。


そして答えた。


「人だな」


セリナは目を細めた。


予想通りだった。


「やはり」


「何がだ」


「あなたは村を作っているのではない」


「人を育てている」


ケルナインは否定しない。


「人が育てば村は勝手に育つ」


「逆は難しい」


その一言で十分だった。


セリナは確信する。


この男は支配者ではない。


王でもない。


英雄でもない。


教師だ。


それも極めて優秀な。


環境を整える。


学ぶ場を作る。


成長する仕組みを作る。


そして後は任せる。


だから人が育つ。


だから村が育つ。


だから強くなる。


「なるほど」


セリナは小さく笑った。


初めてだった。


心から納得できたのは。


「なら私も協力しましょう」


「好きにしろ」


相変わらず素っ気ない。


だが。


その言葉で十分だった。


ダークエルフの頭脳。


観察力。


情報収集能力。


分析能力。


それらがこの村に加わる。


小さな貧困村は。


また一歩。


強くなった。







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