123.7話 後編「資源革命」
戦争が終わった。
しかし。
本当の仕事はここからだった。
十五万体。
魔物十五万体。
普通の国家なら災厄。
普通の国家なら処理できない。
普通の国家なら腐敗し、疫病が発生し、農地を汚染し、周辺地域を死の土地へ変える。
だが。
アルナ村連合とヴァレリア商社にとって。
それは資源だった。
巨大な資源だった。
朝。
中央会議場。
マーガレット・ヴァレリアが長机の前に立つ。
各村代表。
各産業代表。
教師。
職人。
商社員。
全員が集まっていた。
壁には巨大な数字が並んでいる。
魔石。
皮。
骨。
肉。
内臓。
牙。
角。
毒袋。
全てが数値化されていた。
トミーが資料を配る。
「利益予測です。」
会場が静かになる。
トミーは笑った。
昔なら想像もできなかった。
狐獣人の元流民。
その男が今や巨大経済圏の物流責任者だった。
「魔石売却予測。」
「武器素材売却予測。」
「魔道具素材売却予測。」
「保存食売却予測。」
「肥料販売予測。」
数字が並ぶ。
会場がざわついた。
誰もが理解した。
桁がおかしい。
エレノア侯爵ですら驚いていた。
「国家予算級ですか……。」
トミーは頷いた。
「ええ。」
「国家予算どころではありません。」
「複数国家分です。」
静まり返る。
十五万体。
それほどの価値だった。
マーガレットは言う。
「使い切るわよ。」
「無駄は一切なし。」
「全部使う。」
即座に各部署が動き始めた。
最初に動いたのは紡織部門だった。
リーザ。
リーブ。
リーゼ。
三人のエルフ職人。
彼女たちの工房では巨大な皮の山が積まれている。
耐水皮。
耐熱皮。
防刃皮。
魔力伝導皮。
全て品質別に分類済み。
リーザが笑う。
「冬服三年分。」
リーブが頷く。
「毛布五年分。」
リーゼも資料を見る。
「輸出用高級品も大量生産できます。」
紡織工場が稼働する。
魔導織機。
自動裁断。
自動縫製。
全て商社技師団が改良した設備だった。
かつては数人しかいなかった職人。
今では数千人。
さらに教師がいる。
教導スキル覚醒者もいる。
新人育成速度が異常だった。
環境が人を育てる。
その結果だった。
次に動いたのは農業部門。
大量の骨。
大量の血液。
大量の内臓。
普通なら廃棄物。
しかしここでは違う。
資源。
ガイルが骨の山を見て笑った。
「砕け。」
ドワーフたちが魔導粉砕機を動かす。
轟音。
骨が砕ける。
粉になる。
骨粉肥料。
大量生産。
さらに血液。
発酵。
熟成。
液体肥料。
内臓も処理される。
腐敗ではない。
管理された分解。
全て計画済み。
農業教師たちが計算する。
「来年の収穫予測。」
「さらに二割増。」
「三割も可能。」
周囲が頷く。
食料充足率五百%。
それでも増える。
理由は単純。
人材が増えるから。
技術が増えるから。
教育が続くから。
農業革命は終わっていなかった。
まだ成長している。
次は畜産部門。
大量の肉。
巨大な魔物肉。
全てが食卓へ向かうわけではない。
飼料加工。
保存加工。
乾燥。
燻製。
塩漬け。
発酵。
グランとバルドが中心になっていた。
「塩。」
「香辛料。」
「発酵。」
次々に工程が進む。
巨大な倉庫が埋まっていく。
保存食。
戦闘食。
遠征食。
輸出品。
数年分。
備蓄はさらに増えた。
グランが笑う。
「飢える未来が見えん。」
周囲も笑う。
数年前。
飢餓に苦しんでいた村だった。
今では食料を輸出している。
それも国家規模で。
午後。
アリアの研究所。
大量の魔石が並ぶ。
巨大な保管庫。
数万個。
数十万個。
アリアは魔石を観察していた。
商社技師団が資料を持ってくる。
「解析完了しました。」
「品質は予想以上です。」
アリアは笑う。
「当然。」
「教育された戦士が倒した魔物だから。」
「雑な狩りをしていない。」
高品質。
高純度。
高効率。
全てが揃っていた。
技師たちは新しい設計図を広げる。
魔導農具。
魔導冷蔵庫。
魔導照明。
魔導通信機。
マジックバッグ。
転移設備。
新型魔導織機。
新型精製装置。
新型粉砕機。
全て魔石が必要だった。
そして。
今は余るほどある。
アリアが呟く。
「技術革新の時間ね。」
周囲の研究者が笑った。
百年以上研究してきた魔女。
それでも興奮していた。
夕方。
利益計算会議。
トミー。
マーガレット。
セリナ。
エレノア。
各村代表。
巨大な表が広げられる。
総利益。
生産予測。
投資計画。
未来予測。
全て数字で見える。
セリナが言う。
「利益独占はしません。」
誰も驚かない。
それがこの共同体だった。
支配ではない。
育成。
自立。
循環。
トミーが頷く。
「各村へ分配。」
「生産能力に応じて。」
「教育実績に応じて。」
「防衛貢献に応じて。」
「技術提供に応じて。」
公平。
透明。
誰でも見られる。
誰でも確認できる。
不正が入り込む余地はない。
数字は公開される。
マーガレットが笑った。
「商売ってね。」
「信頼が一番高い商品なのよ。」
皆が頷く。
アルナ村。
ベルグ村。
ノース村。
ハイランド村。
リーフ村。
ストーン村。
全てへ利益が流れる。
道路整備。
学校建設。
病院拡張。
農地拡張。
研究所建設。
防衛施設建設。
全部できる。
そして夜。
各村へ報告が届いた。
人々は驚く。
歓声が上がる。
泣く者もいた。
昔を知っているから。
貧困。
病。
飢餓。
略奪。
絶望。
それを知っているから。
だから今が分かる。
資源革命。
十五万体の魔物。
それは終わった戦争の残骸ではない。
未来だった。
教育の成果だった。
環境が人を育てる。
育った人が資源を活かす。
資源がさらに環境を良くする。
良い環境がまた人を育てる。
循環。
それこそが強さだった。
高台の上。
静かな夜風。
遠くに灯りが見える。
学校の灯り。
工房の灯り。
研究所の灯り。
病院の灯り。
人が学ぶ灯り。
人が働く灯り。
人が育つ灯り。
十五万の魔物は消えた。
残ったのは。
十五万の資源。
そして。
さらに豊かになる未来だった。




