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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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122話 奴隷軍団

キンペイ帝国軍との戦いが終わった。


アルナ村。


ベルグ村。


ノース村。


ハイランド村。


リーフ村。


ストーン村。


六つの村は勝利した。


しかし。


戦場には大量の捕虜が残されていた。


その数。


約七万人。


敵兵だった者達である。


ロバートは捕虜収容地を見渡した。


兵士達は痩せていた。


鎧はボロボロ。


顔色も悪い。


目に生気がない。


まるで飢えた難民だった。


「これが敵軍か……」


ロバートは眉をひそめた。


戦う前は違った。


残虐な侵略軍。


奴隷軍団。


そう聞いていた。


しかし実際は違う。


老人もいる。


少年もいる。


女性もいる。


農民もいる。


職人もいる。


まともな訓練すら受けていない者もいた。


セリナが報告書を開く。


「調査完了。」


「七万人のうち。」


「純粋な職業軍人は一万二千。」


「残りは徴兵。」


「もしくは奴隷です。」


空気が重くなる。


エミリーが拳を握った。


「奴隷……」


「こんな人数をかい?」


セリナは頷く。


「キンペイ帝国では普通です。」


「働け。」


「戦え。」


「死ね。」


「それだけ。」


誰も言葉を失った。


戦った相手は軍隊ではない。


使い潰される民だった。


・・・


翌日。


捕虜達へ食事が配られた。


パン。


野菜。


肉。


スープ。


捕虜達は動かなかった。


誰も信じていない。


毒だと思っている。


罠だと思っている。


当然だった。


キンペイ帝国ではそうだった。


価値の無い人間に食料など与えない。


すると。


マイケルが座った。


捕虜達の前に。


そして普通に食べ始めた。


「美味しい。」


笑顔だった。


少年のような笑顔だった。


捕虜達が戸惑う。


マイケルは言う。


「食べてください。」


「大丈夫です。」


「余ってますから。」


誰も動かない。


すると。


エルナがスープを差し出した。


「冷めちゃいます。」


「せっかく作ったんですよ。」


優しい声だった。


やがて。


一人。


また一人。


食べ始める。


涙を流しながら。


食べる者もいた。


・・・


その夜。


収容地で異変が起きた。


泣き声だった。


兵士ではない。


奴隷兵の少年だった。


「帰りたい……」


「母ちゃん……」


誰にも聞こえないと思っていた。


しかし聞こえた。


リーヴだった。


狼獣人の耳は良い。


リーヴは何も言わなかった。


ただ毛布を置いた。


少年が驚く。


「なんで……」


リーヴは短く答えた。


「寒いだろ。」


それだけだった。


・・・


数日後。


調査が始まる。


アリア。


セリナ。


トミー。


ミシェル。


全員が動いた。


鑑定。


念視。


過去視。


聞き取り。


経歴確認。


犯罪者。


奴隷商。


強盗。


虐殺犯。


それらは分離された。


一方。


農民。


職人。


織工。


鍛冶師。


木工職人。


教師。


薬師。


治療師。


そうした者達もいた。


トミーが驚く。


「人材の宝庫じゃねぇか。」


セリナも頷いた。


「国が潰した人材です。」


・・・


再教育が始まった。


強制ではない。


選択制だった。


働きたい者は働く。


学びたい者は学ぶ。


帰りたい者は帰る。


ただし。


キンペイ帝国へ帰れば再び奴隷になる。


皆知っていた。


だから残った。


・・・


最初に変わったのは子供達だった。


学校。


教科書。


教師。


給食。


遊び場。


全部ある。


マイケルが授業する。


「失敗していい。」


子供達が驚く。


失敗していい。


そんな言葉を初めて聞いた。


・・・


次に変わったのは職人達だった。


ベルン。


ガイル。


グラン。


バルド。


職人達が弟子を取る。


鍛冶。


建築。


醸造。


調味料。


薬学。


技術が広がる。


・・・


リーンは薬師達を集めた。


薬草栽培。


抽出技術。


衛生管理。


薬品製造。


治療院と連携する。


薬師達は驚いた。


こんな環境は見たことがない。


・・・


リーザ。


リーブ。


リーゼ。


紡織工房。


新しい織工達が加わる。


布が増える。


服が増える。


仕事が増える。


生活が豊かになる。


・・・


半年後。


元奴隷兵達は完全に変わっていた。


誰も命令されていない。


自分で考える。


自分で働く。


自分で学ぶ。


自分で生きる。


それが当たり前になった。


・・・


ある日。


ロバートが広場を歩いていた。


そこで見た。


元奴隷兵だった青年。


教師になっていた。


子供達へ読み書きを教えていた。


ロバートは笑う。


「変わったな。」


青年は笑った。


「違います。」


「変われたんです。」


「ここで。」


その言葉に。


ロバートは何も返せなかった。


・・・


夕暮れ。


村は賑やかだった。


学校。


治療院。


農地。


工房。


紡織工場。


市場。


子供達の笑い声。


働く大人達。


誰も奴隷ではない。


誰も所有されていない。


セリナが静かに言った。


「敵軍七万人。」


「今は村人七万人。」


エミリーが頷く。


「戦って勝つだけじゃない。」


「生き方まで変えた。」


ロバートも空を見上げる。


侵略者として来た者達。


その多くは。


本当は救われる側だった。


環境が人を育てる。


教育が人を育てる。


七万人の元奴隷兵は。


今や六つの村を支える新しい村人となっていた。







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