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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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118話 新品種開発・病害対策・他村への技術普及

研究施設農業棟が完成して一か月。


東部村落連合合の農業研究は、すでに次の段階へ進んでいた。


食料不足を解決するだけの時代は終わった。


今は違う。


より多く。


より強く。


より安定して。


人を育てる農業へ。


研究そのものが目的になり始めていた。


朝。


研究施設農業棟。


巨大な会議室には農民、研究員、薬師、教師たちが集まっていた。


前方に立つのはアリア。


隣にはリーン。


そして複数の農業教師。


壁には大量の資料が貼られている。


収穫量。


病害発生率。


発芽率。


保存期間。


各村から集められた膨大な情報だった。


「まず新品種開発について報告します」


アリアが言った。


室内が静まる。


「現在試験中の小麦は三十二種類」


ざわめきが起きた。


三十二種類。


普通の農村では考えられない数字だった。


農民は種を植える。


終わり。


研究などしない。


そんな時代だった。


しかし東部村落連合合は違う。


種を比較する。


記録する。


検証する。


改善する。


教育がそれを可能にしていた。


リーンが説明を続ける。


「乾燥に強い系統」


「病害に強い系統」


「成長速度重視」


「保存性重視」


「製粉向き」


「パン向き」


「麺向き」


農民たちは真剣な表情で聞いていた。


知識は武器だ。


それを理解している。


かつて貧困村だった者たちが。


今では研究者になっていた。


環境が人を育てる。


ケルナインの思想は現実になっていた。


その時。


若い農民が手を挙げる。


「先生」


「なんだ?」


「乾燥地向け品種を優先する理由は?」


アリアは即答した。


「未来のためよ」


全員が注目する。


「今は豊か」


「でも未来永劫そうとは限らない」


「干ばつは来る」


「気候は変わる」


「備えるのが研究」


農民たちは頷いた。


経験がある。


飢えた経験が。


病で家族を失った経験が。


だから理解できた。


豊かな時に備える。


それが本当の強さだと。


午後。


試験農場。


広大な区画には様々な作物が並んでいた。


小麦。


大麦。


豆類。


芋。


野菜。


果樹。


さらに新しく導入された試験品種。


研究員たちが観察している。


リーンは一株の麦を手に取った。


鑑定。


結果が表示される。


「病害耐性上昇」


「収穫量増加」


「保存性向上」


周囲から歓声が上がる。


成功だった。


新品種開発。


この世界にはその概念すら存在しなかった。


良い種を残す。


さらに良い種を残す。


繰り返す。


地味な作業。


しかし国家を変える力だった。


その頃。


別区画。


病害研究班。


ここでは別の戦いが行われていた。


敵は盗賊ではない。


奴隷商でもない。


病だ。


作物の病。


葉を枯らし。


実を腐らせ。


収穫を奪う。


貧困村時代。


何度も村を苦しめた敵だった。


リーン。


エルナ。


マイケル。


薬師たち。


治癒師たち。


多くの人材が集まっている。


マイケルが葉を観察した。


「原因は菌ですね」


リーンが頷く。


「間違いないわ」


エルナが静かに言う。


「人の病と同じですね」


確かにそうだった。


原因を探る。


広がり方を調べる。


対策を考える。


研究とは共通している。


マイケルは薬液を取り出した。


浄化薬。


リーンが開発した試作品。


ピュリフィケーション。


薬草知識。


発酵技術。


全てを組み合わせた成果だった。


散布。


数日後。


病害は明らかに減少した。


歓声が上がる。


農民たちは飛び跳ねた。


収穫を守れる。


それは命を守ることと同じだった。


エルナは微笑んだ。


「これで子供たちがお腹を空かせずに済みますね」


誰も笑わなかった。


皆が本気で頷いた。


飢えを知る者たちだから。


その言葉の重さが分かる。


夕方。


研究施設通信棟。


今度はセリナが中心に立っていた。


机の上には地図。


アルナ村。


ベルグ村。


ノース村。


ハイランド村。


リーフ村。


ストーン村。


さらに周辺の協力村。


数十の村が記されている。


「次の議題」


セリナが言う。


「技術普及」


農業研究は成功した。


問題はここからだった。


知識を広げること。


一部だけが豊かになっても意味はない。


環境を広げる。


教育を広げる。


それが東部村落連合合だった。


教導スキル保持者たちが集まる。


教師。


農民。


薬師。


職人。


六万人を超える教師集団。


国家規模の教育組織だった。


「研究結果を全村へ配布」


「教師派遣」


「現地指導」


「試験農場設置」


次々と決まっていく。


ケルナインは会議の後方にいた。


何も言わない。


必要ない。


皆が自分で考えている。


皆が自分で決めている。


それこそが理想だった。


夜。


研究施設の灯りは消えない。


農民たちが学ぶ。


教師たちが教える。


研究者たちが記録する。


かつての貧困村。


盗賊に怯え。


病に苦しみ。


飢えに泣いた土地。


その面影はもうない。


あるのは学ぶ者たちの姿だった。


新品種開発。


病害対策。


技術普及。


全ての根底にあるものは同じ。


環境が人を育てる。


教育が人を変える。


人材こそ国家。


その思想は研究施設から広がり続けていた。


そして農業革命はさらに加速する。


一つの村から始まった変化は。


やがて大陸全体を変える力へと成長していくのだった。







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